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実夢(1)

 

 不曲は夢を見ていた。

 国連大使となって安全保障理事会の会議に臨んでいる夢だ。

 しかも、常任理事国の一員として会議に参加していた。

 その左隣にはドイツの大使が、右隣にはインドの大使が座っていた。

 アメリカ、イギリス、フランス、中国の大使も着席していた。

 しかし、そこにロシアの大使はいなかった。

 何故ならロシアという国そのものが消滅したからだ。


 それは、世界の構図が大きく変わったことを意味していた。

 超大国が影響力を行使する古いシステムから多様な価値観が織り成す新しいシステムに移行したのだ。

 強か弱かではなく、大か小かではなく、右か左かではなく、それぞれを認め合い相互に影響を与え合う網目状の構図になったのだ。


 安保理事会が新な体制へ移行するに当たって2つの案件が上程された。

 一つは常任理事国の変更。

 もう一つは多数決の導入だった。


 常任理事国の変更については、ロシアという国が消滅したこともあって異議は唱えられなかった。

 しかし、多数決については中国が強く反対した。

 拒否権は維持されるべきだと譲らなかった。

 その結果、安保理事会で決めることはできなくなり、総会に(はか)ることになった。


 それに対しても中国は無理な注文を付けた。

 90パーセント以上の賛成がない限り認めないというのだ。

 それは余りにも高すぎるハードルだった。

 この世に9割の人が賛成する案件など一つもないのだ。

 しかし、頑として譲らないため、その条件を飲まざるを得なかった。

 さもなくば、国連改革は夢のまた夢となってしまうからだ。


 残りの常任理事国は緊急に会合を開いて、国連に参加する各国への対応を話し合い、すぐに行動に移した。

 中国寄りの国々を切り崩していくことを申し合わせたのだ。

 それは、反対票を無投票と棄権票に誘導することだった。

 これは反対票が減るというメリットがある代わりに有効投票数が減るというデメリットを併せ持っていたが、これしか対応策はなかった。


 早速、中国以外の常任理事国とその同盟国、パートナー国、友好国はあらゆる手を使って切り崩しを進めた。

 正攻法はもとよりあらゆる外交努力を駆使して連日連夜攻勢を続けた。

 特に『債務の罠』にはまっている貧しい国々に支援を申し出て態度を変えるように説得を続けた。


 その結果、ギリギリで90パーセントの賛成を得るという歴史的な快挙を手にした。

 中国は地団太(じだんだ)を踏んだが、後の祭りだった。

 国連憲章は改訂され、常任理事国の拒否権廃止と三分の二以上の多数決の導入が決定された。

 国連は生まれ変わったのだ。


「ゼレンスキー大統領、改革を成し遂げましたよ」


 不曲は瞼に浮かぶ彼の顔に向かって日本語で呟いた。



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