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 不意に視線の先で何かが動いた様に見えた。


「……ん?」


 その時、俺は気がついた。


「あれは……人か!?」


 遠くに人の姿が見えたのだ。

 俺は急いで、その場所へと向かった。


「Gurrrr……」

「……嘘だろ」


 そこにいたのは、人型の水棲魔獣……サハギンだった。

 それも、何処かで拾ったであろう銛を持っている様だ。

 種族の特徴として最大身長は1.5メートル程で、上半身は人間に近い形をしている。しかし、下半身は魚の様な鱗で覆われており、尾びれが付いている。

 顔は醜悪で、目は血走り、口元からは鋭い牙が覗いている。

 現状の役立つ武器は、3発の弾を残したリボルバーと船に備付けられていた片手斧、肉切り包丁だが、背面の鱗に弾が弾かれる可能性が高い。正面から戦っても、勝てる見込みは薄いだろう。


 しかし、気になるのは、この場所だ。

 此処まで来て分かったが、幾つかの物資と思われる樽や木箱が崖の方に隠す様に置いてあった。

 もしかしたら、俺以外の生存者が居るのかもしれない。


(とはいえ、この状況だと逃げてるだろうな。俺も引き上げるか)


 そう思った瞬間に、サハギンが動いた。

 何かを見つけたらしい。


「Gurraa!!」

「キャッ゙!! い、嫌ぁあああ!!!」

「なっ!?」


 悲鳴の聞こえた方を見ると、一人の女性が尻餅をついていた。

 その手には、ナイフの様な物が握られている。

 だが、奴の皮膚には効果がない代物だ。


「くそっ! 間に合えぇえええええええええ」


 俺は全力で駆け出した。


「━━ッ!!」

「きゃっ」


 俺は女性とサハギンの間に割って入り、振り下ろされた銛を模造刀で受け止めた。

 無いよりはマシだと思って持ってきた物だが、中々丈夫な物だったらしい。


「ぐうっ」

「Gagggg」


 サハギンは唸り声を漏らし、力任せに押してくる。

 もしも愛剣を失っていなければ、叩っ斬る事も出来ただろうが、流石に無い物ねだりは出来ない。


「おらあっ!」

「Gya!?」


 模造刀で押し返し、怯んだ隙に腹部を蹴り、反動で下ったサハギンの鰓の近くを片手斧で何度も叩き漸く斃した。

 結果として、片手斧は凹みと刃が潰れてしまった。──もう、片手斧は役に立たないだろう……。


「はぁ……はぁ……大丈夫かい?」

「は、はい……ありがとうございます」

「良かった……さて、此処も安全じゃ無さそうだ。他の奴らが来る前に逃げるよ」

「い、嫌です。もう少ししたら、仲間が来ます。それまでは……」


 どうやら他に生存者が居るのは間違い無い様だ。

 問題は、その生存者がまともな者か否かと言った所だろうか?

 考える余裕は無いが、何とかなるだろう。


「わかった。なら、俺が時間を稼ぐから、その間に助けを呼んできてくれ」

「わ、わかりました」

「よし、いい子だ」


 俺はそう言って、女性を逃がすと、サハギンの死体と向き合った。


「さて、やるか」


 俺は模造刀と肉切り包丁を構え、新たにやって来たサハギン達と対峙する。


「GuruAAAA!」

「うおっ!」


 サハギンは、逃しても群れで復讐に来る。だが、仲間の死を嗅ぎつける事が出来る為、気配を殺して逃げるのが本来なら正解だ。

 だが、死を嗅ぎつけたのは、3体だけらしい。

 1体は雄叫びを上げながら突っ込んできた。

 俺はそれを紙一重で避け、すれ違いざまに模造刀でサハギンの喉を叩きつけた。


「Gu……ga……」

「はぁ……はぁ……次!」


 喉の近くには鰓がある。

 そこは地上で動く際にも、空気を取り込む事に使う為、一番脆い場所でもある。

 弱点だが、狙うのは難しいうえ、手持ちの模造刀では、一時的に気絶させるのがやっとだろう。

 俺は次の1体に狙いを定め、構える。すると、最後の1体が、俺の背後へと回り込んだ。


「ちぃっ」


 俺は舌打ちをして、振り返る。

 そして、サハギンが振り下ろした腕を避け、模造刀を振り上げる。


「Gya!」

「くそっ!」


 しかし、タイミングがズレた一撃は浅かった。

 サハギンの腕に傷をつけただけで、致命打には至らない。


「Gu……Gu……」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 俺は息を整えつつ、サハギンの出方を伺った。


「Gu……Gu……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 サハギンは、警戒しているのか、一定の距離を保ち、こちらの様子を伺っている。


「Gu……Guuraa!!」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 サハギンは、一定の距離を保って、こちらの様子を見ながら近づいてくる。


(不味いな……)


 模造刀で戦えるのは後2回だろう。

 それ以上になると、折れてしまう可能性がある。

 そうなれば、もう肉切り包丁以外に戦う術は無い。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「Guruuu!」


 素早い一撃が繰り出され、受け止めた模造刀に罅割れが走る。


「くっ!」


 俺は咄嵯に模造刀で受け流すが、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ!」


 地面に叩きつけられながらも、直ぐに起き上がる。

 このまま動きを止めれば、サハギンの餌食だ。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「Gu……Gu……Gyaaaaaa!!」

「くっ! まだだっ!!」


 俺は肉切り包丁を握り直す。

 時間がかかると、先に気絶したサハギンも

 起き上がる可能性が高くなる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「Gyaaaaaa!!」

「はああああああああああああ!!!」


 俺は肉切り包丁を振るい、攻撃を受け流すと剣先を口の中へ突き刺した。


「Ga!?」

「はあ! はあ! はあ! はあ! はっ!!」


 サハギンは口を閉じようとするが、俺は模造刀を捻り、更に深く差し込んでいく。


「Ga! Ga! Gya!」

「はあ! はあ! あぁぁぁッ!」


 サハギンは苦しそうに藻掻いている。

 俺は肉切り包丁の隙間から、リボルバーを挿し込み、サハギンの口腔内に撃ち込んだ。

 一瞬だけ、昔の嫌な記憶を思い出したが、引き金を引く事は出来た。


「Gya!?」

「あぁ、後は……」


 サハギンは仰け反り、俺は肉切り包丁とリボルバーを引き抜き、最後の一体と睨み合う


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「Gu……Gu……Gya……」


 サハギンは、仲間がやられた事に怒りを覚えたのか、今までよりも早く突っ込んできた。


「Gya!」

「くぅ!」


 何とか受け止めるが、勢いを殺す事が出来ずに、再び吹き飛ばされてしまった。

 そして、脇腹に痛みが走った。


「ぐうっ」


 どうやら、殺せなかった勢いのまま脇腹を抉られた様だ。

 ───熱い、痛い、苦しい。


「あ、ああ」


 口から血を吐きながら、俺は近くの岩を杖代わりにして立ち上がる。

 サハギンは、そんな俺を見て、楽しげに笑っていた。

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