行方(4)
「モルドバに間違いないようです」
ミハイルからの電話だった。
支援品を積載したトラックを追いかけたところ、モルドバのバランカに辿り着いたという。
「今から写真を送りますので確認ください」
「写真ですか? 何の?」
「見ていただければわかります」
そこで通話が切れ、間もなくメールが届いた。
クリックすると、荷物を持つ女性の後姿が目に飛び込んできた。
次の写真にはアップになった顔が写っていた。
ナターシャだった。
間違いなくナターシャだった。
見つめていると、呼び出し音が鳴った。
ミハイルからだった。
「奥さんに間違いないですか?」
頷いた。
でも、声が出ていない事に気づいて、「はい」と答えた。
「どうされますか?」
移動するかどうかの確認だった。
答えは決まっていた。
即座に「行きます」と伝えた。
「わかりました。すぐに手配します。では後ほど」
それで通話が切れた。
再び写真に視線を戻した倭生那は、スマホの画面に指を近づけて顔に優しく触れた。
そして、愛しい人の名前を呼んだ。
*
大型のSUVがイスタンブールを出発した。
運転手の横にはミハイルが座っていた。
倭生那は後部座席で妻のスマホに連絡を入れ続けていた。
自分のスマホは着信拒否にされているので運転手のスマホを借りてかけていたが、自動録音が聞こえてくるだけだった。
ブルガリアに入っても電話は繋がらなかった。
それでも1時間おきにかけ続けた。
車の中で出来ることはそれしかなかったからだが、いつかは通じると信じてかけ続けた。
〈一念岩をも通す〉と信じてかけ続けた。
突然、ミハイルのスマホが鳴った。
耳に当てると、すぐに「えっ?」という声が漏れた。
何か良からぬことがあったのかもしれないと思うと、黙っていられなくなった。
「何かあったのですか?」
しかし、返事はなく、スマホに向かって「わかった」と言って通話を終えた。
不吉な予感がした。
それが的中したかのように、振り向いた彼の顔が強ばっていた。
「奥さんを見失いました」
それだけ言って顔を戻した。
声が出なかった。
口は開いていたが、呼吸以外の機能は停止しているようだった。
車はルーマニア国境に向かって北上中だったが、なんのために走っているのかまったくわからなくなった。
それでも車はスピードを緩めることなく走り続けていた。
*
なんで返信がないの?
アイラはパソコンの受信画面を食い入るように見つめた。
いつもはメールを打つとすぐに返信があるのだが、昨日からなしのつぶてなのだ。
もしかして……、
なんらかのアクシデントに見舞われたかもしれないと思うと、気が気ではなかった。
ナターシャは戦場に近いところにいるのだ。
それに、トランスニストリア地域でキナ臭いことが起こっていることを考えると、何があってもおかしくないのだ。
もう一度メールを打った。
『返信して』というだけの短いメールだった。
しかし、5分経っても、10分経っても、30分経っても返信はなかった。
使いたくないんだけど、
仕方なくスマホを手に取ったが、盗聴されている不安がどうしても拭えず、何もせずに机の上に置いた。
それでも1時間が過ぎると我慢できなくなった。
ナターシャの番号をタップしてスマホを耳に当てた。
しかし、聞こえてきたのは自動録音の声だった。
マナーモードにしているか電源を切っているかどちらかだったが、電源が切られているに違いないという思いを消すことができなかった。
何があったの?
スマホを持つ指の震えが次第に大きくなるのを止めることができなかった。




