第十一の問い「楽しいディナーになりそうか?」
「兄様と一緒に祭に行ったとか、死ね糞野郎! いっそのこと地獄に落としてやるよ!」
屋敷に戻ると、玄関のところで、敵意丸出しなソウシがうなっています。
「にしても、恋を叶えた、とかいいこと言っているけど、実際のところ、二人とも両想いだったんだからその噂デマだよね!? はいそのたっかぁーい鼻ひっこめろー」
あたしの鼻の上をちょんちょんと突っつくソウシ。
ちょっ、くすぐったいんだけど!
「でも、兄さんも兄さんだよ。なんでこんな糞尼と一緒に出掛けようとか思ったのさ。僕のほうが断然かわいいのに」
体をくねらせながら近づいてくる弟を、うっとおしそうに手で払う兄。
彼……というか彼女? は、露出度高めのチュニックに、クリーム色のムートンブーツ。
もはや自分の性別忘れてるよね、あんた。
「ふん。かわいいからいいんだよ。あんたは根性ごと腐ってるよね」
「見た目から性格まで腐ってるあんたに言われたくないんだけど」
ぱちぱちと火花を散らすあたしたちに、レイが静止に入る。
「おら、いい加減にしろよ。保崎は早く部屋に戻ってろ。ソウシは――」
「今夜のレスチャーでもしてあげましょうか、お兄様」
「断じて断る! お前は男の服を着て、部屋に戻れ!」
えー、と文句を言うソウシを無理やり引っ張って、レイが廊下の向こうに消えて行った。
「……ったく、仲がいいんだか悪いんだか。よくわからない……」
一人残ったあたしは、ポツリとつぶやいてみる。
うん、さみしい・むなしいのコンボだ。
「誰かいないかなー」
「呼んだ?」
「呼んでない、遊び人」
さっきからいたとしか思えないほどの速さで、クロードが廊下の陰から出てくる。
「ほら、もう日が暮れてきたから、僕の部屋にでもおいでよ」
「意味わかりません。あたしは部屋に戻ります」
「それって、迎えに来てって誘ってるの?」
「違うーっ!」
ぶん、と腕を振りまわり、振り切る。
わざと足音を立てて去っていくが、とてとてと、捨て犬の目でついてくる。
しばらくシカトしていたが、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「さっさと自分の部屋に戻れ、ばかー!」
「え、これからディナーだよ? そのために君を探してたんじゃないか」
だったら早く、言えっ!
あたしは忌々しいクロードの足を踏みつける。
「ごめんね、僕、結構M気もあるんだ」
死ね、糞っ!
とは言わず、表情にだけとどめておく。
「うん、それじゃあ一緒にディナーに行こうか。席は隣に座りたいなぁ。あ、秀名ちゃん、成人してる?」
さまざまな質問を繰り返してくるクロードに、あたしはもう一度、顔面パンチを食らわし、すたすたと、ディナーの会場に入って行った。
Q、楽しいディナーになりそうか?
A、いやー、無理っしょ。あの面子なら。
「それでは、いただきまーす!」
目の前の皿には、肉、肉、肉ぅ~っ!
「これ、本当に全部いいんですか!?」
「ああ、食え食え。まだまだあるぞ」
遠慮なくいただくあたしに、隣に座ったレイが、不安そうに眉をひそめる。
「お前、せっかくのドレス、汚すなよ」
心配なところはそこかい。
確かに、このオレンジのミニドレス、高そうだけれども……。
「さあ、成人したヤツは飲め」
「お父様、成人したものなど、僕たちの中に一人しかいませんが」
灰色の背広を着たシェルが、呆れ顔で言う。
なんだ、成人した人、一人しかいないんだ。
「うん。僕たち、クロード兄さんが二十歳、アシル兄さんが十九、レイ兄さんが十八、僕とジェルが十五、ソウシが十四だから」
「へー。結構歳、同じなんだね」
「そう。それで、秀名が十六でしょ? ソウシと二歳離れてるねー」
な、なんでここでソウシの名前を出す……?
すると、今までサラダを黙々と食べ続けていたソウシが、ぴく、と肩を震わせる。
「シェルお兄様、なぜ、僕の名前をお出ししたのですか……?」
「そりゃあ、そしたら面白くなるからに決まってるじゃん」
「お兄様、今晩、お部屋に遊びに行きますね?」
黒い笑みを浮かべたソウシが、席を立つ。
何故、みんな、彼が、ピンクのマーメイドドレスを着ているのにツッコまないのだろうか……。
まあ、それは置いておいて(よくないが)、一人席を立ち、しかもシェルが硬直している空気の中、楽しいお食事会、というわけにはいかなかった。
みな、黙々とコース料理を食べ続け、あたりからは食器が当たる音しか聞こえない。
そんな空気に耐えきれなくなったあたしが、こそりと部屋を出た。