第十の問い「他人の恋を操れるのか?」 前編
攻略するって啖呵切ったけど、いったいどのようにして攻略するのか……。
あたしは、ドレスが汚れるのを気にせずに、腕を組みながら、屋敷の中を探検中。
等間隔で、高そうなツボが置いてあるのに少しムカッとするけど、まあ、歩いたほうが考えやすそうでしょ。
ぽふぽふと足音を立てながら、慣れないヒールで、歩きまくる。
「三人寄れば文殊の知恵というけれども、一人だし、何も浮かばないし」
真っ白な頭を叩きながら、独り言をつぶやく。
しばらく歩いていると、前からメイドさんが歩いてきた。
白いエプロンドレスに、レースのついたカチューシャ。うん、やっぱソウシのメイド服は趣味のものだな。にしても、よくあんな格好するよねえ……。
と、そんなことを考えていると、普通にすれ違うと思っていたメイドさんに、がし、と腕をつかまれた。
「はいっ!?」
「あの、保崎 秀名さんですよね!?」
ブロンドのツインテールを揺らしながら、切羽詰まった顔であたしに詰め寄ってくる。
「あ、あの、困ります、私いじめとかそういうのは経験したことなくてですねえっ!」
「違います、助けてください、あたしの恋を、指南してください!」
はいーっ!?
☆ ☆ ☆
彼女は、下っ端メイドのミル、というらしい。
メイドなんて、この屋敷に余るほどいるのに、しかも下っ端で、ミルという目立たない名前という、とにかく存在が薄いのが悩みの十八歳だ。
「ってあたしより年上ですかっ!?」
「ははは、いいんですよ……あたしなんかチビで、童顔で、胸もなくて、性格も悪くて影も薄くてドジばっかりしていつも怒鳴られて……」
「あーっ、イイです、もうやめてくださいーっ!」
あたしがとめると、ミルさんは口を閉ざした。
「あたしが唯一褒められるのは、手先が器用なだけです」
唇をとがらせながら言うミルさんに、あたしは何とかフォロー。
「そんなことないですよ。大人の女性感がしますし、髪もきれいですし、手先が器用なんて乙女っぽいし、それから……えーっとえーっとぉ……」
「もういいです秀名さん。本題に入りますね」
肩を落としたミルさんは、やや投げやりに話を変えた。
「あたしが今こうして秀名さんに声をかけたのは、言った通り、恋を指南してほしいんです。まあ、簡単に言うとコントロールです」
これ、と言ってミルさんが写真を取り出した。
写真には、茶色い馬の上に乗る、銀の甲冑を着た男性が写っている。
「この人は……?」
「あたしの思い人、カロさんです。かっこいいでしょう……?」
何故あたしに意見を求めてくる。まあ、確かにかっこいいとは思うが、そこまでずば抜けているわけではない。
つまりは、平均レベルだ。
そんなことを考えていると、涙ぐんでいるミルさんに気が付いた。
「やっぱ平均レベルとか思っているんですねーっ! みんなに言われるんですよーっ……!」
「え、あと、ミルさんは、なんでカロさんのことを好きになったの?」
あたしが聞くと、真っ赤な目で見上げてきた。
「数日前です。あたしは、庭で、親とはぐれた小鳥を発見したんです」
ああ、想像つく……べたなパターンだろ……。
天井を仰いでいると、思い通りの答えが。
「どうしようかと思っていると、カロさんが来て、あとは任せて、って言ってくれたんです。それから……」
「あー、あーっ、わぁかった、わかった。とにかく? どうすればいいの?」
「あたし、こんなこともあろうかと、すでにアプローチ済みなんです。あとは告白だけです」
自信満々に言うミルさんに、あたしは、
「まあ、まずは相手がどう思うかだよね」
「え? 立ち上がって、どうしたんですか? これから何を……」
「もちろん、ミルさんがカロさんと会って、どんな反応をするのか確かめに行くの。まずはそれから始まる」
逢いに行くよ、といったあたしに、ミルさんは赤面しながらも、しぶしぶ立ち上がった。
話していた部屋を出て、しばらくすると、レイにあった。
「……うちのメイド引き連れて、何やってるんだ……?」
怪訝そうな顔をしたレイをスルーして、そのまま進む。
すると、慌ててレイが引っ付いてきた。
「なによ! あんたに関係ないこと!」
「ある! なにかされたら、俺が怒られるんだよ!」
「あんたに関係ないって言ってんでしょ?」
あたしが口げんかを始めようと身構えたとき、ミルさんが、イイです来てください、といったので、レイはドヤ顔。
うっぜぇぇ……。
「来てもいいけど、邪魔しないでよ?」
「だから、何をするんだ?」
「し・ご・と!」
Q、他人の恋を操れるのか?
A、絶対に成功させてみせる!