第十の問い「他人の恋を操れるのか?」 後編
「ごめんね、待った?」
ナチュラルなポロシャツに、深緑色のカーゴパンツ。いかにも私服、といった格好をしたカロさんが、待ち合わせ場所に現れた。
うん、服装はまあまあね。あんまり気合入れてないみたい。かといって、手抜きそうでもないし……どんな心でここに来たのか、読み取れない。
「ま、待ってないです、ないです! というかあたしが早かっただけで!」
時計を確認すると、待ち合わせ時間ぴったり五分前。
カロさんのキャラが読めない……。
「そうなんだ。何時に来たの?」
「い、今来ました!」
嘘つけ……待ち合わせ時間の三十分前には来ただろ……でも、そんな乙女心、かわいい!
「……お前、さっきからぶつぶつ何言ってるんだ……? せっかく服で磨かれたのに、そんな行動じゃ、意味ないぞ……」
パステルカラーのワンピースに、レギンスというあたしのスタイルに、妙な表情をしたレイが、ツッコむ。
そんな彼は、目印ともいえる、冬の夜空のような黒髪を茶色く染め、さらにはメガネをかけた、変装っぷりだ。
一応王子だということは隠せているようだが、やはりその顔立ちの良さで一気に黄色い歓声が。
近くの女の子の集団が、「あの女の人、彼女かな?」「えー、違うでしょ、兄妹か何かだよ」「やっぱー? 釣り合わないよねー」という会話をしながら、あたしの横を通り過ぎる。
「……レイってさ、何歳?」
「十八だが?」
二歳差か。うん、そりゃあ、兄妹に見えるわな。
じゃなくて!!
いいのかあたし、あんなうっざい性格した奴らに、ブスとかなんだとか言われて!
「ブスは言われていないだろう……」
「言われてるの! あたし的には! ああもう、服だけがかわいすぎて、釣り合わない……あんたとじゃなくて、服との相性だからね」
「それくらい言われなくてもわかるわ! ほら、あいつらが移動するぞ。追え」
あたしの手を引っ張りそういうレイ。
ああ、こういう少女漫画的尾行、好きじゃない……ってか、似合わない……。
☆ ☆ ☆
「あれ食べたいです!」「あそこに行きましょう!」「あれはなんですか?」「ほら、カロさん、早く早く!」
ダメだーーーーっ!!!!
あたしは、お出かけ開始から一時間たったとき、とうとうミルさんを呼び出した。
「あんた、やる気あんの?」
明らかにガラの悪そうな声を出す。
すると、ミルさんは、はっ、となにかを思い出し、
「あ、今日はあたしの恋を叶えるために来たんですよね!」
「やる気ないでしょ。あたし、人ごみ苦手だし、帰ろうか?」
そういって元来た道を歩こうとするあたしの手を、ミルさんが引っ張る。
「ああああああっ! すみませんすみません! お願いです、帰らないでくださいっ! ちゃんとやりますからぁーーっ!」
泣きながら頼んだ彼女に、あたしはさすがに情がわき、戻る。
「ほっ……それで、具体的にどうすれば……」
「そういうと思って、応募してきたぞ」
いいことをした、とでもいうように、レイがドヤ顔で、白いステージを指さす。
そこには赤い、大きな蝶ネクタイをした男性と、長机に座っている男女、合わせて数名。
その中でも最も目立つのは、中央に置かれた台と、その上に載った人。
何をするのかと思っていると、急に台の上の人がすう、と大きく息を吸い込み――、
「バカ野郎ーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
思いっきり、叫んだ。
きーん、左側の耳から音が入り込み、右の耳から出ていく感じがする。
「っ……これに、参加するんですかっ!?」
「そうに決まっているだろう」
腕を組み、平然としているレイ。
うん、そのアイディアはいい。
「えっ!? 秀名さんまで……」
「でも、言葉はあたしが考えさせてもらう。これでいい? 最後はあたしに決めさせてよ」
ウインクをしたあたしに、不安そうに涙目なミルさんは、こくりとうなずいた。
☆ ☆ ☆
『さて次は、かわいらしい十代の女の子が挑戦だ! ミルさんっ!』
司会者の人が名前を呼び、おどおどしたミルさんが、舞台袖から出てくる。
ポケットに突っ込んだ手は、あたしが用意したあれが入っているのだろう。
そんなミルさんだが、台の上に上ると覚悟が決まったのだろうか、観客の席にいるカロさんを少し見て、大きく息を吸い込む。
そして、
「あたしは、カロさんが、好きですっ!」
今までのエントリー者よりも小さいが、彼女の精いっぱいの声が響く。
その途端、観客がざわつき、観客にいる「カロさん」を探す。
「ずっと、ではないですが、やさしいあなたに、心が奪われましたっ! これ、受け取ってください!」
そういってミルさんが、カロさんに、あれを投げる。
「え?」
とっさに受け取ったカロさんは、不思議そうな声を出す。
手の中には、小さな、一輪のコスモスが収まっていた。
「あたしの大好きな花ですっ! 受け取ってください!」
震える声を出して、しゃがみこむミルさんに、カロさんは、ふ、と笑った。
「これ」
ステージに上がってきて、カロさんが何かを渡す。
それは、ヒマワリの飾りが付いたピン止めだった。
「これなら例のイベントの一種だと気づかれないかなーって思って用意しておいたんだけど、堂々と言うよ」
顔を上げたミルさんは、真っ赤になっている。
「好きです。付き合ってください」
その途端、ミルさんがうなずくのと同時に、わっ、と歓声が上がった。
Q、他人の恋は操れるのか?
A、あたしが出なくても、大丈夫だったと思うんだけどな……。
「いやー、いいことしたわー」
「何言ってるんだ、お前、告白の言葉考えただけだろ」
「それでも重要なの。あ、おいしそうな肉!」
「肉ってなぁ……」
あきれたレイと一緒に、あたしは夕日が照らす煉瓦の道を歩いています。
両想いになった二人は、ほおっておこう。リア充は敵。
「まあ、イイか。そういえば、これ!」
レイがそっけなく投げたのは、少ししおれ気味のタンポポだった。
「お前にはこれが一番お似合いだよ!」
なんかいいこと言われている気がしない……。
まあいいか。受け取っておこう。
「ありがとう!」
告白シーン、書くのが恥ずかしかったです><
こんなんで恋愛かけるのか……? 私……^^;