第十の問い「他人の恋を操れるのか?」 中編
「うん、あれがカロさんだね。よし、じゃあ行って来い!」
少し歩いたところにある乗馬場で、カロさんを見つけたあたしは、乱暴にミルさんの背中を押す。
「わあっ!?」
背中を押され、バランスを崩したミルさんは、どて、と顔から着地。
どしん、といい音が響く。
その途端、優雅な馬たちが一斉に鳴き始める。
「ど、どうしたんだ……? あ、ミルさん」
ようやくミルさんを見つけたカロさんは、茶色い馬から飛び降り、駆け足で駆け寄る。
「どうなんだ? 今のところ脈ありか?」
ここに来るまでに事情を説明しておいたので、レイがあたしに聞いてくる。
「ああもう、うるさいよ。黙ってて」
耳をふさいだあたしは、二人に神経を集中する。
ミルさんの前にはコマンド。『「ありがとう」』、『「大丈夫だから」』、『何も言わずに手を取る』。
うん、ここは無難にありがとうだろ。相手のキャラも不明だから。
あたしは口パクで、ミルさんに伝える。
すると、伝わったんだかどうかわからないが、ありがとう、と笑っていった。
「ナイス笑顔っ!」
「……お前、つくづく変なやつだな……」
怪しいものを見る目で、レイがあたしを見てくる。
「なんでよ」
「だってそうだろ。他人の恋なんか、ほっときゃいいのに」
あのねえ、と言い返そうと思って、口を開けたが、あたしの言葉の前に、カロさんの言葉。
「よかった。大したことがなくて」
「はぇっ!? ひゃ、ひゃ……」
返す言葉が見つからなかったのか、ひゃ、を連発するミルさん。
にしても、あたしのカンに狂いがなければ、告白してもいけそうな気がするんだけどな……。
そう思って、あたしは手でミルさんを呼ぶ。
「はい? なんですか? あ、もうダメダメとか!? そ、そりゃあ緊張して噛んじゃいますよ!」
「そうじゃなくて。行けんじゃない? 告白しても」
すると、ミルさんの顔が真っ赤になった。
「こ、ここここ、告白ぅ!? いやいやいや、そんなあたしは無理です!」
「え? なんでここまで来て嫌がる。もともとそれが目的だったんでしょ?」
「それでも心の準備があるということですよ!」
「あ、じゃあこうすればいいんじゃないか?」
急に口を挟んできたレイに、ミルさんはひゃあ、と悲鳴を上げる。
な、なぜに悲鳴……?
「あの、いくら王子とはいえ、プライベートに首を突っ込まないで頂けたく……」
「違う。ほら、明日は創立祭だろ?」
「あ、そういえばそうですね」
まった、待った!創立祭って何よ!
「創立祭とは、この国ができた日にちを祝う日なんです。屋台がいっぱい出て、お祭り騒ぎで騒ぐんです」
「その時、男女が好きな相手に花を贈り合うイベントがあるんだけどな……」
あ、その時に告白ってことね。まあ、お祭りだからいいと思う。
そう意見を出したあたしに、ミルさんは、え、でも、とまだいう。
「もう! いいでしょ明日で! この国が創立した日と、あんたたちの仲が創立した日、一緒で! 嬉しいでしょ、そうでしょう!?」
有無を言わせぬあたしの声に、こくこくうなづくミルさん。
「よし、それじゃあ決行だな。明日の朝に、私服で俺の部屋の前に集まれ。作戦会議するぞ」
「うん、そうだね。でも、その前に」
あたしはまた、ミルさんの背中を押す。
「創立祭に誘って来い!」
「あ、それがあったか」
「きゃああああーーーーっ!?」
Q、他人の恋を操れるのか?
A、うーん、ゲームならできるんだけど、わかんない。
「あの、着てきました、私服……」
そういってくるミルさんは、健康的な足を出した、ミニスカート姿。
上は、ハートのワンポイントが付いたTシャツに、薄手のカーディガンを羽織っている。
ほう、私服はあたしの世界と一緒なのか。
「まあ、いいほうだと思うぞ。……むしろ、問題はおまえだろ……」
レイは、肩のところに赤いラインが入った、いつものジャージを着ているあたしを見て、唸る。
「え? だってあたし、参加しないんだしいいじゃん? 遠隔操作するよ。トランシーバーみたいの、無いの?」
ザ・引きこもり発言をしたあたしに、レイはひじ打ちを食らわす。
うぐっっ…………。
「おいメイド、こいつの服も用意してやれ……サイズは同じくらいだろ……」
「か、かしこまりました……」
こ、こんなんで、ミルさんの恋、叶うのか……?
「叶うだろ」
ミルさんが出て行ったあとで、ポツリ、とレイが言う。
「と、言うか、お前が叶えるんだろ」
ニコリ、と、今までに見たことのない笑顔を見せる。
こいつ、笑うといい顔じゃないか……。
「……なんだよ、人の顔じっと見て……」
「なんでもなーい。もうそろそろ、ミルさん来るんじゃなーい?」
あたしは、頭の後ろで手を組み、投げやりに言った。
ま、今はこいつの攻略より、ミルさんの恋だよ!