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そんな俺の様子に気付いたのかアルティスは俺に聞いてきた。
「私の顔に何か付いてますか?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ、君に見覚えがある様な気がしてね」
俺がそう言うと彼女は少し驚いた顔をした後に悲しそうな顔をして答えた。
「……それはきっと勘違いですよ」
(あれ?何か不味い事を聞いたか?)
そう思った時だ。突然警報音が鳴り響いたのだ。
「な、何だ!?」
俺が驚いているとアルティスが冷静に答えた。
「この音は魔力感知に反応があった時の警報音です」
(魔力感知?確か魔導船にはそんな機能があるとエリナが言っていたな……)
俺は急いで甲板へと出る事にした。
─── 甲板に出ると既に皆が集まっていた。そして、船の前方を見ると巨大な白い獣がいた。その獣は体長5m程で長い尾があり、顔は狼の様だったが、身体はライオンの様だった。
「な、何だアレは?」
俺がそう言うとローギウスが答えた。
「あれは『氷狼』だ魔狼の1種だ。何故こんな熱帯に居るのか知らないがな」
「あれが氷狼……」
俺は昔に読んだ本の内容を思い出しながら話の続きを聞く事にした。
「あの白い獣は群れで行動し縄張り意識が強いので近付くと襲ってくるのだ。元々は極寒地帯に生息しているだけどな!!」
(成る程、だから魔力感知の警報が鳴ったのか……)
俺が納得していると、エリナが叫んだ。
「ローギウス!アルティス!シース!アタシ等も出るよ!」
「はい」
「分かりました」
「仕方無いのぉ」
3人は返事をするとそれぞれ武器を手に持ち船から飛び降りた。
(あの3人……強いのか?)
そんな俺の疑問に答える様にエリナは俺に話し掛けてきた。
「ライル、アンタは此処で待ってな!」
そう言うと彼女は甲板から砂浜へと飛び降りた。
そして、エリナは空中で鎧を身に纏い着地すると剣を抜いて構えると氷狼に向かって叫んだ。
「アタシは『アスラル』の船長、エリナだ!この船に何の用だい!」
そう叫ぶと氷狼達は一斉に吠えながら襲い掛かってきた。
(来るか!?)
俺が身構えていると、アルティスが俺を守る様に前に出た。
「大丈夫ですよライルさん」
そう言うと彼女は両手を前に突き出すと呪文を唱えた。
「風よ!敵を切り裂け!『ウィンドカッター』!」
彼女が呪文を唱えると風の刃が飛んで行き、氷狼達を真っ二つに切り裂いた。
(やっぱり凄いな……これで初級魔術の威力か)
俺が驚いていると今度はエリナが叫んだ。
「アルティスにばっかり良い格好させられるかよ!アタシも行くぜっ!」
そう言うと彼女は剣を構えて走り出し、次々と氷狼達を倒していった。
その様子を見ていた俺は素直に感心してしまった。
(流石は空賊……この船は伊達じゃないな)
それから数分後、全ての氷狼は討伐され、戦闘は終了した。
するとエリナが俺達の前にやって来て話し掛けてきた。
「どうだい?アタシ等に任せておけば心配ないって事がよく分かっただろ?」
「ああ、よく分かったよ」
俺が素直にそう答えると彼女は得意げに笑っていた。
そんなやり取りをしているとアルティスが俺に声を掛けて来た。
「ライルさん、よろしければ一緒に船内に戻りませんか?御食事の用意を致しますので……後は魔装の話も少し」
「ああ、分かった。よろしく頼むよアルティス」
俺は彼女に促されて船内に戻る事にしたのだが、途中でエリナに呼び止められた。
「ライル!ちょっと話があるから後でアタシの部屋に来てくれ!」
「……?ああ、分かった」
俺がそう答えると彼女は笑顔で手を振りながら船の中へと戻って行った。
(何の用だろう?……まぁ、行けば分かるか)
そんな事を考えつつ、俺も船内へと戻るのであった。
─── 船内に戻ると船員達が慌ただしく動いていた。皆、慌ただしく動いているのを見ると何だか落ち着かない気持ちになったので少し気になった俺はアルティスに話を聞く事にした。
「なぁ、この船っていつもこんなに騒がしいのか?」
俺がそう尋ねると彼女は困った顔をしながら答えた。
「いえ……普段はもっと静かですが……」
(やはりそうなのか?じゃあ何故今日はこんなに慌ただしいんだ?)
そんな事を考えつつ俺は彼女に再度質問した。
「どうして今日はこんなにも慌ただしいんだい?」
俺の問いにアルティスは少し考え込んだ後、口を開いた。
「多分ですが……氷狼の群れに遭遇したせいだと思います」
「そうなのか?でも何で?」
俺がそう聞くと彼女は少し悩んだ後に話してくれた。
何でも、氷狼の毛皮はとても丈夫で高く売れるらしい。
その為、血抜きから皮剥ぎ、鞣し作業と大忙しに成っているのだとか。
肉も食用として使い、運が良ければ魔石も手に入る事があるらしい。
「骨は何かに使えるのか?」
「いえ、骨はそのまま海へ棄てるだけですね。魔力を含んで硬化してるから出汁もとれない、使えないです」
それは良いことを聞いた。
俺は数本の骨を調べ、魔力を練って振ると。
(これは!)
手に持つ骨は音を立てながら、なかなか良い撓り具合だった。
「なぁ、これ武器として使えるかい?」
俺がアルティスに聞くと彼女は驚いた顔をして答えた。
「えっと……加工すれば使えますけど……」
「ならこれを使ってナイフか何か作れないかな?」
「……出来ます」
(なら一石二鳥だな!)
そんなやり取りをしつつ俺は彼女から鍛冶の道具を借りて作業を始めたのだが、材料が無い事に気付いたので彼女に聞いてみる事にした。
「鉄や銅等は無いのか?」
「はい、整備用の魔力鉄鋼なら在りますけど剣を作れる程はないですね」
「じゃあ、削るだけなら出来るな……道具を借りても良いか?」
「シースに話してみないとですね……ちょっと待っていてください」
そう言うと彼女は小走りで走って行った。
しばらくして彼女は戻って来たのだが、連れて来たのは先程の老紳士だった。
(上手く話をつければ良いけど)
そう思っていると彼は俺に話しかけてきた。
「初めましてですな御客人、私はこの船の航海士兼技師をしておりますシースと申します」
そう言って頭を下げて来たので俺も自己紹介をする事にした。
「俺はライルだ」
俺がそう答えると、シースは頭を上げると俺の手にある骨を見て驚いていた。
(あれ?何か変な事言ったか?)
俺が首を傾げていると彼は俺に話し掛けてきた。
「これは一体……剣ですかな?」
(まあ、こういった武器は珍しいから驚くよな)
俺がそう思っていると彼は興味津々と言った感じで見ていたので俺は彼に答えた。