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(くっ……数が多い!)
俺は内心で焦りながらも周囲の箱達を見ると、そこから無数の糸が飛び出してきたのだ。
「ちっ!」
咄嗟に骨剣で切り捨てようとするが流石に切れなかった。そして今度は機械兵器達が空中から爆弾のようなものを投下してきたので回避するしかなかったのだ。
(くそっ!どうすれば……!)
「おい、ロスカ!! 話は通した筈だぞ。何故、ライル達を攻撃している!?」
急にシオウさんの怒鳴り声が聞こえた。
どうやら、彼がロスカという女性に対して怒鳴っている様だった。するとスピーカーから先程の女性の声が聞こえてきた。
『シオウ……しかし……』
「儂の客だと言った筈だが?」
『了解しました!攻撃を中止します!!』
彼女がそう言うと俺達に放たれた弾丸は止まったのだ。だがホッとしたのも束の間で、今度は後方から更なる機械兵が現れたのだ!
(なっ!?)
俺は愕然としたのだが……彼女は焦った声で撤退命令を下し事なきを得た。
「ライル殿、お怪我はありませんか?」
カヨウさんが心配そうに聞いてきたので俺は大丈夫と答えた。シースさんもこちらに近付いて来たが彼は難しい顔をしていた。
「どうかされましたか?」
俺がそう尋ねると彼は言った。
「今の機械兵じゃが……型番がな」
「型番……ですか?」
俺が聞き返すと彼は頷いた。
「うむ、間違いないぞ……今の世代よりも随分と前の型番じゃ。儂の記憶では100年程前に廃番になった筈だ……なのに何故」
その話を聞いた俺は、もう一度機械兵を見てみたのだが、確かにシースさんの言う通り旧式の型番だと思えた。
(そんな事があるのか?)
俺が考え込んでいるとカヨウさんが話し掛けてきた。
「シオウ樣、ライル殿とりあえずは集落へ向かいましょう?」
カヨウさんの言葉に俺も頷いて答えた。
「そうですね……今の騒ぎで何か分かった事もあるでしょうし……」
そんな俺達のやり取りを見ていたシオウさんは頷きつつ言った。
「よし、では行くとしようか……」
彼の言葉を合図に俺達は再び歩き出したのだった……
「……ふむ」
それから数分後、シオウさんが立ち止まって辺りを見回し始めた。どうしたのだろうと思い彼を見ていると彼は口を開いた。
「着いたは着いたのだが……」
(ここがそうか?)
眼の前に聳え立つのは、合板製なのか鈍く光る鉄の扉が行くてを遮っていた。
「なんというか、集落というより軍隊の施設を思い出しますね」
「確かにそうかもしれんな、此処はただの人間ならば立ち入ることは叶わん場所よ」
シオウさんはそう言うと扉に手を当てて呟いた。
「合言葉か……」
(合言葉?)
すると扉が鈍い音を立ててゆっくりと開いていった。「よし!行くぞ!!」そう言って彼は歩き始めたので俺達も後を追った……のだが━━
(この扉にも何か仕掛けがあるんじゃないか?)
そんな懸念もあったが、幸い何も起こらなかったのでホッとしつつ中に足を踏み入れた。そして俺はそこで見たのは、様々な機械達が何かを作る作業や、朽ちた物の修繕をしている光景だった。
「ここは?」
俺が尋ねるとシオウさんは説明してくれた。
「此処はロスカの奴が作った里よ。機械の者だけしか居ない里故、防衛設備は完璧だがな」
そう言いつつ歩き始める彼に付いて行くと、大きな作業場のような場所に辿り着いた。そこには複数の機械兵が忙しなく動いている様子が見えた。その内の1台が俺達の存在に気が付いたようで近寄って来た。そしてスピーカーから声が聞こえてきたのだ。
『そのまま奥の建物に入りなさい』
(この人がロスカさんなのか?)
先程の機械兵のスピーカーから聞こえたものと同じ声が俺達を奥の部屋へと誘った。
言われるままに付いて行くと、そこには研究室の様な部屋があった。
そして中央にある巨大な機械の目の前にシオウさんは立ち軽く触れた後に言った。
「久しぶりじゃな……ロスカ」
(知り合いなのか?)
俺はシオウさんの言葉に疑問を抱いていると、部屋の奥の扉が開き女性が入って来たのだ。そして俺達の方に歩いてくると彼女は口を開いた。
「あら、久しぶりね……シオウ。まだくたばってなかったのね」
そう言って彼女は小さく微笑んだように見えた。
俺は二人の会話を黙って聞いていたのだが、やはり聞き慣れない単語や言葉が飛び交っていたので理解が追いつかなかったが、どうやら知り合いのようだという事はわかった。
そんな俺の様子を察したのかロスカさんが話し掛けてきたのだ。
「いきなりで失礼したわね?私は有機生命型コアユニットのロスカ・シェリーよ」
(えっ!?)
「ああ、合点が行く訳じゃわい。此処はどこぞの国か集団の作った実験場といったところじゃな?」
シースさんの言葉にロスカさんは微笑しつつ言った。
「ええ、そうよ……これは私のマスターが作った楽園の試作品よ」
彼女の言葉を聞いた俺は思わず耳を疑った。
(つまりこの人は……)
俺が驚いていると彼女はクスッと笑ってから話し出した。
「私は人間ではないわ、まぁ詳しく話すと長くなるのだけど……」
そんな前置きをしてから話し始めたのだ。
まず彼女が最初に語った事は、この機械だらけの集落は廃棄された施設だと言う事。そして此処にある機械達は全て彼女のマスターと組織の人の手によって作られた物だと教えられたのだ。━━二百年程前に。
「それじゃあ、さっきの機械兵達は貴女達の……」
俺がそう尋ねると彼女は肯定したのだ。
「そうよ……といっても今は殆どが使い物にならないけどね」
自嘲気味に笑う彼女に俺は尋ねた。
「使い物にならないとはどう言う事でしょうか?」
俺の問いに対して彼女は答えた。
「私達は人間じゃ無いから食事とか睡眠と言った概念が無いのよ」
(ふむ……確かにそうだな)
俺が頷いていると更に続けて言ったのだ。
「それに寿命も無いわ、だから壊れて動かなくなるまで修繕し続ける生き方しか知らないのよ……」
そう言って悲しそうに笑う彼女を、何とかしてあげたいと考え込んでしまうほど印象的だったが、かと言って同情するのは違うんだろうと思う。
そう思っている最中、ロスカさんが口を開いた。
「所で此処にはどんな用事できたのかしら?」
(おっと、そうだった。とりあえず事情を説明するか)
俺が今までの経緯を話すと彼女は深く頷いた後に言った。
「そう……少し待っていて頂戴」
そう言うと彼女は近くにあった端末を操作し始めた。数分後に一つの資料を手に持って戻ってきたのだ。そして俺達に見せながら説明を始めた。