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気概(5)

 

『オデッサが燃えています。建物は破壊され、支援物資が燃えています。それだけではありません。罪のない人たちが殺されています。子供も女性も高齢者も殺されているのです』


 ロシア語で発信するナターシャの投稿が始まった。

 被害を受けた各地で撮影した写真を添えて惨状を訴えた。

 そして、この戦争がウクライナだけに影響を及ぼしているのではないことを伝えた。


『ロシア軍の艦隊が黒海を封鎖したことによって穀物を輸出することができなくなりました。その結果、ウクライナからの輸入に頼っている国々に深刻な影響を及ぼしています。特にアフリカ諸国では多くの人が飢餓に直面しています。1日に1食も食べられない人が増えているのです』


 そして、影響は今年だけにとどまらないことを強く訴えた。


『倉庫が満杯のために、これから収穫が始まる穀物の保存場所がありません。刈り取られたとしても廃棄せざるを得なくなる可能性が高いのです。更に、農民の多くが国内外に避難しているため、新たな種蒔きができません。それは、来年の収穫が期待できないということを意味します。この影響は数年に及ぶのです』


 稼働していない港湾施設や倉庫の内部、破壊された農地の写真を添付して真実であることを強調した。


『オデッサだけではありません。ウクライナ各地で非道なことが行われています。ロシア国内ではフェイクと言われているようですが、ロシア軍による破壊と殺戮(さつりく)は厳然とした事実なのです』


 マル―シャが収集していた報道写真からブチャやボロジャンカなどの衝撃的な写真を選んで添付した。

 その中には路上に放置された遺体の写真もあった。

 頭を銃で撃ち抜かれた目を背けたくなる写真もあった。

 母親を失って途方に暮れている幼い子供の写真もあった。


『何故こんなことが許されるのでしょうか。ウクライナがロシアを攻めたから? いえ、そんなことはありません。ウクライナはロシアを攻撃していません。何一つ悪いことはしていないのです。でも、特別軍事作戦という名の下に侵攻が開始され、それが今も続いています。多くの建物が破壊され、罪のない人たちが殺されているのです』


 破壊され尽くしたマリウポリの写真に加えて、アゾフスターリ製鉄所の無残な写真も添付した。


『この製鉄所には多くの女性や子供たちが避難しています。生まれたばかりの赤ちゃんもいます。それなのにミサイルが撃ち込まれています。爆弾が投下されています。それも、地下貫通爆弾という恐ろしい破壊兵器まで使われているのです。軍人も民間人も関係なく皆殺しにするつもりだからです』


 製鉄所の地下に身を潜めているお年寄りたちの写真や赤ちゃんを抱いている若い女性の写真を添付した。


 ナターシャはこれらを数日間に分けて投稿した。

 一つ一つが短時間で読めるようにするためだ。

 それは読みやすさだけでなく、インパクトを狙うためでもあった。

 しかし、これで終わらせるつもりはなかった。

 思いのたけを語らなければ意味が無いからだ。

『オデッサのロシア人』と名を変えたナターシャは血を吐くような思いで心情を吐露(とろ)した。


『わたしはロシア人です。両親もロシア人です。先祖も全員ロシア人です。皆さんと同じ血が流れているロシア人です。でも、そのことがわたしを苦しめています』


 そこでスターリンの顔を載せた。

 そして、レーニン、プーチンと続け、三人を合成した写真を加えた。

 更に、その写真に返り血を浴びせるように合成した。


『これがわたしの顔であり、あなたの顔なのです。血に飢えたわたしたちの顔なのです。ウクライナ人を殺し続けているわたしたちの顔なのです』



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