プロローグ
そこは緑が溢れる国だった。
なんでも季節はほぼ春と秋を繰り返し、夏と冬が無い。
地球において夏と冬が起きるのが自転軸の傾きによるものならば、今いるこの世界、この惑星の自転軸は傾いてないのかもしれない。
それとも科学を超えた、もっと不可思議な、人智を超えた何かが働いている世界なのか。
ーー案外、後者なのかもな。
海原は目の前の光景を見て、そう思わずにはいられなかった。
それは、樹の城だった。
木造の城、ではない。
一本の巨大な樹木と、数多の樹木が意志を持ってるかのように複雑に絡まり、城を形作る尖塔、バルコニー、階段を形成し、誰もが頭に思い浮かべる西洋の城を模したかのように、形作っている。
いや、むしろこの樹の城を模して作られたのが地球の城なのではないか。
それほど荘厳で、そして緑の光が溢れる城だった。
「カイヴァル、いつまでも見惚れてるなよ。この城がお前を受け入れるか決まったわけではないんだ。安堵するのはまだ早いと知れ」
後方から厳しい言葉をかけられたが、その言葉の声音から自分を心配しているのが伝わってくる。
優しく、善良な人だ。
もっとも、人間かどうかは不明だが。
海原を嗜めたのは一見すれば人間の女性、しかし良く見てみればどう見ても二足歩行する猫だ。
人間の部分も、猫の部分も両方残した人だった。
声音と体付きから女性、さすがに雄と雌で表すのは躊躇う。
「分かってる」
海原は自分の手にかかってる手錠に目を落とした。
それも樹木でできている。
ただし、樹を切り出して作ったのでは無い。
自分の両手に絡みつくように、八の字に絡まっており、そこから一本の蔦が伸び、猫のヒトの手が握っている。
自分がこの不可思議だが美しい世界で、虜囚となっている事実を改めて確認した。
「では行くぞ」
猫の女性が、海原の手錠から伸びる蔦を引いた。