第十ニの問い「ソウシとは仲良くなれるっぽいか……?」
「なんであんたがいるんだよ」
「こっちのセリフだ、バカ」
なぜか、星空がよく見えるテラスで、あたしとソウシはばったりと会いました。
いやー、本当は靴のつま先が出口に向かってるんだけどね。まあ、こいつも逆ハーの対象だし、この機会に奴と親睦を深めておこうではないか!
「えーっと、そういえば、ソウシって、なんで男の人が好きなの?」
あたしがこわごわ聞くと、ソウシは少し怒っているのか、声を荒げながら答えた。
「君が男の人を好きなる理由と同じだよ」
「え……? あたし、恋愛はあまり好きじゃないなぁ……っていうか、恋愛って、したことないし」
そういうと、ソウシが信じられない、という風に目を大きく見開いた。
な、何か文句あるの!?
「意外だね。疎い女子キャラとかマジでうざい! とか言いそうなのに」
「あたしは疎くないの。ただ興味がないだけ。機会がないっていうのもあるし、ゲームの中のほうが、よっぽと安心してできるじゃない? だから、リアルでは避けて通ってきた道というか……そんなところ」
くるりとつま先の位置をソウシに向け、あたしはあいつの上に広がっている、ピカピカと光る星空を見ながら答える。
ああ、きれいな夜空だ……。
あたしがじっと上を見ていると、いきなり噴出したソウシ。
「……ぷっ……! あんたに星空とか、似合わねー」
「失礼にもほどがあるわよ! あんたねぇ! 女装していなかったら、もっといい絵になってたのに」
「え、ということは、今でも絵になってるってこと?」
ぴら、とピンクのマーメイドドレスの裾を持ち上げ、にこりと笑う。
あ、あたしはないと思うっ!
「正直になりなって。ま、僕は男性以外はこの瞳に入ってこないんだけどね。不思議と。だから君も僕の視界には入っていないよ」
あたしを指さし、くすくす笑いながら言うソウシに、あたしは回し蹴りをする。
しかし、奴はギリギリのところでしゃがみ、代わりにあたしの足を払う。
盛大にしりもちをつくあたし……。
「なんだ、弱いな」
「本物と偽物の違いがよぉーくわかっただろ。本物はか弱いんだよ」
「え? 自分、偽物って認めちゃった?」
「どう考えてもお前が偽物だろ、この変態ホモ女装男子!」
Q、ソウシとは仲良くなれるっぽいか……?
A、うーん、まず意欲を持たなきゃね……。
口論を始めてから約三分の間に、あたしたちはいろいろと罵り合った。
「だいだいね、女装の恰好がいくらかわいいからって、男が釣れるとか思ってんじゃないわよ!」「釣れるよ。僕は、君よりかわいい自信がすっごくあるんだけど?」「可愛くっても中身は男だろ! 性転換してからそういうセリフ吐けよ!」「いいさ性転換してやるよ。異世界にトリップして性転換してやるよ」「どういう目的でお前が召喚されるわけ?」「お前みたいに? 逆ハー作れって」「無理に決まってるでしょ! 性別の時点で無理!」「いやぁ? わかんないよ。だって、性転換したら中身女の子だし?」
他にも色々と言い合っていたが、すべて書くと貴重な行がつぶれてしまうので、ここらへんにしておこう……。
とにかく、あたしと罵り合いをしていたソウシに、運悪く見つかってしまったのは、
「あっ! ジェル兄様! ディナーはいかがでしたか?」
くるくるの巻き毛が目立つ、ジェル君。
女の人が苦手なジェル君は、壮絶な罵り合いをしていたあたしたちを、好奇心で観察していたが、見つかってしまったらしい。
「あの、僕に関係なくお二人は修羅場をしていてください……!」
「ジェル兄様。今夜のお約束、忘れていませんよね……?」
上目づかいで聞くソウシに、涙目だが何とか反論したジェル君。
「わ、忘れました、そんな約束!」
「では、今から行きましょう、お部屋に」
ぐいぐいと引っ張るソウシ。
見た目こそ女の人だが、腕力は男だ。か弱いジェル君は、かわいそうに、ソウシに連れ去られてしまった。
「頑張って、ジェル君……」
彼らの背中と、ジェル君の「助けてーっ!」という悲鳴を聞きながら、あたしは同情の目を向け、合掌した。
無事に、今日を乗り切ってほしい……。