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エッセイ

Web小説のライバルは漫画ではなく、アニメでもゲームでもない、『動物救済動画』でした。でもそこと争うのはキツいです。

作者: シサマ


 皆様こんにちは! シサマという者です。


 

 私は今春から、給料がほぼ変わらない昇進という理不尽な仕打ちを受け(笑)、環境適応に時間を要しています。

 連載小説更新も遅れ、それ以外の余暇を思い通りに使う事もままならない日々でした。


 そうなると当然、娯楽も身近なもので済ませざるを得なくなり、(よわい)50にしてYouTubeを眺める時間が増えたのです。


 一応、私のスマホはパケット無制限プランに入っているので、動画を見る事への障害はありません。

 しかしながら、これまでは友達から面白いと薦められた動画や、近いうちに買おうと思っている商品の紹介動画くらいしか見ていませんでした。

 

 

 増々インドア派を極める近頃の私は、若い頃からならしている音楽活動への回帰……とりわけドラムマシンやシンセサイザーに傾倒。

 安価かつ場所を取らずに演奏や音作りが楽しめる、『ガジェットシンセ』の所有が増えています。


 ところが、ガジェットシンセには海外メーカー製造のものが多く、不完全な日本語マニュアルだけでは操作に迷う事もしばしば。

 そこで世界中のシンセマニアの方々によるプレイ動画を見て、「今、どこのボタンやノブを触っているのか?」という直感的操作を学びました。


 シンセマニアの動画など、世間ではマイナーもマイナーですので(笑)、煩わしい広告なども殆どなく、無料で実用的という恩恵にあやかっておりますね。



 ……さて、このエッセイの本題はここからです。


 YouTube動画を見ていると、これまでのネット閲覧の履歴からお薦め動画が勝手に選び出されるのでしょうか?

 ガジェットシンセのプレイ動画だけではなく、特撮やVシネマの名場面、マフィアやドラッグの闇ドキュメント、韓国のお姉さんがくねくね踊るセクシー動画など(笑)、私を動画漬けにしようとする資本主義のハリセンが容赦なく降り注ぎました。


 その中でもついつい見てしまうのが、可愛い動物の動画ですね。

 

 はじめのうちは私が大好きかつ、世間ではややマイナーな存在である、コウモリやフクロウの動画を好んで見ていました。

 一見不気味な印象のあるコウモリの赤ちゃんが、黒目オンリーのつぶらな表情でフルーツを美味しそうに食べる動画には現実離れした可愛さがあり、一見無愛想に見えるフクロウが人間にじゃれついたり、口を開けてボケッと眠る動画もその筋の者には堪らない魅力があります。


 そして、鑑賞する動画のジャンルが徐々に楽器と動物ものに絞られてきたその頃、私の目にとある動画が飛び込んできました。



 その動画の見出しには、怪我をして痩せ細った子猫の姿。

 今にも死んでしまいそうなその子猫の画像の下には、「〇〇の奇跡」といった思わせぶりな内容の言葉。


 これは可哀想な動物を助ける『動物救済動画』だと分かった私は、その存在に何処となくあざとさを感じつつも、子猫が可哀想なまま無視する訳にはいかず、ついつい8分程の動画を全部見てしまいました。


 動物救済動画は、その大半が一定のパターンに沿って進行します。

 

 序盤は悲しげなBGMの下で動物の窮状が示され、保護した人間達の懸命な努力を紹介。

 そして中盤からはメジャーキーによる希望を感じさせるBGMにチェンジし、動物が重篤な容態から回復して元気な飼い犬や飼い猫となり、それ以外の動物は自然に帰る結末を見せて終了……というパターンでした。


 怪我や病気、或いは虐待で困窮していた動物が元気になる過程は、誰の目にも安心感を与えてくれます。

 また、最初に苦労を知っている動物はどこかの人間とは違って、そこを盾にしてわがままになったりつけ上がったりもしませんので(笑)、心が洗われますよね。


 加えて、自然の厳しさや一部の人間の残酷さ、無報酬の救済にも果敢に挑む人間の情熱なども知る事が出来るので、あざとさや偽善臭さがあったとしても、ユーザーは自分の良心を試すかの様についつい連続視聴してしまうのです。



 ただ、連続視聴するユーザーの行動には明らかな変化が生じていると考えます。

 私個人としては動画が始まり、悲しげなBGMによる窮状を5秒ほど確認した後は、さっさとBGMが明るくなるシーンまで早送りしていました。


 可哀想な所は見たくない。

 ハッピーエンドだけ見たい。

 でも、可哀想な所が要らない訳ではない。


 といった複雑な胸の内を、出来るだけ単純な行動で娯楽に置き換えていると表現してよいでしょう。


 このエッセイをここまで読んでくれた方は、もうお分かりですね。

 YouTubeの『動物救済動画』は、現在のWeb小説とほぼ同じ需要によるコンテンツなのです。



 現在では、この『小説家になろう』サイトの隆盛もピークを過ぎた印象があり、Web小説からプロのライトノベル作家というジャパニーズ・ドリームの縮小は否めません。

 しかしながら、なろうを始めとするWeb小説発のコミカライズやアニメ作品は年々増加しており、お茶の間に浸透したWeb小説のノウハウは、むしろこれから日本のテレビドラマや映画を侵食すると考えていますね。


 私個人としては望まない方向ですが、これから日本のテレビドラマや映画は、パワハラ上司や毒親に対するざまぁ作品や、冒頭に恋人から理不尽な扱いを受けるラブストーリーばかりになるのではないでしょうか?


 どんなジャンルであれ、面白い作品を作るには才能や努力、学習が必要です。

 しかしながらSNSトラブルの蔓延を見ても分かる様に、近隣への怒りや不満にはそもそも資本が要らないので、誰でもクリエイターを目指せる環境はあります。

 

 そしてこれは動物救済動画にも言える事ですが、悲劇や災難からの脱却、成功を凝縮した作品はユーザーの感情を無意識に揺さぶっているので、それ以外の娯楽を受け付けるメンタルの柔軟性を、一時的に奪ってしまうんですよね。


 可哀想な動物には全く罪がありませんし、多少あざとさや偽善があったとしても、動物を救済する側の人達にも罪はありません。

 とは言うものの、生まれたばかりの子猫がゴミ箱に捨てられていたという動画の始まりが真実なのか、それともドラマティックな動画撮影のために5分だけゴミ箱に入れるのを許してもらったのか、そこに考えが及んでしまうと、ユーザーは自分にも他人にも嫌悪感が充満してしまうのです。


 更に加えて、時代はよりインスタントな感動を求めているので、映画も動画も早送りで見てしまい、Web小説も短いスパンでのカタルシスを求められる様になりました。

 勿論その間、無意識のうちに揺さぶられたユーザーの感情は、ストレス解消をしていたつもりの娯楽で、実は僅かにストレスや疲労を溜めている可能性も否定出来ません。



 私は結局、動物救済動画を見るのはやめました。

 楽器関連の動画は今でも見ていますが、動物関連の動画は、100%ハッピーで楽しいものをたまに見る程度になったのです。


 この経験は、自分が好まないタイプの小説が何故Web小説の主流なのかを痛感させられ、自分はその道に進まなくとも、その道自体を否定する事は出来ないと改めて認識しました。

 そして、自分自身の進むべき道と心身の健康を保つためには、時には競争や流行から逃げ、最前線で現実と戦う人達からの批判や嘲笑も、静かに受け入れる覚悟が必要であると再確認した次第です。



 仕事の転機を迎え、ここ『小説家になろう』サイトでの創作活動を小休止していた私。

 しかし今現在、ガジェットシンセとかいじり放題であるにもかかわらず(笑)、私はこのサイトの創作活動に戻ってきました。


 誰とも争わない、より強靭なスタンスを確立し、斜に構えて時代に抗う意識……そんなものさえ捨て去り、これからも自分のための創作をここに刻んでいきたいですね。

 

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― 新着の感想 ―
[一言]  そういう動物に出逢ったときに、どうしてあげれるかの参考になるとしたら、有意義な動画ですよね。
[一言] 大変参考になります お互い頑張りましょう \(^o^)/
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