分身
掲載日:2026/02/27
村から出たければ、体の一部を置いていく。
この村には、そんな掟があった。
心臓であっても構わない。村に置いていけば、死ぬことはない。
だがオレは体の一部を
置いていくのはイヤだ。
夜を待った。
誰もいなくなる時間を見計らい、村の端で静かに穴を掘る。
あと少し、あと少し。
きっと村の外の空気は、さぞかしうまいだろう。
あと少し。あと少し。
――抜けた。
やった。これで村ともおさらばだ。
空気がうま……。
息が、できない。
男は、そのまま二度と目を覚まさなかった。
「村長、やはりあの男は、何も置かずに出ていったようです」
「そうか」
村長は静かにうなずいた。
「本体を置いていかねば、分身だけで生きられるはずなどない」




