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忘れ去られた楽園

『……力ガ欲シイカ?』


 唐突に、声が聞こえた。

 それは、俺の頭の中に直接響いてきた。

 俺は周囲を見回す。

 しかし、辺りは暗く、足下も見えず目の前には青々とした光だけが見えるだけだ。


『……力ガ欲シイカ?』


 まただ。

 声の主はこの光のようだが、一体何だというのか?


『……生ヲ求厶ナラバ、我を手にセヨ』

「……」


 俺に対する言葉は、俺が行動に従うまで繰り返されるのだろうか?

 それよりも、一体何がどうなっているのか思い出すとしよう。

 確か、俺は……そうだ、客船に乗って居たんだ。

 そして、夜にいきなりの嵐にあって……。


「うっ!?」


 頭が痛む。

 何か大事な事を忘れている気がする。

 なんだ? 何を俺は忘れてるんだ?


『生ヲ求厶ナラバ、我ヲ手ニ取レ』


 ああもう、うるさいな。

 俺は頭痛を堪えながら、右手を前に出した。

 すると、その手に光が吸い込まれていく。

 同時に、俺の意識は暗転した。


 ─── 目が覚めると、そこは砂浜だった。

 波の音と潮風の匂い、体にぶつかる海水の感覚で目を覚ましたのだ。

 ここはどこだろう。

 そう思いつつ体を起こすと、周囲には乗って居た船の物と思われる積荷や木片などが散らばっていた。

 岩場には船体が乗上げ、船底には大きな罅割れが見える。

 どうやら、あの嵐で船が難破してしまったらしい。

 大きな罅割れは、俺の居た部屋を通過して大きな穴を形成していた。


「いてて……」


 立ち上がろうとして、全身に痛みを感じた。

 見れば、あちこち擦り傷だらけである。

 服もボロボロになっていた。

 こんな状態でよく生きてるものだ。

 俺は自分の体をまじまじと見つめた後、ふと気がついた。


「あれは……」


 砂浜に打ち上げられた物の中に、見覚えのあるものが落ちていたのだ。それは、客船に乗った際に持っていた俺の荷物であった。

 中身を確認すると、幾つかの道具は駄目になっていたが、魔法袋は無事だった。


「これは助かった」


 魔法袋の中には、着替えや食料などが入っている。

 これさえあれば、しばらくは生き延びられるはずだ。

 それにしても、どうして俺はここにいるんだろうか。

 記憶が曖昧だ。

 乗船までの記憶に在る。

 確か……


「貴様との決着が付かぬまま、別れねばならんとはな……ライル」

「あはは、そこまで決着に拘るのなら、君の勝ちで良いと思うんだけどね」

「いいや、私は負けてはいない。だが、貴様に勝ったとも思っていないぞ!」

「まぁ、そういう事にしておくよ」

「ふん! 次に会った時は、必ず勝つからな! 首を洗って待っていろ!」

「はいはい、わかったよ。サヨナラは言わない、また、何時か、何処かで……イヴェント」


 あぁ、そうだ。俺は友人のイヴェントに見送られて、新しい地へ旅立つ為に客船に乗っていたんだった。

 それで、暫くしてから嵐に遭って……。

 そこから先は、全く思い出せない。

 どうなってこうなったのだろうか。


「然し、不味いな……武器が無い……」


 魔法袋の中には入らないから、剣は棚に掛けていたが、どうやら浜辺には落ちていない様だ。

 目の前にある物で、武器に成り得る物と言えば、枝や箱の破片に石位だろう。

 麻紐や繊維質の植物があれば、簡易的な槍か盾が作れるだろうが……流石にそんなものは直ぐには見当たらない。


「仕方が無い、先ずは役立ちそうな物を集めよう」

 俺はそう呟き、その場を離れた。


 ─── 一時間ほどかけて、俺は使えそうな物をかき集めた。

 まずは、衣服を含めた布類。

 幸いにも、幾つか流れ着いた物があり、乾かした物を幾つか裁断して包帯や三角帯の変わりを用意した。

 他にも欲しいものがあるが主に必要な物は、ロープや小さめの鍋にナイフ。

 そして、一番重要なのは、火打ち石だ。

 これが無ければ、何も出来ない。

 他に何か無いかと思い、座礁船に向かった。


 座礁した船は、岩肌にめり込む様に座礁しており、最早船としての役割は果たせ無い状態だった。

 残された船体のその殆どが、強い衝撃を銜えられたのか、歪み変形していたのだが、中には、無事な部屋が6室程残っていた。

 ……変わりに凄惨な現場もあった。

 船員や他の乗客の死体だ。

 本当に、この人達はあの嵐で死んだのだろうか?

 妙な事に、死体には幾つかの人工的な打撲傷と切傷があった。


「……くそっ」


 俺は吐き捨てるように言い、死体の一つに近寄った。

 その男は、腹に大きな穴が空いていた。

 恐らくは、この男が船長なのだろう。

 腰には鍵束とリボルバー式の銃があったので、拝借しておく事にした。

 振出し式のリボルバーだったが、シリンダーの中は3発しか残されて居ない様で、他に弾は持っていないようだ。

 もしかしたら船長室にあるのかもしれない。

 他の死体も見てみたが、皆、同じ様な傷を負っていた。


「……一体、何に襲われたんだ? 本当にただの嵐だったのか?」


 思い出せる記憶を頼りに考えてみるが、やはり思い出せない。

 ただ、何か恐ろしいものを見た気がするのだ。


「うぅ……頭が痛むな」


 何か大事な事を忘れている気がする。

 それが何かはわからないが、何か大事な事を忘れている気がするのだ。


「……とりあえず、今は生き延びる事を考えないとな」


 俺は自分に言い聞かせ、次の行動に移った。

 ───


「よし、これで暫くは大丈夫だろう」


 残った部屋から集めた食料を魔法袋に入れて、他の道具や武器を甲板に並べた。

 武器と言っても、飾られていた模造刀や、対海賊用の刺叉、片手斧に肉切り包丁だ。

 何も無いよりはましだと思うしかない。

 何も持っていない状態で、野獣や魔物と対峙したらひとたまりもないだろう。


「さて、これからどうするか」


 正直、行く宛は無い。

 友人達は、既に別の大陸へと旅立っていると思っているだろう。


「どうしたものかな……」


 そう思いつつ、魔法袋の中を確認すると、一枚の手紙が入っていた。


「これは……」


 それは、イヴェントからの手紙だった。

 イヴェント・ティール。

 彼は俺の友人で、俺が旅立つ切っ掛けを知る人物でもある。


「ふむ……」


 手紙にはこう書かれていた。


『ライルへ お前がコレを読んでいる場所は、新大陸だろうか、それとも野宿だろうか。

 どちらにせよ、私はもうそこにはいない。

 私が居ない間に、不摂生をするは構わない。

 だが、私より先に死ぬのは許さないぞ。

 何時か、お前との決着をつけるからな!!』

「……ふふっ、相変わらずだな」


 俺は思わず笑ってしまった。

 イヴェントは、今回、俺が軍を辞め新天地を目指す旅に出ると言った時も、最後まで反対していた。

 だが、最後には折れて、こうして送り出してくれたのだ。


「……そうだな、あいつとの約束を守らないといけないな」


 俺は決意を固める。


「取り敢えず、当面の目的は決まった」


 そう言って、俺は立ち上がった。


「生きて、生きて、生き抜いてやる!」


 俺はそう叫び、拳を突き上げた。

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