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第21話 こっちを向いて

 自宅を出た巴はいかに転ばずに早く歩くかという点に集中し、徒歩10分ほどの駅への道を急ぐ。信号待ちの間に一応、皇にLINEを入れておいた。

『ごめん!ギリギリになりそう』

 謎の動物がぴえんと泣いているスタンプも添えておく。これでよし。いや、もちろん遅れないよう最善は尽くすけども。

 待ち合わせ場所は高校の最寄駅である東中神駅。つまり皇の家の最寄駅であり、巴の家の最寄駅からは電車で5分ほど。その先は立川で、都心へと続く。とりあえず吉祥寺辺りにでも繰り出そうかと思っているが、詳細は決めていない。巴は計画を立てるのが得意でないため、皇に丸投げする形を取った。


 足早に改札を通りホームに降りると、まもなく電車が入ってきた。どうやら間に合ったみたい。巴はホッと一息つく。スマホには皇からの返信が来ていた。

『慌てなくていいですよ。<待った?><僕も今来たとこ>ってやつやりましょう!』

 台本か。巴はOK!と例のスタンプで返す。

『前から思ってたんですけど、その動物リスですか? カバ?』

『え、分かんないw』

『(汗をかいた笑顔のスタンプ)』

 そんなやりとりをするうちに電車は目的地に着いた。改札を出てすぐのところに皇の姿を見る。よし、やるか。

「————待った?」

 小鳥も恥じらう全力のカワボをお届けした。巴は自分なりに可愛く決められたのではと思ったのだが、皇は固まって動かない。

「あれ? お望みの茶番やったんですけど?」

「茶番て」

 皇はツッコミを入れながら自我を取り戻した。巴に見惚れていたっぽい。

「くう、三船先輩、かわいすぎかよ……」

 そして崩れ落ちる。

「え、ちょっと。大丈夫?」

 思わず皇の顔を覗き込む巴。

「大丈夫じゃないですよ! 私服だけでも破壊力すごいのに、その髪型! 俺を殺す気ですか!?」

 巴を直視できず、皇は辛そうだ。

「えー。ダメだった?」

 巴はふてくされた演技をする。

「ダメじゃない!! 最高です!!」

 なぜか必死な皇。巴は褒められて気分がいい。

「皇くん♡」

 自然と皇の手を取った。

「—————!!」

「じゃ、行こっか」

 そのまま手を繋いで改札へと逆戻り。少しの間無言だった皇が口を開く。

「三船先輩……」

「ん?」

「先輩の手、めっちゃ触り心地いい……何で?」

「フフッ。皇くんウケる。バカなこと言ってないで、とりま吉祥寺でいいんだよね?」

「あ、はい。井の頭公園とか行きませんか?」

「いいねー。デートっぽい!」

 週末の日中、電車内にはそれなりの乗客がいた。巴と皇が並んで座れる席はなかったが、皇は巴に着席を促す。

「いいの?」

 巴はお言葉に甘えて席に着く。立川で乗り換えとなるためわずかの間だが、履き慣れないヒールで来てしまったのでありがたかった。皇は巴の前に立ち、主に窓の外の景色を眺めているようだ。


 まもなく電車は立川に着き、2人は中央線へと乗り換える。中央線は安定の乗車率で、今度は並んで吊革に捕まる。途中でドア横のスペースが空いたので、巴は手すりに切り替えた。皇は相変わらず窓の向こうを見ている時間が長い。巴はたまらず皇のほっぺたをつまんだ。

「ねえ皇くん。全然こっち向いてくれないねえ」

「うっ」

 バツの悪そうな顔をして、皇は素直に謝った。

「すみません先輩。その、なかなか先輩の可愛さに慣れなくて……」

「もう、早く慣れてよ〜〜! ほらほら、見ないと慣れないよ?」

 皇の視線の先にひょっこり頭を持っていくと、皇がサッと目を逸らす。それを何回か繰り返した。

「なんでよ〜。照れてるの〜?」

「照れてます。あと近いです」

「ちゃんと目を見てお話ししよ? 泣いちゃうよ?」

「待って泣かないで」

「てかさ、昨日とか普通に話してくれたよね」

「制服の三船先輩も可愛いんですけど、今日はまた新鮮というか……」

 規格外というか。皇は言葉に詰まる。巴の可愛さは重々承知していたつもりだったが、電車の中でこうも距離が近いと、どうしても意識してしまう。それは本来喜ばしいことなのだが、逆に言えば逃げ場がない。

 身長差から、電車が揺れるたびに巴の頭が皇の顔に急接近する。その髪からはふわりといい匂いがしてくる。抱きしめたくなる衝動に駆られるが、まさか実行するわけにはいかない。理性の剣を取り本能に抗う。それなのに巴はこっち向いてとか言ってくる。それで皇は見てしまった。


 そこには天使がいた。大きな瞳。愛嬌のある唇。からかうような笑顔。もし今ここに布団があったなら、うわああああ! とか叫びながらゴロゴロ転がってしまうだろう。それほどまでに——皇が想いを寄せる相手は、ただひたすらに可憐だった。

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