アダムの生き別れの恋人
「あれ? 皆さんで お出迎えですか?」
外の調査へ向かっていた男達が帰って来た。
コロニーの運営に関わるイルカを先頭に、五人の男が次々と扉を通ってくる。
「お帰りなさい。誰か怪我人はいる?」
クイナが道を譲った。
「いいえ、居ません。相変わらずアダムさんが完璧で、少しの危険も感じませんでした」
イルカは、人懐っこい子犬のような顔で、笑った。
彼は、二十三歳になったが、ベビーフェイスで周囲には、未だに十代のように扱われている。
恋人のような関係のアゲハによって、右側が長いアシンメトリーなショートカットに整えられた髪型が、柔和な顔立ちをひきたてている。
「あれ? そちらの女性は?」
イルカが首を傾げた。
ラブは、自分に話を振られて、ボーッとしていた事に気がついた。
「あぁ、コイツは――おい、待て!」
ヘビが、ラブを紹介しようとすると、ラブは走りだした。まだ開いている扉を走り抜け、廊下を駆け抜け。次のドアに行き当たった。こちらは、金庫の扉のような、もっと頑丈で厚い扉で、開閉の記録もされる。
「……開けて!」
ドアに向かって叫んだ。
ヘビが呆れたように、ラブを追って歩いてきた。
「おい……」
ラブは、振り向かない。
グッと握った手が、体の横側で震えていた。
「外に何か御用なんですか?」
心配そうな顔で追って来たイルカが声を掛けると、ラブが輝いた目で振り返った。
ヘビの眉間に深い皺が刻まれる。
「赤い実がなる木を探したいの! イルカは外から来たんでしょ? 見なかった?」
「赤い実のなる木ですか? あー、今回はアダムさんが暮らしていたコロニーの周辺という所で調査してたんですけど、凄く自然豊かで、色んな作物がありましたし、動物も見かけました。今回は奥の方まで行ってないので、もしかしたら――アダムさんが戻ったら聞いてみましょうか?」
「うん!」
「その、アダムはどうしたんだ?」
ヘビが二人の会話に入り込んだ。
「あー、直ぐそこまで一緒に戻ってきたんですが、生き別れた恋人の捜索をしてから戻ると別行動になりました」
「また、勝手な行動を……」
「ま、まぁまぁ。アダムさんは、今回も大活躍で、収穫も中々な物でしたから」
許してあげましょうよ、イルカがヘビをなだめるように懸命に笑顔を作った。
「イルカ、ちょっと尋ねるが、アダムの恋人の特徴を聞いたことがあるか?」
「えっ……アダムさん、恋人の話になると、凄く寂しそうな顔するので、あまり詳しくは……僕らは二人で一つなんだとか、自分にピッタリの女性だとか、慈愛に満ちた素敵な女性だとか、そういうフワッとした事くらいしか」
「そうか」
ヘビは、ラブを見て、意味ありげに首を振りながら笑った。
(何? なんだか、馬鹿にされている気がする……)
ラブは、ヘビを睨んだ。
「それで、此方の女性は?」
「ラブです」
「外で拾った変な女だ」
ヘビの雑な紹介に、ラブが怒った顔をしている。
「サルーキ、行こう」
ラブが、ふんっと そっぽを向いて歩き出した。
「サルーキ、お前の その仲間を食堂まで連れてってやれ」
サルーキは、困ったように二人の事を交互に見て、ラブの後を追いかけていった。
イルカは、そっとクイナに寄っていき
「ヘビさん、どうかしたんですか? いつもと違いません?」
小声で聞いた。クイナは、質問に微笑みで返した。