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第一の問い「何が違うのか?」

 ああ、何か違うな。

 あたしは、目を覚ます前から、違和感に気が付いていた。

 背後でざわめく木々の声、ほっぺたに感じる、葉っぱの冷たい感触。遠くで鳴く、何かの獣の鳴き声。

 あたしは、自問自答してみる。


 Q、何が違うのか?


 A、世界も、自分も、何もかも。



――数時間前――

「……っし……」


 お菓子のごみ袋が散乱している部屋の中で、少女の声は響く。

 ――なんて、かっこいい書き出しで始めてみました。

 あたしの名前は保崎(ほざき) 秀名(ひいな)。男でも女でもとれる名前だけど、あたしは一人称からわかる通り、女だ。

 今は引きこもり中。うっとおしい前髪を頭の上でくくり、左右にたれてくる短めの後ろ髪は、ピン止めでピタッと止める。女子力? 何それ食べ物? 状態の、思いっきり「腐女子」の高校生でーす。

 そんなあたしは、目の前にコンパクトな、年季が入っているゲーム機を手に取り、「男子攻略」中。

 画面の向こうには、机が散らばる教室に、うっとりするような金髪を持った、生徒会長があたしに向かって話しかける。


生徒会長:『俺、生徒会あったんだけど……何の用?』


 話の途中で頭を掻く、リアルぶりだ。

 あたしは動揺する様子を見せずに、「彼」に向かって言葉を投げつける。


ヒイナ:『別に……よっ、用なんてたいそうなものじゃないんだけど、聞きたそうだから言ってあげるっ!』


 ふっ、「彼」のタイプはツンデレキャラだ。あたしはその役を演じるだけ。

 すると、予想通りに顔を赤くし、頬を掻く「彼」。

 あたしはその反応にガッツポーズをし、「黙る」のコマンドを選ぶ。


「どんなセリフでも来い……ま、その言葉は決まってるけど」


 あたしが身構えると、思い通りの言葉が返ってきた。


生徒会長:『あのさ……いきなりだけど……ずっと、お前のこと、いいなって、思ってたんだ……その、つ、付き合ってくれないか……?』


 来たーっ!


「全コンプリートっ! よし、このゲーム終わり」


 あたしは、画面の向こうの「彼」に目もくれず、セーブもせず、電源を切った。

 ぱ、と黒い闇が広がる。その画面に、頭がぼさぼさで、中学校時代のジャージを着たあたしが映った。

 高校に、入学式合わせて三日しか行っていない、ダサいあたし。おしゃれな雑誌なんて買ったことがない、流行に乗り遅れているあたし。恋愛ゲームの達人だけど、実際の恋愛なんてしたことがないあたし。


「……はっ、次のゲーム! 昨日発売だった新作の! やろう、やろうー!」


 下がってきたテンションを上げ、パチリ、と電源を入れた、次の瞬間。

 ゲーム機の画面が、ぐにゃりと曲がる。


「え? まさか、パグ?」


 叩いてみたが、治る感じはしない。

 それどころか、波紋は広がり、ついには気味が悪くて手を放す。

 しかし、黒い渦は、二次元を超え、三次元に突入。

 その黒い渦に、あたしの手が呑み込まれる。


 ――それが、あたしの見た、この世界の最期だった――


「ってことは、死んだのかな、あたし」


 目を開けずに呟いてみる。

 もちろん誰も答えない、と、思ったその時――、


「あのー……生きていますかー……?」


 おどおどした、腰が低そうな男性の声が聞こえてきた。

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