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残されたヘビ
置いて行かれたヘビは、胸元からケースを取り出した。
中には、少しだけ黒糖がついている。
食堂でクイナに会った時に
「もう、可愛い御礼もらった?」
と聞かれた。
フクロウと、ハジメの報告を受けて、ラブが驢馬とキボコと争ったと知り
「あー、何か盗られてたって、バンビが言ってたなぁ」
とフクロウが呟いた。
それが御礼か、と察した。
「これか……」
空のケースを、眺めていると、ヘビは自分が笑っていることに気がついた。
この程度の菓子なんて、いつでも手に入る。
「……贈られる事が嬉しいのか? 何も無いのに?」
何度見ても、光に翳しても、ケースは空っぽだ。
目に見えない、何かは苦手だった。
理解しがたい、他人の気持ちは、もっと苦手だった。
「形はないのに、気持ちが伝わったとでも言うのか?」
今まで、ヘビは他の女性にも色々な物を贈られた。
しかし、貰う理由も、受け取る必要も無い物は断っていた。
フクロウは、贈り物は求愛行動の一つだから受け取ればいいと、ヘビを呆れたように笑っていた。
「俺は……アイツを受け入れつつある? まさかな」