第8話 亡き少女のテンペスト
「……それが君が花になった経緯……ということなのか?」
「はい、まあ大まかに言えばですけど……」
花になった私をたまたま拾った彼に全てを話すと、シフォン色の髪をかきながら眉間にしわを寄せ首を傾げた。初対面だが表情から見てとても困惑していることがよく分かる。それはそうだ。今話した出来事を知った上で考えても、なぜ花になったのかという肝心な疑問が何一つ解消されていないのだから。
「……とりあえず1つ聞きたいのだが」
先程まで項垂れていた彼が首をあげると君は人間なのかと私に問う。
「ええっと……この見た目で言っても信じ難いかもしれませんが………………人間です」
目の前の鏡で自身を見ても明らかに信じられる状況ではないということは分かっている。それでも彼にはなぜか信じてほしいと、そう願い声を張った。
「そうか………………それで君はこれからどうするつもりなんだ?」
「……え?」
質問をしながら彼が椅子から立ち上がると、神妙な顔つきでこちらを眺めてくる。この時私はなぜか空気が冷えた感じがし、思わず怖気付いてしまう。
「喋る花、実に興味深いものだ……おそらくこの先100年……いや、1000年生きる事ができたとしても君のような花に出会うことはないだろう」
「えっと……そうかもしれませんね……」
いきなり何を言うのだろうと困惑していると、まるで私を追い立てるように顔を近づけ言葉を告げる。
「君は考えなかったのか?随分と出会って間もない者に信頼を寄せているが、実験体としてはちょうどいい存在だろ?」
「な、何をするつもりなの!?」
思わず強ばると彼は大きく溜息をつきながら話し出す。
「なんというか……一丁前に警戒心がある割には危機感のない花だな……安心しろ、危害を加えたりはしない」
「な、なんなんですか……」
私が困惑していると、彼はある物を取り出す。それは見た感じ本のように見えた。
「実はある事について探りを入れているのだが……君は分かるか?」
「あることとはなんですか?」
「……マルスだよ」
彼が答えると私は思わずハッとする。マルス。それは私の人生を狂わせた物だ。
「知ってる事は先程話した事ぐらいです」
「で?他はしらないのか?」
「知りませんよ、それ以外」
疑問に答えてもしきりに聞き出す彼につい苛ついてしまったが……そう言われるとあまりマルスについて詳しく知らないなと私自身思った。
「俺はユリウス・ペルーダ、マルスについて研究している」
「マルスについて……?」
あまりにも怪しすぎる彼から反射的に逃げたくなったが、今の姿の事もあり驚く事しかできなかった。ただ逃げたい……私としてはそんな気持ちがあるが、一つだけ気になる点がある。
「あなたは何者なんですか?」
「今説明しただろう?ちょっとした研究をしている……とある魔法を使うために」
「……魔法?」
物語の本じゃあるまいし……と言いたかったが少し前に見た事がある。それはミルテの力、そして私自らが行った力の事だ。
「というか君が喋ってるそれも魔法だろ?」
「えっ、そうなんですか!?てっきりあなた自身の力かと」
「なんだ、無意識なのか……とても残念だ……ただ一つだけ元に戻る方法があるかもしれないってことだけ分かった」
「方法?分かったって何が?」
彼が言うにはこの話す力は私自身の魔法の力らしい。いきなり言われてもあまりピンとはこないが……。
「手段を選ばなければだが、魔法が使えるならいずれは身体も取り戻せるかもな……だから魔法学校に行け!……以上だ」
「ちょっと待ってください!こんな格好で行けるわけないじゃないですか!?」
あまりにも雑な話の進み方で思わず焦ると、彼はさすがに無理があるかと話しこう提案をする。
「研究のために君を観察する代わりに俺から魔法を学ぶというのはどうだろう?」
「それはとても有難い話……ですがなぜこうも観察とか研究対象にしたがるのです?」
「それは……君が【マルス適合者】だからだ」
マルス適合者。初めて聞く単語だ。彼が言うにはマルスを食べて生き残った者のことを指すらしい。
「君は適合者だから研究所に連れ去られた……おそらくそういう事だ」
半信半疑だがそれなら連れ去られた理由も少しなら納得がいく。ひょっとしたらミルテも同じ適合者だったのかもしれない。
「だから魔法を学べ、そして仮の身体を手に入れろ!そうすれば普通の人間のように街へ行ったり学校へ行く事が可能になる」
「身体を手に入れるってどうやって?」
「魔法だよ!少しは学んだらどうなんだ」
呆れた顔でユリウスさんが答えると私は少々困惑した目で彼を見つめる。
「魔法ですか」
「そうだ、魔法だ……変身魔法だよ」
変身魔法と言われてもなんだかパッと思い浮かばない私。これからどうなるのやら。イマイチ釈然としない気持ちだが、元の身体に戻るために色々試してみようと思った。




