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限界(4)

 

 4月26日、モスクワで事務総長とプーチンとの会談が始まった。

 場所はクレムリンだった。

 そして、あの長机だった。

 その両端に2人が座っていた。

 それは2人の距離が遠いだけでなく、意思疎通が困難であることを暗示しているようでもあった。


 事務総長が「特別軍事作戦はウクライナ領土の侵略であり国連憲章に違反している」と批判すると、

「今回の特別な作戦はウクライナ東部のロシア系住民を保護するためのものであり、国連憲章に完全にのっとっている」とプーチンは作戦の正当性を強調した。

 その上で、ブチャで多くの市民が殺害されて見つかったことについて、「ロシア軍は関与していない。ウクライナ側による挑発だ」と主張した。

 また、マリウポリの製鉄所で市民が取り残されていることについて、「ウクライナ軍は市民を盾にしたテロリストと同じ行動をとっている。ロシア側が設けた人道回廊は機能している」とウクライナ側を非難した。

 対して事務総長は「ロシアとウクライナが問題解決の為に協力することが必要だ」と訴えたあと、市民を避難させるために双方が協議する場を設けるように提案した。


 会談のあと国連は「市民の避難に向けて国連と赤十字国際委員会が関与することで原則的に合意した」と発表し、今後の具体的な協議は国連の人道問題調整事務所とロシア国防省で行われるとした。


 不曲はまたも裏切られた気持ちになった。

 トップ同士が会って合意したのがこれだけというのが信じられなかった。

 ウクライナから即時撤退しろとはっきり言わなければならないのに、こんなレベルで会談を終わらせた事務総長にむかっ腹が立った。

 この程度のことしかできないんだったら行く必要なんかないのだ。

 事務方にやらせれば済むことなのだ。

 ただ会って話し合っただけという結末に開いた口が塞がらなかった。

 それだけでなく、国連の限界が再び露呈(ろてい)したことに強い危機感を覚えた。


 しかし、それだけでは終わらなかった。

 頭を抱えることは続くもので、同じ日に行われたラヴロフの発言に愕然(がくぜん)とした。

 それはロシア国営テレビのインタビューにおける発言だった。

「核戦争が起きるかなりのリスクがあり、過小評価すべきではない」と言ったのだ。

 更に、「そのリスクを人為的に高めようとは思わないし、多くの人がそれを望んでいる」と断ってはいたが、「西側諸国がウクライナに供与する武器は正当な標的になる。そのリスクは相当なもので、危険は深刻であり、また現実であり、それを過小評価してはならない」と強調したのだ。

 NATOがロシアと代理戦争をしていることに対して強い懸念を表すだけでなく、恫喝(どうかつ)を与えたのだ。


 なんということを言うのだ!


 不曲は怒り心頭に発した。


 常任理事国の外務大臣が言うべきことではないだろう!


 常軌を逸していると思った。

 核兵器の使用を正当化するなんてありえなかった。

 こんな非常識な発言を許せるはずがなかった。


 核兵器がどれほどの苦しみを与えるのか知っているのか!


 不曲は振り上げたこぶしを机に叩きつけた。

 それでも怒りが収まることはなかった。



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