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第12話 再生と信念

「起きたか?」


「はい、まあ……あの前から思ったのですがこの服は一体どこから?」


「さすがに全裸というわけにはいかないからな……色々あって持ってた物を着せているだけだ」



 ユリウスはそう言うが、一人暮らしの男性が持つ物にしては少しばかり可愛らしい物で、とても奇妙な話だとイアは思った。



「あのベッドの事ですけど、別に貸さなくていいです」


「それはなぜだ?」



 というのも()()()()()()()か睡眠はとらなくてもいい体質らしいと話すイア。納得がいってない様子だったが仕方ないと神妙な顔つきで彼は呟いた。



「……ところでだが今日は予定どおり晴れている……君の魔法もかなり良くなったしそろそろ摂取してもよいと思うのだが……」


「はい、ぜひよろしくお願いします!」



 そう彼が話すと数日前に取りに行ったであろう薬品を渡される。それは長細いガラス瓶に入っており、ピンク色の液体に満たされていた。



「それを飲むんだ……ただし()()()()()()()()()()


「副作用ですか?」


「ああ、飲むと少々()()()使()()()()()()……だから効いてる間は変身は無理だな」



 彼が注意した後即座に薬品をイアに渡す。ピンクの液体は向こう側が濁る程透明感がなく、とてもじゃないが味の想像がつかない。正直口にしたくはないが、こんな時に味覚がなくて良かったなとイアは考えてしまった。



「いただきます」


「……どうだ?」



 すると魔力の心部から波長が流れ出るかのように少しずつ薬が効いてくるのが伝わった。そして言われたとおり変身魔法が徐々に消えていくのが分かる。



「これでいちいち()()()()()()()()()移動や変身魔法が軽やかに行えるようになるだろう」


「本当ですか?」



 食いつくようにイアが尋ねると、先程までかかっていた変身魔法が解除され、植木鉢が床に落ちる音が鳴る。落下速度も操作できる程にはなったため、ゆっくり落ちていったが正直鉢が壊れるか気が気でないイア。



「おっと、もう効き始めたのか」


(そうみたいです……ってアレ?声が届かない)



 普段どおり答えたイアだったがどうやら先程まで話せていた言語がユリウスに届いていないのだと察した。



「まあ後は薬が完全に体内に染み渡るのを待つだけだ」



 そう話すと彼は植木鉢を日光の当たる窓際に置いた後、いつも座る椅子に腰かける。窓際からあたる陽の光はとても暖かくどこか自身の鍛錬を見守るユリウスのようだとイアは思った。



「さて、今日も研究しないとな」



 彼がいつもどおりマルスの研究をし始めた次の瞬間、強い衝撃でドアが開かれ、辺りが一気に冷たい空気に包まれる。



「何事だ!」



 ユリウスが答えると小さな音と共に彼から赤い血の雨が降り注ぐ。



「ユリウス・ペルーダ、お前の生涯はここで終わりだ」


(ユリウスさん!?なんで!?)



 扉から現れた黒服の2人が即座に武器のようなものを構えたかと思うと、彼が脇腹を抑え倒れたかのようにイアは見えた。僅かながらの視覚だがこんな光景見たくはないと彼女は怯える。



(イア……君は逃げろ……)


(ユリウスさん!?)


(私はもう長くはない……でも君は……君だけは逃がせられる)



 途端ユリウスの声が心に響き渡り思わず驚愕するイア。その声に答えようと必死で叫び続けるが、彼に伝わる事はない。



(俺の事は気にするな……もし無事に彼らが去った後、そこの引き出しから()()()()()()()ここから去れ……後はどうにでもなる)



 そう話すと先程までの声が途切れ、ユリウスの声が聞こえなくなる。なんとか動き出そうとするが、伝えられた話どおり魔法を使う事ができない。



「もういいだろう、一旦ここを出よう……次の集合場所だが……」



 黒服の彼らが立ち去ると冷たい空気がまるでなかったかのように消えていく。



「……さん…………ユリウスさん!」



 ようやく薬が完全に効いたイアが彼の元へ駆けつけると既にユリウスは冷たくなっており、床には大きな血の池ができていた。



「どうして……なんで!?………………そうだ」



 彼が自身に伝えた事。引き出しにある紙飾りの事だ。はっきり言うとそんな気持ちですらなかったが、彼の遺言どおり大人しく紙飾りを取り出し、彼のいる場所に佇む。



「変身魔法……呪文唱えなくてもできるようになりましたよ……だから私約束どおり……行ってきます……」



 泣き言を勇気に変えるかのように扉を開き駆け出すイア。彼が言うにはここ【モナ】から離れた小さな街の()()()()()()()()に魔法学校へ行くための手立てがあるらしい。



(ここからかなり離れた場所らしいのにどうやって行けば……そうだ)



 彼からもらった紙飾り。これにヒントがあると彼女は考えた。一見小さな馬の形をした紙飾りだがなぜこれを頂いたのだろうと。



「これは……馬車?」



 試しに彼女が紙飾りに力を込めると、たちまち反応するかのように大きな馬車へと変化した。



「これに乗れって事?」



 そう彼女が問うと馬車に足をかけ座る。白い馬が鼻を鳴らすと馬をひく人がいないのに颯爽と駆け出した。



(ここからだと着くのはだいたい3、4日程かしら?)



 彼女がふと考えた次の瞬間、まるで瞬間移動でもしたかのように窓からの景色が一気に夜の街中へと変化した。先程までの朝の田舎景色が一瞬で消えたので反射的に驚いてしまう。



「えっ!?何が起きたの?」



 そう彼女が呟くとさっきまであった馬車が最初からなかったかのように消えていく。静まり返った街中は先程までの冷たい空気を彷彿させどこか悲しい気持ちになった。

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