校長の話と幻の虫ーside U
モヤモヤぐるぐる考えながら、2日目がやってきた。
話しかけたいとは思うんだが、何て話しかければ良いのかもわからず、勘違いかもって思ったら辛くなってきて、怖いやら恥ずかしいやら、何だか変に浮ついた様な焦った気持ちになる。
でも隣のクラスを覗くのとかは、何か色々いっぱいいっぱいなので、そんな事したら不審な動きをする自信しかない。
なので、廊下の真正面を見据えて隣のクラスの前を何度か素通りすると言う閃きを敢行した。
たまにチラッとみえた瞬間、顔が熱くなる。
あ。かわいい。
赤くなってたあの時の、彼女の顔が頭に浮かぶ。
かわいい。
その日も何の接触もなく3日目が訪れた。
相変わらず今朝も何もない。
いつも通りの朝だ。
実はあの出来事は全部、俺の妄想だったのではないだろうか?
今日は朝礼の日である。
俺を含めた全生徒は、体育館に各クラス男女2列づつに並んで突っ立って、死んだ魚の目で校長自慢の良い話
「【たい】ではなくの【だ】の決心」
を、今日も披露されている。
勝ちたいではなく、勝つんだ。
やりたいではなく、やるんだ。
なりたいではなく、なるんだ。
だろ?毎回語るなこのすだれハゲのおっさんは。
先週の朝礼でも言ってたの忘れたのだろうか?
話長ぇなと、思ってたらフッと気づいた。
待てよ?これクラス順に並んでるよな。
って事は…隣のクラスは俺の横…。
軽く顔を向けて彼女を探す。
俺の右隣に同じクラスの岩口。
そこから斜め右前に、同じクラスの橋本さんと渡辺さん。
さらにその右に隣のクラスの男子2名が並んでる。
そして、その隣に。
居た…。結構近い…。
気持ち顎を上げてリラックスした感じで立ってる。
え。かわいい。
おっさんの話が素通りしていく。
かわいいな。
あ。瞬きした。
わ。かわいい。
俺の事好きって。ほんとかな。
お。前髪触った。
サラサラしてそう。
ハウったマイクの音が通り抜ける。
かわいいな。
ぼけーっと眺めていると、ふわりと彼女の首が動く。
そして、目が合った。
やばっ!
焦って超高速で逆方向に顔を逸らしてしまった。
隣の岩口がビクッとする。
顔にジワジワ熱がこもっていく。
心臓がバクバクうるさい。
頭の中がぐちゃぐちゃする。
まずい。とんでもなく、怪しい動きを、してしまった。
自然に!前を!向かねば…!
ゆっくりと顔を前に戻しながら、でも、何だか恥ずかしいのか何なのか堪らない気持ちになって、少し下を向く。
岩口が「どしたん?」と小声で聞いてきたので、いや虫が…と渾身の誤魔化しで煙に巻いた。
小さく深呼吸をして、横目でもう一度。
チラッと彼女を窺う。
口元で少しはにかみながら俯く、耳の赤い彼女が見えた。
放課後は勇気をだして、彼女に話しかけるんだ。
そう、決心した。