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緊迫(3)

 

「遂にイランのドローンを使い始めたようです」


 芯賀の報告に総理は顔を歪めた。

 危惧されていたことが現実になったからだ。

 それは『シャヘド』という名の攻撃型無人機で、小型で低空を飛行することから防空システムによる発見が難しいだけでなく、発する音が小さいので周辺住民が気づかずに油断するケースがあるという。


「う~ん、ヤバイことになったな」


 ウクライナが反転攻勢をかけている現状を変更されかねない事態に、頭を抱えるような声が出た。


「イラン国内が騒然としていますから、その目を外国に向けさせるために武器の供与を決断したのかもしれません」


 それは警察の拘束下で起きた若い女性の死亡が発端だった。

 少数派クルド人の22歳の女性が頭部を覆うスカーフを適切に着用していなかったことを理由に警察に拘束され、その3日後に死亡したことが明るみに出ると、各地で抗議デモが起こり、治安部隊との衝突によって多数の国民が死傷するという緊迫した事態に陥っていた。


 それを鎮静化させるためか、死因は持病が悪化したものだと警察は説明したが、彼女には持病はなく、警察に暴行を受けたことが原因だと家族は反論した。

 そのことが伝わると、更にデモが激化していった。

 そしてそれは政権にも矛先が向かい始め、首都テヘランでは女子学生たちがライシ大統領に向けて「失せろ」と繰り返し叫ぶなど、収拾の目処(めど)がまったく立たない状態になっていた。


「経済制裁を受けて国内の不満が溜まっている上に、人権という問題が重なると簡単には収まらないだろうな」


「そうだと思います。政府は力で抑え込もうとしていますが、今回は簡単にはいかないと思います」


 この流れは穏健派のロウハニ氏から保守強硬派のライシ氏に大統領が変わったことが遠因(えんいん)としてある。

 欧米との協調路線を模索するなど、現実的で女性の権利にも寛容だったロウハニ氏に対して、ライシ氏はイスラムの教えを厳格に守って女性の権利を厳しく制限しようとしており、そのことに対する不満が表面化したともいえるのだ。


「ライシ氏はハメネイ師の後継を狙っているから強権的な姿勢は変えないだろう」


「はい。政権から穏健派を排除して反米路線を鮮明にしていますから、この程度のことでは動じないと思われます」


 それは、核合意が遠のくということであり、中東の安定が損なわれるということであり、ひいては世界の不安定さが増すということに繋がっていく。


「どこもここも独裁者ばかりになって……」


 ため息をつきながら首を振る総理の頭の中にはプーチン、ルカシェンコ、アサド、金正恩らの顔が次々に現れては消えているのだろう。

 それを察した芯賀はやるせなくなって総理と同じようにため息をついたが、更に先が見えなくなったウクライナ情勢のことを思うと、暗澹たる気持ちに陥り、底なし沼に落ちていくような感覚に囚われてしまった。



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