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逆襲成功!しかし、幸せは誰のもの…?

ある夜、ユーリーンが昼間食べた焼き菓子の残りを隠れ食いしてやろうと、居間に降りる階段へと歩いていきました。廊下を進んでいくと、シンデレラの部屋の扉の隙間から薄い明かりが漏れていました。ユーリーンは、こんな時間にシンデレラは何をしているのだろうと思いました。

コンコン

ユーリーンはシンデレラの部屋の戸をノックしました。何かを閉じるバタンという乾いた音がしてから、中から戸が開かれました。

「あら、ユーリーン。こんな時間にどうしたの?」

「あんたこそどうしたのよ」

「『あんた』なんて失礼ね。何様のつもり、ユーリーンお姉さま。何でもないわ。おやすみなさい。フィナンシェを食べ過ぎない方がいいわよ」

シンデレラは扉を閉めようとしました。ユーリーンは戸にわざと足をはさんで閉められないようにしました。

「で、何してたの。シンデレラお嬢様」

「関係ないじゃない。むきになることかしら」

「お母さまに言いつけるわよ。シンデレラは夜中に何をしているのかわからないって」

「お勉強でいいじゃない」

「じゃあ、言いつけていいのね。確か、あんたさっきお母さまにお休みの挨拶をしていたでしょう。うちのお母さまは過保護だから、あなたも私たちも夜更かし禁止なはずよ。外面に全く傷のないシンデレラ、お母さまの評価と扱いは減点制よ」

「……、そう、私のことを話したら、あなたが夜中にお菓子を毎晩つまんでるって言うわよ」

ユーリーンはふんっと鼻で笑いました。

「今更そんなことが怖いと思う?私が。大体毎晩じゃないわよ。告げ口したらあんたのイメージも崩れるでしょうが」

シンデレラは一瞬だけ目を吊り上げて、音を立てずに舌打ちしました。

「教えるから、お互いお母さまには余計なこと言わないことにしてよ」

そして壁際の机の所にいって、本を一冊取り上げて、表紙をユーリーンに見せました。

「日記を書いていたのよ。ほら、『diary』って書いてあるでしょ。さあ、これでわかったでしょう。おやすみなさい」

シンデレラは素早く、音は立てずに冷たい風を立てて、ユーリーンの顔の前で戸を閉めました。ユーリーンはフィナンシェを十個袋に入れて持ってきて、それからシンデレラの部屋の明かりが消えるのを待ちました。明かりが消えて、微かな寝息が聞こえてきて、その音を十五分くらい食べながら聞き続けてから、シンデレラの部屋の扉を、静かに音を立てないように開けました。「diary」を探して机の上を見ました。引き出しの中も探しました。さっき見た本と同じくらいの大きさの本をいちいち月明かりに照らして確認しましたが、中々見つかりません。一つ、鍵のかかった引き出しがあって、きっとこの中にあるとユーリーンは考えたのですが、鍵がどこにあるか分かりません。鞄の中を探しましたが、見つからず、当惑しながら首を振っていると、ろうそくが目に付きました。皿の下が怪しいと思い、それを持ち上げてみると、銀色に光る鍵が見つかりました。シンデレラが寝ながら呻いて、寝返りをうちました。起き出しやしないかとびくびくしながら、引き出しの鍵をそっと開けて、ユーリーンはそこから日記を持ち出すことに成功しました。

 次の日の朝早く、ユーリーンはポーリーンを叩き起こしました。

「ユーリーン、まだ寝ていていい時間じゃない。起こさないで。おやすみ」

「待って。ポーリーン、シンデレラの日記よ。昨日は、私ほとんど一睡もしてないんだから」

ユーリーンは、日記の表紙をポーリーンに見せつけました。

「何ですって」

ポーリーンは起き上がって、ベッドに入ったまま、ユーリーンと日記を読み始めました。

「ええと、十一月一日、ユーリーンは歌の音程を合わせられず、家庭教師に時間の無駄だと言われる。明後日この家庭教師が家に来るから、自分の教授を頼もう。試しに歌わせてほしいとお願いすれば、この家庭教師は私のものになるだろう―」

「策士ね」

ユーリーンは呟きました。

「十二月二十五日。お母さまにおべんちゃらを使っている間にケーキが焦げた。うまいこといってポーリーンのせいにしてしまおう。ついでにパン屋の息子にポーリーンはパンもケーキも上手く焼けないっていうことをさり気なく教えてやろう。実際、あいつが焼くクッキーは最悪に不味い」

「一月十五日、ユーリーンにお前は何の才能もないブスだと教えてやった。いい気味だ」

「―一月十六日、ユーリーン、ポーリーンから教育を一切奪ってやれたら面白いのに。実の娘なのにどうして―なんて無力感にあいつらがさらされたら、私は、まるで蜂蜜にひたっているような気持ちになれそうだ」

「そこまで言われてないわよ」

ユーリーンが言うと、ポーリーンは

「シンデレラの奴。盛っているわね」

と呟きました。

「これ、お母さまに見せましょうよ」

ユーリーンの提案に、ポーリーンは「もちろんよ」と言いました。

「でも、お母さまが起きてくるまで時間があるわね。厨房の手伝いでもしていましょう」

ポーリーンがスクランブルエッグを作って、ユーリーンが調理道具を洗っている時に、シンデレラが慌てた様子で、パジャマのまま起きてきて、台所に入ってきました。

「ユーリーンお姉さま、おはようございます。起きていたのね。何か、取ったかしら……?」

「シンデレラ、私は何も取っていないわ」

「そうね。ごめんなさい。もう少し寝るわ」

シンデレラがばたばたと出ていくと、ポーリーンがユーリーンの脇を小突きました。

「あんた、日記は?」

「パンツに挟んである」

「さすが」

朝食が出来上がった頃、手洗い場で水を流す音が聞こえました。毎日この頃の時間に、母親は起き上がって顔を洗いにきます。シンデレラの声が聞こえました。

「お母さま。その……ユーリーンお姉さまかポーリーンお姉さまが私の日記を盗んだんじゃないかと思うのだけれど。いえ、悪気はないと思うわ。でも、悪ふざけをすることもあるかも知れないし。ほら、ユーリーンお姉さまは無邪気な人だから……」

「そうかい。聞いてみるよ。そんなことより、早起きしたなら予習をした方がいいんじゃないの?今日はテストだったでしょう。ええと、数学の」

「ええ、ええ。もちろんよ。でも、お願いね。お母さま。見られたら恥ずかしくて死んじゃうわ。お願いだから中身を見ないでね」

「ああ。わかったよ」

パタパタと駆けていって、シンデレラが二階に上がる音が聞こえてから、母親が居間に入ったのがわかりました。

「お母さま」

「ああ、二人とも。早起きして食事の支度の手伝いをするなんて感心じゃないか」

ユーリーンはお尻をめくって、スカートの下から日記を取り出しました。

「ああ!お前、シンデレラの日記だね。駄目じゃないか。しかも、パンツに挟んで隠すほど大事なものかい。呆れるね」

「ええ。そうなんだけれど、後で怒られるから、取りあえず、中身を少し見てみて」

駄目じゃないか、と言いながら、母親は「でも、ちょっと面白そうね」と少し下卑た好奇心を起こしてしまい、渡された本のページを開きました。

 少し読んだところで、母親の顔が曇ってきました。三ページ読んだら、母親は憤怒の夜叉の形相になって顔をあげました。身体から怒りがむんむんと発散されて、ポーリーンとユーリーンに伝わってきました。あんまり恐ろしかったので少し怯える二人に見つめられて、母親は、あまりの怒りに重たい肉のような色と質感に変わった唇を開きました。

「なんていう嫌味で、卑劣で、性悪で……最低な女だ!」

母親はポーリーンの顔を見つめて言いました。

「ごめんねえ。ごめんねえ。今までえ。あの娘め!」

母親は日記のページの紙を汗とひきつった親指の力でしわしわにさせながら恨みをこめて言いました。ポーリーンは、母親に分からないくらい少しだけ、怖くて後ずさりしました。

 その日から、シンデレラは全ての家庭教師を外されて、灰色のくすんだ木綿の服に、ぼろ雑巾みたいなエプロンをして、バケツを持って、家の中を忙しく動き回るポーリーンたちの「召使い」にされました。

 しかし、シンデレラは、いつも、ポーリーンとユーリーンが今まで不器用にやっていた家事を完ぺきにこなしながら、下手くそな歌を歌っている二人がレッスンしているそばを、綺麗な透き通るような声で鼻唄を歌いつつ唇の片端を持ち上げて嘲笑して二人を見下しながら、忙しそうに部屋を横切っていくのでした。そういうとき、教師はうっとりと美しいシンデレラの方を見てから、母親の二人の実の娘を見て、口を開けずにため息をつくのです。二人の娘は教師が色んな意味で「もったいない」と感じているのをわかっていました。

 シンデレラは、泣くこともなければ、いじけることもなかったし、つまり、非常にプライドの高い強い女性(ひと)だったのです。

 シンデレラの境遇が大きく変わったことについて、ポーリーンとユーリーンはどう思ったのでしょうか?二人は、母親に、何もシンデレラを召使いにまでおとさなくてもいいと訴えました。自分たちよりすこーしだけ家の手伝いを多くさせるとか、すこーしだけ勉強の機会を減らすとかしてくれれば、それで自分たちは満足だと言いました。こんな極端な扱いの違いはかえって、居心地が悪いと。

「何を言ってるんだい、お前たち。お前たちは、貶められたんだよ。あの娘は、自分が実の娘じゃないことに、不安を感じていた臆病者なんだよ。お前たちは、あの娘をとことんこき使うがいいんだよ。お前たちがされていたように、文句の一つも言ってやりなさい」

「でも、お母さま」

ユーリーンが言いました。

「シンデレラの仕事ぶりには何の落ち度もないわ」

「そうよ。家の中、前よりずっときれいよ」

母親が面白くもないといったような顔で言いました。

「そんなもの、言いがかりでも、いちゃもんでも付けておやりよ」

母親がこう言うので、人間というのは、恨みがあれば理不尽な態度に出るのは当然なものなのだと、ユーリーンとポーリーンは考え直し始めました。

 そして、シンデレラは、家の中を日に三度も掃除させられ、洗濯を日に四度させられ、作った料理を目の前で暖炉に放られて作り直しさせられるような、肉体的にも精神的にも過酷な毎日を送らなくてはいけなくなりました。

 しかし、シンデレラは鼻っ柱の強い、冷静で落ち着いた態度を崩すことはなく、泣き言も文句のひとつも言いませんでした。

 シンデレラがいつまでたっても、強く美しいままなので、ユーリーンとポーリーンは、妙に腹が立って、ますますシンデレラに辛くあたるようになるのでした。

 その後、シンデレラはどうなったでしょうか?掃除の際にポーリーンとユーリーンの財布から少しずつ抜き出した小銭や小さい額の札をため込んで、舞踏会に向けて、こっそりとドレスを注文しておきました。母親と不細工な姉二人が舞踏会に行ったのを確認した後、仕立てたドレスを受け取りに行って、その場で予約しておいた馬車に乗って舞踏会に向かいました。上品に可愛らしく無邪気に振る舞い、王子様に印象を残して、最後はわざと逃げるように階段を下りながら片方の靴を落としていったのです。後で、自分で「靴を落とした」と言って宮殿を訪ねるつもりでしたが、王室の方から靴の持ち主を探すようにとの触れが出て、結局シンデレラは王子様に見つけられ、最後はめでたく王国の姫として迎えられたのでした。


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