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切迫(3)

 

 一晩寝て体調が戻った倭生那は、自宅に帰ってすぐに冷蔵庫に残っていた缶ビールの蓋を全部開けて、中身を流しに捨てた。

 そして、缶を潰して分別用のビニール袋に放り込んだ。

 このまま酒浸りになっていても何も解決しないからだ。


 よく考えるんだ!


 脳に気合を入れて、椅子に座った。


 何か見逃しているものがあるはずだ、


 目を瞑って脳の引き出しを次々に開けていった。


 自分が知っている妻の友人にはすべて当たった。

 それは日本人だけでなくロシア人も含めてだ。

 しかし、情報は何も得られなかった。


 とすると、キーマンは他にいるはずだ、


 でも、それがわからない。

 年賀状やバースデーカードやクリスマスカードや手紙を何度も確認したので、抜け落ちたものはないはずだ。

 絶対にない。

 しかし、物事に絶対はない。

 何かを見落としているはずだ。

 もしくは、探していない所があるはずだ。


 それはなんだ? 

 もしくは、どこだ?


 彼女が使用していた机の引き出しも本棚もクローゼットも全部調べた。

 もしかしてと思って靴箱も調べた。

 洗面台の棚も確認した。

 押入れの天袋も見たし、バッグの中も(あらた)めた。

 そこまで考えて、ふと思い浮かんだ。


 もしかして台所か?


 そういえば、彼女は契約書や領収書などの大事な書類を台所のどこかにしまっていた。

「こんなところに大事なものがあるとは誰も思わないでしょ」というのが彼女の言い分だった。


 そうだ、そうに違いない、


 思い立ったらじっとしてはいられず、片っ端から引き出しを開けて書類を探した。

 しかし、それらしきものはなかった。


 とすると、棚か?


 下の棚を探したが、調理道具があるだけでそれ以外のものは見つからなかった。


 あとは上の棚だけになった。

 神頼みをして左端の扉を開けた。

 二段になっていたが、下には缶詰が、上には即席麵があるだけだった。


 中央の扉を開けた。

 ここにもなかった。

 未使用の食器をしまった箱がいくつかあるだけだった。


 残るは右端の棚だけになった。

 恐る恐る扉を開けると、ここも二段になっていた。

 下にはアルミホイルや食品包装用ラップフィルム、フリーザーバッグなどがびっしりと隙間なく並べられていた。

 上も同じようにキッチンペーパーやコーヒーフィルターが上から下までびっしりと積み重ねられていた。まるで壁を作るように。


 見つめていると、ふと違和感を覚えた。

 余りにも整然としているからだ。

 案の定、すべてを取り除くと、白い箱が現れた。

 上下に各一つ。


 取り出して中を見ると、下の段の箱には領収書が入っていた。

 電気や水道、ガス、それにスマホやクレジットカードに関する領収書が直近2年分ほど個別に分けてしまわれていた。

 しかし、それ以外の書類はなかった。


 上の段から箱を出して開けると、契約書などが入っていた。

 マンションや生命保険、クレジットカードやスマホの契約書だ。

 それから、株取引関係の書類や自動車関連の書類もあった。

 しかし、妻の居場所を教えてくれるような書類はなかった。


 くたびれもうけだった。

 ヒントになるものは何も無かった。

 ガッカリして箱を二つとも戻したが、そこでまた違和感を覚えた。

 何か変なのだ。

 下の段の箱はきっちり収まっているが、上の段の箱が水平になっておらず、不安定なのだ。


 おかしいと思って箱の下に手を伸ばすと、思った通り、何かに触れた。

 引っ張り出すと、封筒が現れた。

 A4サイズの茶封筒だった。


 すぐに中を検めると、10通ほどの手紙が出てきた。

 一つ一つ見ていくと、写真が同封されたものが一通あった。

 その写真に写っているのは知らない女性だったが、特徴のある顔立ちをしていた。

 もしかしてと思って住所を確認すると、案の定、トルコからのものだった。

 それは他の手紙も同じだった。 


        *


 翌日、国際スピード郵便を使って、「アイラ」という名前の妻の友人宛に手紙を送った。

 メールアドレスと電話番号を付記して妻を探していると書いた。

 居場所を知っていたら教えて欲しいと書いた。


 しかし、返事は来なかった。

 最短3日で届くはずだし、『緊急』と赤字で明記したにもかかわらず、1週間経っても返事はなかった。


 それでも妻の知り合いの名前と住所がわかったことは大きな収穫だった。

 会いに行けばなんらかの情報が得られる可能性があるからだ。

 ためらうことなくトルコへ行くことを決めた。

 有給休暇の申請を明日の朝出すことにした。



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