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風見詩舞葉の日記

アタシは自分の名前があまり好きじゃない。


まず漢字が狙いすぎてどうなのかと思うし、画数が多すぎてひたすらめんどくさい。

なんだよ、詩が舞う葉って。葉のように舞う詩ってどこのシンガーソングライターだよって思っちゃう。

しかも読み方が「シブハ」はちょっとないと思う。子供ながらにブがつくのは嫌だし。よく馬鹿にされた。


名前のせいなのか小学校ではあまりぱっとしない毎日で友達もそこまでいなかった。

こんなんじゃダメだと中学に入ってからは一生懸命メイクを勉強し、オシャレに気を遣うようにした。


自慢じゃないが容姿には自信があり。ちょっとメイクをすればすぐにクラスで1番2番に可愛いといわれるようになったし、めちゃくちゃ告白されるようになった。

するとそれがほかの子にとっては気に食わなかったらしく徹底的にハブられるようになった。

だから中学3年間は見た目とは反して暗い記憶しかない。


見た目ギャルだけど頭には自信があったし、中学は勉強しかすることなかったから地元ではかなり良い高校に入ることができた。そこでは中学の反省を踏まえて最初から人気のグループに入る事で力をつけることにした。これが良かったのかハブられるということはなく1年目は終わった。


そして2年生になったときにあの男に出会った。


「へぇーシブハって読むのか!面白いな!」


そう言って無遠慮に近づく彼は自信に満ち溢れた顔をしていた。


それもそのはずで、成績は学年トップ、運動能力も運動部のエースと肩を並べる実力でどの部からも引っ張りだこ。

親も有名企業の取締役で、自身も既に起業しているとか言う噂もある。

しかも容姿もイケメン高身長で何だこのハイスペック野郎、こんな奴が現実にいるのかと思ったが目の前に現れたのだからしょうがない。


当然女子からはモテモテだったが(既にサキと付き合っていたが)アタシは興味がなかった。ていうか最初はちょっと苦手だった。


だがあの男のさらにスペック高いところは何もしなくても人が集まるというところかもしれない。

なぜかわからないけどいつの間にか話題の中心になっているのだ。例えば誰かがケンカをしてクラスの雰囲気が悪くなりそうになった時にあの男が話をしだすといつの間にかクラス全体で笑いが起き、いつの間にか喧嘩をしていた2人が仲直りしている。もはや神様なのかとも思ってしまう。


必然的に彼はクラスの人気グループに入る、その結果なんとか人気グループに入り込んだアタシはちょっと気まずい思いをしながらも彼と友達付き合いをすることになる。

気まずいと言ってもアタシが一方的に苦手を感じるだけで普通に喋るし、むしろ会話は弾む。なんなら他の人と喋って若干拗れそうな時にいつのまにか彼が引き継いで整理していたりする。


そんな彼だからアタシが無理しているのはすぐに気づいていたのだろう。


ある時急に彼と2人きりになった。

確かサキやリュージが委員会にいってて一緒に帰るために待っている時だったかも知らない。

珍しく無言の時間が数刻続いたかと思った時に彼が唐突に話題を振ってきた。


「なぁシブハ、お前ドドランボーやってるよな?」


はぁ!?


「えっ!?はっ!?アリトなんのことぉ!?」


ドドランボーとはスマホのアプリゲームでアタシが今ハマってるどころか沼ってるタイトルだ。実はみんなに内緒にしてるがアタシは重度のゲーオタで廃課金勢だ。なんせ中学校は友達がほとんどいなかったからゲームする時間しかなかった。

だけどそんな情報は誰も知らないはず。なぜ彼が?


「な、なんのことかわかんなぃしー、アリトどーしたの?」


「いや、焦りすぎだろシブハさんや。別に隠す必要ないだろ?お前アカウント名『シブシブ』にしてるからわかりやすすぎだよ」


「なっ!?そーいうアリトこそなんでアタシがドドランボーやってるの知ってるのよ!」


潔く降参した、別にウソついてもしゃーないし。

すると彼は某名探偵が犯人に証拠を突きつける時のようにポーズを(それいる?)とり言い放った。


「ふっ!何を隠そう『アリキチ』は俺だ!!」


なっ!!

ここ2〜3週間ほどアタシに絡んできてるアカウントがアリトだって!?

『アリキチ』は課金重視のこのゲームでは珍しくほぼ無課金でトップランカーと肩を並べてるある意味アタシ達の界隈では話題の変人だ。最初はウザ絡みしてきてめんどくせーなと思ったけどそいつもこのゲームだけじゃなくアタシの好きなゲームもやり込んでてめちゃくちゃ話が合って最近は意気投合してパートナー組んだりしてた。



「えっ!?ちょっ!?あんたが『アリキチ』!?なんで?」


「実は俺もゲームが3度の飯より好きだ!」


「いっがーい!アリトそんな事全然話したことないじゃん!?」


「サキとかはゲームあまりしないからな。だからいつか誰かと話してやろうとシブハと2人っきりの時を狙ってたんだ」


それからサキ達がくるまでアリトと怒涛のゲーム話に火がついた。


途中アリトがポツリと

「誰しも自分の中に意外な一面を持ってるよな。たまにはそれを曝け出せる相手や場所があると楽だよなー」

キザなセリフだとは思ったが、それがアタシの心を大分軽くしてくれた気がした。


そこからはアタシ自身でもわかりやすいと思いながらも、アリトと大分打ち解けていった、サキの彼氏だから特段何か思うわけでも無かったがリュージも含めて大体4人でよく遊んだ。


アタシにとっては人生で一番楽しいと言える時間だったこのまま卒業までみんなで遊んで、卒業後同窓会とかであの時楽しかったねーとか話すのかなとか漠然と考えていた。


それが全て異世界転移で台無しになった。



転移してすぐはパニック。何がどうなったのかもわからない。先生もクラスを落ち着かせることもできずに涙目だった。


アリトがいつもと変わらないかのように自然とリーダーシップをとってくれなければアタシ達は恐慌状態になっていたかもしれない。


その次に急に魔王を倒せなんて言われ不安ばかりが募った。

とにかくアタシ達は言われるがままに動いていった。


素質とかスキルとかわけわかんないものを言い渡され、魔王討伐に向けた訓練。いつからかクラス全体がおかしくなってきた。


男子連中は威圧的になり、女子は傲慢になり、素質やスキルで上下関係ができてくるようになった。

そして誰よりも変わらずいつものままだったアリトは急に城から出て行った。


あれだけ仲良かったリュージやサキとも一緒になる気がせずちょっと便利くらいのスキルしかないアタシは時々国からの用事をこなすようにした。


そしたら城のすぐ近くの街にアリトがいた。



「おま、シブハ?なんで?」


こんな時だと言うのにアリトの驚いた顔は新鮮でめちゃくちゃウケた。


アリトはこの国から出ると言う、そして現実世界に戻る方法を自力で探すのだと。

すごくアリトらしい、異世界にいってもアリトはアリトのままなんだなと思った。


だからアリトについていくことはアタシの中では確定したことだった。


なのにアリトの奴アタシからも逃げようとしたからむかついたのでちょっかいかけることにした。


「間違い?おこしちゃえばいーじゃん♡」


こんな恥ずかしいセリフ言って顔真っ赤になってないか不安だった。



だけど彼は指一本もアタシに触れずにその夜は終わった。



やっぱりDか。

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