第13話 出会いのノクターン
「マッキンレー市街に着いたのはいいけど……」
彼女が着いた【マッキンレー市街】は隣のモナと違い街が栄えた場所であった。イアとしてはこれまで来た事もない場所だった事もあり戸惑いを隠せない。
「ここからどこへ行けばいいのだろう?」
ユリウスから頂いた馬車。それはおそらくイアが見てきた中で彼が最期に作った魔法道具だったのだろう。頂き物はそれ以外なかったため、これからは一人で学校へと辿り着かなければならない。
(どうしよう……これからどうすればいいのか分からない……)
先程のショックな出来事と見慣れない街中であった事もあり、心が不安定な状態のイア。彼女がふと歩き回ると通路のパネルから出た木の根につまづいてしまう。
「いたっ!……くはないけどなんか……ねむ……い……?」
そう彼女が呟くと存在しないはずの睡魔がなぜか彼女を襲う。横倒れにゆっくりと倒れると街中が微睡みの中へと溶けていった。
◆ ◇ ◇
イアがいた辺りからまっすぐ辿り右角を目指すと、こじんまりとしたパン屋がある。その名は【カンパニューラ】。ここカンパニューラはパンの種類が豊富で、とても美味しいと街中で評判だ。
「はーい、本日はもう完売でーす」
大きくベルが鳴り響くとトリスティスは2階のベッドへと向かう。少し前休憩がてら散歩をしていると、気を失った金髪の少女が道端にいる所を発見した。その時は動揺したが放っておくわけにもいかず、今はベッドの所で寝かせるようにしている。
「まだ起きていないようだけど……」
そっと覗き込むように寝床のカーテンをかき分けた次の瞬間、ゆっくりと少女の目が開かれる。
「……んん…………ん?…………ここどこ?」
彼女が目覚めるとトリスティスは驚いた表情で静かにこう話す。
「まあ、あなた!ようやく目が覚めたのね」
そうトリスティスが話すと彼女は困惑した表情で笑いかけた気がした。
◇ ◆ ◇
ふと目覚めるとそこは知らない場所で。事情はよく分からないがオレンジの髪色をした女性がベッドの前で佇んでいた。
「あの……ここは一体?」
「大丈夫?あなた道端で倒れていたのよ?」
そう話すと自身の名前とここが自分の家のパン屋である事を話すトリスティス。すかさず自分も自己紹介しようと名を名乗ろうとするが、ある事を思い出し急に息を止める。
(200年前にいた人の名前を出すのはまずいのでは……)
この街に来る前の出来事。そしてマルスに関わったが故に起きた悲惨な事件。その事を踏まえて本名を出すのはあまり良くないのではと考え、言葉を詰まらせる。
「……どうかしたの?」
「いえ、先程はありがとうございました」
自己紹介するか悩んでいる間、トリスティス夫妻が自身を助けてベッドへ寝かせたという話をした。話を聞く限り悪い人達ではないとイアは確信する。
「あなた〜彼女が目覚めたわよ〜」
「おお、本当か!トリスティス」
「何事もなく目覚めたようでよかったわ……ところでお名前を聞いても?」
そう彼女が話を切り出すと思わず動揺するイア。自身の名前。そんな事を考えているとイアは昔自身が読んだ物語の本の内容を思い出す。
「実は……記憶喪失で名前が分からないというか……」
記憶喪失。実験体にされる可能性があるという事もあり、前あった事件を話すわけにはいかない。そう考え一旦自身の名前や経歴を出すのを取りやめた。
「記憶喪失!?それは本当なの?」
「はい、だから分からない事が多くて……」
厚意で助けてもらった恩人に聞かれ心が痛んだが、今はこうするしかないと思い焦りを隠すイア。
「……良ければなんだけど……ここで今名前を決めるのはいかが?」
「……ここでですか?」
「……ダメかしら?」
そう伝えられると悪くないなと思いあっさり意見を飲むイア。何がいいか悶々と悩むとトリスティスがある名前を提案する。
「カンパニューラから取って……ユラはどう?」
「カンパニューラってここのお店の看板の名前……ですよね?……いいんでしょうか?」
「いいのよ気にしないで」
「……素敵な名をありがとうございます!」
「ところでだが……お腹は空いていないかい?」
するとジオラスがバケットの中にある布で包まれたパンを渡す。
「私はジオラス・メイドリー、ここでパンの制作をしている者だ」
これは明日販売するために作ったパンの一つだとジオラスが言う。イアがそっとパンを口にするととても温かい感じがしてつい顔が綻ぶ感じがした。




