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第78話 瞳の中の惨劇

 ——先輩、俺は最低です。


 そんな分かりきった懺悔しか皇にはできない。

 巴の制止を振り切って。巴を地面に転がして。そして巴の目の前で——

 ——殺した。


(——殺せた)

 血は勢いよく噴出し、身体は気味悪く痙攣している。

 出血性ショック。

 死にゆく白尾を冷徹に見下している自分がいた。


(ああ、これで俺は——)


 ほんの少しの安堵と達成感。後悔がないと言えば嘘になる。だけど、引き返すことはできなかった。


 ——許せなかった。

 どうしても。

 白尾爽悟。鬼畜の所業を嗤って働く、その男だけは。

(たとえ先輩が許し、法に許されたとしても——)


 二宮皇には、赦すことができなかった。

 

    ◇


 なんて無力。なんて無様——。周囲一帯を圧殺するかのような絶望感が巴を強襲する。


 せっかく会えたのに。せっかく声をかけられたのに。

(——また、私は失敗した)

 先回りはできていて。白尾が実は引っ越していたなんてこともなく。途中まではうまくいっていた。それなのに——。


 およそ現実感のない光景だった。生々しさなんて微塵もない。機械仕掛けの演出のように真紅のにわか雨が降る。


 どうして。なんで——。混濁する思考。捻転する自意識。皇は何をしたのか。自分は何をしたのか。何が起きたのか。何もできなかったのか。何も分からない。何も理解できない。現実を現実だと認識する能力が失われている。


 果たして、それは拒否か放棄か。己の心を壊すまいとする防衛本能か。巴の脳は情報処理を停止した。

 だが、その無感情な瞳だけは冷酷に事実を映している。


 アスファルトを侵食する夥しい量の血液。致命傷を負った誰かと、負わせた誰か。それらが網膜に刻まれて——


 巴の喉から、声にならない呻きが漏れた。

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