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プリン1 晴の過ち

「それじゃあ次、橋田さんお願いします。」


授業は残り六分二十九秒。もう少しで放課後だ。


「はいっ!」


 嬉しそうに立ち上がったのは、橋田姫香、通称:ゆめか、だ。

ロマンチック・メルヘンチック・乙女チック全てを足し合わせた脳を持つ、究極のお花畑女子。

夢見る女子=ゆめか、というわけだ。


「私が今回作った短歌は『ごめんねとその一言が言えなくて帰り支度の君を見送る』ですっ♡」


 授業は残り六分十一秒。

 語尾にハートが見えたのは気のせいだろうか。正直悪い予感しかしない。

 俺、久保晴はこのまま授業が終わることを察知し、シャープペンシルを筆箱に放り込んだ。

気付けば、周りのみんなもガサゴソと筆記用具を片付けている。


 みんな考えることは同じか……。


「この短歌は身分違いの恋を詠んだ歌なんです。女の子の方はものすごいお嬢様なんですけど、男の子の方はフツーの家庭なんですね。それでも2人は互いの良さに惹かれあって恋に落ちるんです!もうこの時点でグッとこう胸にくるものがありませんか!?誰にも応援されることのない茨の恋なのに、なのにっ、二人は歩もうとして行くんですっ!それに……」


あ〜ぁ。勢い有り余って涙目になっちゃってるよ……。

一見普通の短歌なのにどこからその発想が出てくるんだ?

マジで、何読んだんだろ……。


「それでもある日、男の子は思うんです。彼女に本当にふさわしいのは自分じゃないって。いや、そうかもしれないけど!!男の子からしたら辛すぎませんか!?私からすれば、お小遣いをつぎ込んで買った少女漫画の『君の彼方へ』を燃やされたようなものですっ。うぅ……。想像しただけで悲しくなってきちゃいました。でも……」


 思いがけず何を読んだのかという謎が解けて、その少女漫画にある意味興味が湧いてきた。


 がしかし、俺が今興味のあることといえば、幼馴染で彼女の真美のことだけである。授業中にもかかわらず今も真美は頬杖をついてうたた寝をしているが、それすらも可愛く思えてしまうのは、恋は盲目というヤツであろうか。


 真美と俺は家が隣りで、いつも一緒に登下校をしている。

腐れ縁からのお付き合いということだ。

真美はちょっとツンツンしているところもあるが、俺たちの関係は非常に良好だと思う。

こればかりは盲目でないと信じたい。

現に周りからは「ホント仲の良い(バ)カップル」と評されている。

尚、カップルの前の接頭語は気にしないものとする。

ズバリ、俺と真美の仲の良さは友達公認、お墨付きというわけだ!エッヘン!


 がしかし、俺はとんでもない過ちを犯してしまった。久保晴人生最大の危機に直面中。


 時は朝に遡る。


 我が久保家は両親共にバリバリのフルタイムワーカーであるため、俺は幼い頃から真美の家で朝の面倒を見てもらうことが多かった。

それは幼馴染から恋人へと関係が変わって今でも続いている。

 今日も俺はパパッと最低限の身支度を整えると朝食を食べに隣へと向かったのだが……。


「あれ?真美、今日はずいぶん早くないか?」


 俺が玄関を開けて真美の家に入ろうとしたところ、ばっちり準備を終えた真美がちょうど出てきたのだった。


「ひぁっ、はるぅっ!?あ、お、おはよう。

きょ、今日ちょっと用事あるから、先学校行ってるねっ!じゃ、またあとで。」


 一方的に嵐を巻き起こし、真美は去って行った。

俺を見てすごく慌てていた気がするが……。何かあるのだろうか?


「晴くーん。おはよう。早く朝ごはん食べないと、遅刻しちゃうわよー。」


中のキッチンから真美の母、洋子さんの明るい声がした。


「はーい。今日もお邪魔しまーす。」


 俺はさっそく腹を満たすべくまだ少し湯気の立つ朝食名前に座った。

今日の朝ごはんは、ホットサンドで毎度のことながらプリンのデザート付きだ。

このプリンは、あの菓子名店「ラピス」の看板商品で真美の大好物である。

朝ごはんで毎日食べるうえ、おやつに食べることもあり、当然プリンの消費量は半端ではない。

どうやったのかは知らないが、お店と直接交渉しダース単位で買っているらしい。


 真美のプリンに対する執着心は本当に半端ではなく、特にダースプリン最後の十二個目に対する執着心は並外れている。

最後の一個まだ食べ切り、ダンボールを空にするのがなんとも言えない達成感らしい。

カロリーは大丈夫なのか心配だが、年頃の乙女に聞くのはいくら真美とはいえ憚られる。

それに第一、怖くて聞けない。


 そんなこんなで、俺はすっかりプリンまで食べ終えるとからの食器を持ってキッチンまだ運んだ。


「洋子さん、ご馳走様。美味しかったです。」

「あら、ホントー。」


 洋子さんはそう答えつつもどこか上の空で、何やらガサガサ冷蔵庫の中を漁っている。


 ちょうどいつもプリンを入れている最上段のあたりだ。


「あれ……、やっぱりプリンがないわ……。」


今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「洋子さん、プリンもう冷蔵庫にないんですか?」


「えぇ、ないわ……。晴くんに出したので最後だったみたい……。」


 冷蔵庫から引っ張り出されたダンボールが目に入り、俺は全身の血液が下に落ちて行く感じがした。


久保晴の過ち-真美のプリンを食べてしまった。


授業は残り四十七秒


 俺は真美に謝らなければいけない。

だが、果たして言えるのだろうか?

「最後のプリン食べちゃってごめんね。」なんて。


いや、誰がそんなこと言えるだろうか?

(……言えるわけがない!!)


 結果、国語の教科書に反語の例として載せられそうな文ができました。なんて、マジで笑えない。

でもどうしたらいいんだ?

俺がちっちゃい頃真美にもし明日世界が終わるなら何したいって聞いたら、意気揚々と「プリンとケッコンする!」って答えたんだぞ?

その時から真美のことが好きだったから、俺は受けた心的ダメージで世界が滅ぶんじゃないかと思ったわ。


 だがしかし、ここは男として腹を括ってやっぱり謝るべきか……。


キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン


 チャイムに背中を押され、俺は謝ろうと決意した。


「起立。気を付け、礼。」

「ありがとうございました。」


 俺は謝るべく真美の机へと向かう。

すると、さっきまでの眠気はどこやらあっという間に荷物をまとめていた。


「ちょっと、真美……?」

「あ、たかし?えっと、あの、その、ちょっと今日家でなんかあった気がするから帰るね!」


……避けられている。もしかして、プリンを食べたことがバレているのか?

いや、でもそんなはずはない。

朝、真美が出て行った後に俺はプリンを食べている。それにしても……


「(プリン食べちゃって)ごめんねとその一言が言えなくて帰り支度の君を見送る」


身分違いの恋でもないが、無性にこの歌が刺さってしまった。


……その頃の真美といえば


「今日は晴の誕生日〜♪今日は晴の誕生日〜♪」


 本人はあまりの失態に忘れているが、今日は晴の誕生日だ。

真美はプリンを食べられたことなど知らずに、彼氏の誕生日をサプライズで祝うため急いで家へ向かっていた。


 今日朝会ったときは、本当にびっくりした。

会ったら思わず口を滑らせてしまいそうで、顔を合わせないよう気を付けてたというのに……。


 晴にお誕生日おめでとう!って言えるかな?

(……そんなに素直に言えるわけがない!!)


こちらも、国語の教科書に反語の例として載せられそうな文を作っていた。


〜終〜

はじめまして。篝火京嘉(かがりびきょうか)と申します。

今作は私の小説デビュー作です。

個人的にはのびのび書けたラブコメなので、皆さんにも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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