第10話 時を追いかけて
一瞬だけ植木の花から人の姿に戻った翌日、私は前日のように変身の魔法ともう一つ教わった動きの魔法で部屋をうろつくととある新聞を見つける。
「え……なにこれ……1439年?」
おかしい。私がいた時代は1239年だったはず。そう思い反射的にユリウスさんに声をかける。
「こ、この新聞の年数おかしいですよね……1439年って……本当は1239年なのに」
「いや、どこもおかしくはない……今は1439年の6月11日だ」
やはりおかしい。そんなわけないと考え今日は1239年の4月上旬頃だと伝えると、思ってもない返答が返ってくる。
「なぜそうなる……ひょっとしてだが花になった時に何らかのタイムラグが発生したのではないか?」
そんな事考えてもみなかった。私がいた時代から200年。とても長い年月だと悲しむと思わず変身が解かれる。
「そんな……こんな大事な真実に気づいたのに泣く事もできないなんて」
私が嘆き苦しむ姿を見てふと頭を傾げる彼。さすがのユリウスさんも動揺したのか床に膝をつき話を聞こうとする。
「私がいた時代……それは200年前の1239年なんです……だからとても辛くて……」
もう二度と会えない。ミルテにもギュンター率いるお世話になった孤児院の仲間達にも。そんな事を考えていると彼はふとある事を伝える。
「気にするな……言っただろ、手段を選ばなければどうにでもなると……だから大人しく俺から魔法を学べ」
すると彼が私を励ますかのように、倒れた植木鉢を丁寧に直し木製の椅子に置く。そして目線を合わせるように体勢を整えこう言った。
「昨日も言ったが君はコントロールする力が不安定になっている……つまり君はそれ程までに大きな力を手に入れた才能のある存在という事だ」
「才能……ですか……?」
「そうだ、だから翌日ある場所から巨大な魔力をコントロールできる程の貴重な薬品を手に入れて戻ってくる」
だからそれまでになんとか変身魔法の持続時間を伸ばせ。そうユリウスさんが言うと私から目線を逸らし、いつもどおり上から見上げるような姿勢に戻す。
「ここモナという地から帰るにはまるまる1日はかかる……だからその間はここで一人魔法の鍛錬をしろ、くれぐれも外に出るんじゃないぞ」
魔法が解けたところを人が見たら大変だからなと彼が注意を促す。確かにそうだ。最初に言われた事を思い出す。人に驚かれるだけでなく実験体にされる可能性がある状況なのだと。念には念をという彼なりの優しさなのかもしれない。
「分かりました……悲しいですが気持ちはしばらく心のどこかにしまっておきます」
「それでいい」
そう伝えるとユリウスさんはいつもどおり新聞を広げ、朝の食事をすませる。いずれは食事もとれるようになりたい。そう考えていると彼が私の方へ向かい、そっと植木鉢の中に綺麗な水を注いでくる。なんとなくだが彼がその水を与えている間どこか優しく微笑んでいるように見えた。




