第35話 失った回想記
ティグリスに汽車の乗り方を学んだ翌々日。ユラはある事を調べに1人で駅に来ていた。
「スタリナの駅はどこだっけ?」
ユラの故郷であるスタリナ。長らくして行ってなかったが現在はどうなっているのか。気になって駅員に話しかけるとなんとここから1時間で到着するという話を聞いた。
「やっぱりこの時代の乗り物ってすごいなあ」
ユラがまだイアだった頃。駅馬車と呼ばれるもので数日かけて隣町の学校に行った事を考えるととても便利になったと心から感じた。
◆ ◇ ◇
ユラが汽車から降りるとそこはスタリナそのものだった。店や家、大きな建物等歩き回ってもそこは依然として変わらないように見えた。ただ1つを除いては。
「教会がない!?」
やはり時代の変化か。以前教会だった場所は更地になっていた。その変化を知ると周りの景色も以前とは比べ物にならない程変わっていた事に気づく。
「やっぱり……違うのね……」
マップで見ると同じに見えるのにそこだけ何故か風変わりな景色に見えた。まるでユラだけを残してどこかへ行ったような気がして。たまらずそこから去ると道端のタイルにつまづき大きく転けてしまう。その場から起き上がり動く事なく耳をすますと、そこから聞こえてくる喧騒さえもどこか遠いもののように聞こえる。その場から聞こえてくる音も見えてる景色も。何もかもがユラにとっては耐え難いものとなった。
◇ ◆ ◇
ユラが時代の違う人間だと改めて自覚すると適当な道筋をトボトボと歩いていた。
(ここに来なければよかった)
知りたくなかった事実。でもいつかは知らなきゃならないと思い行動に移したのはよかったものの……結果としてはユラの心を傷つけるだけのものになってしまった。
とても苦い真実だった。だからかどことなく足が重い。そう感じながらゆっくり歩いていると急に横から悲鳴のような声が響き渡る。
「え……何!?」
人に絡まる植物。よく見ると枝のようなものが見知らぬ女性に絡みついていた。それも1人だけでなく数人ほど被害にあっているようだ。
「だ、誰か助けて!!」
「何が起きているの?」
ユラが確認すると枝がまるで生きているかのように動く。ニョロニョロとうごめく不気味な姿に驚くと1人また1人と枝が通行人に対し巻きついていった。
「これは一体何事じゃ!?」
「わ、分かりませんっ!?」
道行く人に尋ねられると今度は近くまで来ていたユラに巻きつく。どうするのかと思えば捕らえられた通行人と同じように通路の壁にへばりつき巻きついていった。
(こ、このままだと大勢に被害が起きる!)
そう確信するとユラは枝に対し攻撃態勢に入る。ただ攻撃するには1つ問題がある。【この世界では魔法が隠されたものとなっている事】だ。そのためユラが魔法の出し方をどうしようか悩んでいると枝がユラ達を飲み込もうと再び動き出す。
(悩んでる暇なんてない!)
突発的に動く枝に対し直感でそう思うユラ。そうだ。魔法が隠されたものとして扱われているのならこちらも隠蔽してしまえばいいのではないか。そう思い枝を掴むとユラは心に浮かんだ新たな呪文を唱え始める。
「そんなに隠すのならこちらも隠してしまえばいい……芽には芽を葉には葉を《バッズ・フォー・バッズ、リーブス・フォー・リーブス》」
すると徐々に木の枝が膨張し枝の組織を破壊していく。大きく膨れ上がったそれはまるで風船のように破裂し、捕らわれた人達を解放へと導いた。
「た、助かった……」
ユラが安心したのもつかの間。今度は騒ぎを駆けつけて多くの人が集まってきた。先程までうごめいていた枝はいなくなったからいいものの……大勢の人にどう話していいのか分からず1人立ち尽くす。
「ここで何が起きたんだ!」
「え、えっと……」
そう言われどう説明しようか悩んでいると、ユラの後ろにいた人物達が驚くような事を話し始める。
「僕達は熊に襲われたんだ!」
「「熊!?」」
「そらそうよ獣に襲われて……なんだっけ?」
「この嬢ちゃんが熊から身を守り助けてくれたんだ!」
「えっ!?」
記憶の混濁どころではない話だった。まるで見てきたものと違う。そう思い始めるとユラの脳裏にとある授業内容が思い浮かぶ。上の結界だ。この国にある【古代魔法】で記憶操作が行われていると先生が言っていた。混乱を起こさないためだろうか。にわかに信じ難いがおそらくそういう事なのだろう。ユラは上で光る巨大な古代魔法を見つめながらそう思った。
(この古代魔法のせいか……)
記憶操作。確かに大事になるよりはマシだとは思うが……なんだか釈然としない事実に納得がいってない様子のユラ。そうユラが思い悩んでいるとユラの元に話を聞いて集まってきた人々が忍び寄る。
「本当に君が私の家族達を助けたのかね?」
「え、えっと……なんというか……そうですね」
「なんという事!ぜひお礼をしなければ!」
「あ、あの忙しいのでこれで失礼します!」
忍び寄った人達の話を聞こうとすると真っ先にお礼をしようと呼び止める者が現れる。だがとてもそんな気分でなかったためユラは急いで人混みから飛び出す。あの現場で起きた様々な事に対しての疑問が絶えなかったが、これ以上大事になる事を察しその場を後にした。
◇ ◇ ◆
ユラが学校へと戻るとある人物が女子寮の通路にきていた。
「エル?」
女子寮まできていたエルは腰に手をつき真顔でこう話す。
「ユラ、お前外出届出すの忘れてただろ?」
先生が探していたぞと付け足すと職員室の方を指さしそう語るエル。一生徒としてはとても分かりやすい知らせだったが、今すぐ職員室に行く気にはなれずその場を離れようとする。
「あ、ありがとう……それじゃあここで」
「あ、ちょっと待て」
そう話すとちょっと付き合えと後ろを指さすエル。仕方なくついていくとそこは食堂で。ひとまず何か食おうとエルに誘われる。
「ごめん……今はそういう気分になれなくて……」
「まあそう言わずに……顔色悪いみたいだしさ……そこでひとまず休憩しようぜ」
エルがそう告げると飲み物が置かれた箱のような場所の前に連れてかれる。今の時代では自動販売機というらしい。ある事情で魔法学校以外では出回ってないが、とても便利な代物だとユラは感じた。
「奢るよ……これ飲むといい」
そう言って手渡されたものはオランジュの飲み物だった。エルに礼を言い試しに飲むとオランジュの酸味とほんのりと甘みが混ざった風味を感じる。いつもはしない味覚。だが何故だか分からないが2人で飲むオランジュの飲み物はとても濃厚で優しい味がしたような気がした。




