表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

プリン2 軟弱な確率

幼馴染で高校生カップルの晴と真美は、家が隣同士で家族ぐるみで仲がいい。真美はプリンに対する異常な執着があり、それを可愛く思いつつたまにちょっと寂しくなる晴。

真美大好きで優しい晴と、晴大好きでちょっとツンデレな真美。そして時々プリン。たまにクスッと笑える学生ラブコメです!

「ねぇ、晴。これ食べてみたい。」


プリンモチーフの黄色と茶色のスマホケースに、プリンアラモードのキーホルダーをぶらぶらさせながら、真美はスクリーンに映る画像を見せてきた。


「軟弱プリン……?」

「そうっ。」


学校から帰って真美の部屋で宿題をしていたのだが、どうやら、真美は飽きてしまったらしい。


画面には、普通のプリンとは違って牛乳からできた白いプリンが写っていた。


「そのプリン、カップから器に出して食べるんだけど、とろとろすぎて空けた瞬間に崩れちゃうらしいの。」

「へぇ…、だから軟弱プリン。」

「そうっ。しかもそのプリンの中にソースが入ってて…」


 真美の白い指にスクロールされた画面から、ソースの説明が出てきた。

いちごやオレンジのフルーツ系から、抹茶や黒蜜、チョコレートまで、守備範囲広く数々のソースが並んでいる。全十種類で、一つはシークレットみたいだ。

さらに、そのプリンをカポッと器に空けて、崩れたプリンの中からたらっと艶やかなソースが流れ出る動画が流れてきた。


「…なるほど。」

「ね、美味しそうでしょ。」


お店の場所を見てみると、俺たちの家の最寄駅に隣接するビルの中だ。


「今度の土曜日にでも行ってみるか。」

「やったぁ!楽しみにしてる。」


そうと決まったら、真美はもう俺のことなんかそっちのけでスマホのプリンに夢中で、満面の笑みである。

プリンのことになると途端にこの笑顔だ。


俺に対してはいつももうちょっとツンツンしているのに…。


ちょっと寂しく思いつつも、まぁ真美が喜んでいるならいいか、と緩み切った顔でスマホを見ている真美を見つめた。




「じゃあ、また明日ね。」

「うん、ばいばい。」


あまり長居してしまってもよくないので、宿題をそこそこ終えたところでお暇することにする。


玄関まで見送りに来てくれた真美に手を振り、俺は数歩の距離の自分の家に入ろうとした。

その時、


ブーブーブーブー


スマホの着信音が鳴る。

ポケットから取り出して見てみると母からだった。


「もしもし。」

「もしもし、晴?今仕事からの帰り道なんだけどさ、ちょっと炭酸水買ってきてくれない?切れてるの忘れてて。」


少しハスキーだが凛とした母の声が聞こえてきた。


俺の両親はどちらも酒豪で、毎日2人で晩酌をするのがルーティーンである。わざわざ頼むくらいだから、きっとこの炭酸水もお酒を割るのに使われるのだろう。


「はーい。じゃあね。」


頼まれた炭酸水の銘柄を確認し、電話を切って、俺は一度家に入る。着替えようか少し迷ったが、面倒くささが勝りそのまま制服で行くことにした。


てくてくと街灯もまばらな住宅街を抜け、少し大きな道路に出る。一直線の道を歩いていると、すぐにスーパーのぼんやりと光る看板が見えてきた。


お店の目の前に来てみるとなんだか懐かしい感じがする。小さい頃はよく母と一緒に買い物に来ていたが、高校生にもなるとすっかり疎遠になってしまっていた。心なしか、壁の塗装も少しハゲたような気がする。


意外と低い入り口の自動ドアを通り、真っ直ぐ飲料コーナーへと向かう。お目当ての炭酸水をゲットし、空いているセルフレジでお会計をしていると、チラッと隣のおばさんに見られた。確かに、この時間に制服姿の高校生が買い物をしているのは少々珍しいかもしれない。


買い終えてスーパーから出ようとした時、ふと出入り口に並ぶガチャガチャの一つが目に留まった。レトロな喫茶店のメニューを集めた、キーホルダーのガチャガチャだ。なんとなく見たことがあるような気がして近づいてみると…


「あ、これ…。真美がスマホにつけていたやつか…。」


クリームソーダや、パンケーキなどのラインナップの中に鎮座しているプリンアラモードがいた。

真美のスマホについてぶらぶらしていた様子を思い出したら、なんだか自分の分も欲しくなってきた。


俺と真美は付き合っているとはいえ、元の関係が幼馴染で家も近いということから、あんまり2人で遠出をしたことがない。家で遊んでばかりで一緒に買い物に行ったこともない。


お揃いのものがほしいなぁ…。


なんて、少し思っていたところだった。


ガチャガチャのラインナップは、プリンアラモードにパンケーキ、クリームソーダ、小倉トースト、カフェオレの全五種類。プリンアラモードをお迎えできる確率は五分の一だ。回すべきか…。


迷った挙句、俺は100円玉を投入口に突っ込んだ。

カラカラと音を立てて回るハンドルを持つ手に、少し力が入る。


カタッ


プラスチックの乾いた音がカプセルの落下を告げた。そろーっと手を伸ばし、出てきた黄色のカプセルを取り出す。大したことでもないはずなのに、耳裏でどくどくと波打つ心臓の音が聞こえてきた。


パカッ


手応えもそんなになく、簡単に空いたカプセルの中から顔を見せたのは、小倉トーストだった。

ふぁーっと肺の中の空気を一気に吐き出す。


引けないかぁ…。五分の一。


真美はアラモードで俺はトースト、か…。

虚しいぐらいお揃いとは程遠い。


ガチャガチャの前で肩を落とし、立ち尽くしていると、さっきレジで隣にいたおばさんが今度はじぃーっとこっちを見てスタスタとお店から出て行った。


…ガチャガチャなんかで一喜一憂するような高校生ですみません。


店内にいた時間はそう長くないはずなのになんだかどっと疲れた。俺は少しの気まずさを抱えたまま、淡いスーパーの光に見送られて帰途についた。


ー土曜日ー


「ねぇ見て、めっちゃ並んでる!」


プリンのこととなり興奮気味な真美が、お店の方を指差して、るんるんしている。約束していた通り、俺たちは「軟弱プリン」を買いに来ていた。

確かに結構な行列だが、待てないほどではない。先を急ぐ真美の後を追い、俺は列の最後尾に並んだ。


「そういえばこのプリン、シークレットソースあったじゃん?」


前をちょこちょこ動きながら見ていた真美が、突然振り返って話しかけてきた。


「それ、そばのはちみつ味らしい。」


……ん?なんだそれ?そばのはちみつ味…?

そばのはちみつなんて初めて聞いたんだが…?

しかも俺…、


「なんか、SNSでも書いてあるし、よくみるとアレルギー表示にそばって書いてあって…」


俺があまりにもぽけーっとした顔をしていたからか、真美が追加で説明をしてくれているもの全く入ってこない。


「…それで、そのソースはちょっと独特な香りがするらしいんだよね。」

「ちょっと待って、真美。」

「なに?」


俺はこんがらがった頭の中で、とりあえず事実だけ

を述べる。


「俺、そばアレルギーなんだけど。」

「…………えっ?」


両者顔を見つめたままフリーズ。


「お客様、ご注文をどうぞー」


なんだかとってもバットタイミング。

いつのまにか列は進んでいたみたいだ。

連日多くのの客を捌いているせいか、洗練された感じの店員さんの声がする。


「あ、え、えと、軟弱プリンをふたつで。」

「かしこまりましたー。軟弱プリン二つで1540円になります。」

「あ、はい。」


あたふたしながらも、真美が注文をしてくれている。俺は回らない頭で、とりあえずカバンから財布を取り出して真美に渡し、もう一人の店員さんが差し出してくれた、二個の軟弱プリンが入っている紙袋を受け取る。


「ありがとうございましたー。」


店員さんの声を聞きながら、俺たちは店を去る。


少し歩いたところでようやく頭が働き出した。

聞き慣れないそばのはちみつなんて単語が並んだせいで少し焦ってしまったが、そんなに大したことではない。


「でも、結局食べられないのってそばのはちみつソースが出た時だけだよね?」


俺は隣を歩く真美に確認する。


「確かに。冷静に考えればそっか。アレルギーあるの知らなかったから驚いちゃったけど、そばの蜂蜜が出なきゃ大丈夫なんだよね。」

「うん。二個買ってるし、流石に大丈夫でしょ。」


ソースは全部で十種類。そばのはちみつ味を引く確率は十分の一だ。二個ともとなれば百分の一である。俺は情けなくも、この間どうしてもプランアラモードが欲しかったガチャガチャで、五分の一が引けなかった男だ。百分の一など引くわけがない。


一安心して、俺と真美は軟弱プリンの紙袋を抱え、家へと向かった。



「じゃあいざ、開封と行きますか!」


二人向かい合って、真美家のダイニングテーブルに軟弱プリンと器を挟んで座り、スプーンも持って準備万端だ。


『せーの!』


カポッ


器に出された軟弱プリンが、頼りどころを失って崩れる。ドキドキしながら見守ると、中から黒っぽい褐色のソースが出てきた。俺は、はて、とソースの一覧を思い出す。


…あ、黒蜜か!

やはり、十分の一などなかなか引くものではない。


「俺のは黒蜜っぽい。真美のは?」


真美の方のプリンに視線を移す。


「あれ!?真美も俺と同じじゃない?」


崩れた中からは俺と同じように黒いソースが顔を見せている。


俺はこの前プリンアラモードを引けなかったショックから、思いがけずこんなところでお揃いをゲットしてしまい嬉しくなってしまった。


「食べてみよっか!」


と、真美の顔を見たらなんだか引き攣っている。


「真美?」


少し話すのを躊躇ったようにした後、真美が口を開いた。


「……そばのはちみつってね、黄色っぽいんじゃなくて、黒っぽいらしいの。」

「…………えっ?」


本日二度目の大混乱。


すると、なんとも言えない独特な、明らかに黒蜜ではない香りが鼻腔をくすぐってきた。


「これ、そばだと思う…。」


余命宣告のような真美の重い言葉が聞こえた。


「……マジか。」


…………そんなことってあるのかよ!


……頼むから確率よ、名前らしく確固たるものであってくれ。五分の一は起こらないけど、百分の一が起こっていいなんて…。そんな、そんな軟弱なものであっていいのか!! (良いわけがない!!)


俺はカラーんとスプーンを取り落とし、ゴトッと机に突っ伏すしかなかった。


〜終〜


どうも作者の篝火京嘉です。


突然ですが、皆さんはそばのはちみつを食べたことがありますか?作者はあります。どこかの養蜂場に行った時に、その黒い色に目がいって試食させてもらいました。


今回はその時のことを思い出して、このお話を書きました。もしよかったら感想等書いていただけると作者は大変喜びます。


これからも、あ、これ面白い!と思うネタが浮かんできたら、ちまちま更新して行くつもりです。その時はぜひまた読んでいただけたら幸いです。


ではまた〜。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ