報告の夜ーside S
塾を終えて急いで家に帰る。
自転車を止めてただいま〜と言いながら玄関にはいると、おかえり〜と言う、母の返事が聞こえた。
ただいま〜と返事をして部屋へ向かい、塾バックを壁に掛けた後に、スマホのメッセージアプリを開く。
山ちゃんから返信が来ていた。
》重 大 発 表 ?なに!聞きたい!》
《21時頃で良い?ご飯食べる《
夕飯を食べ終わる頃の時間を返信した。
》ok!私も食べてくる》
約束を取り付けたのを確認して、スマホを切って居間へ向かった。
母は、テーブルに夕食を並べている。
今日の夕飯は、親子丼とサラダらしい。
カウンターに置いてある箸と味噌汁を運びながら母に尋ねる。
「ねぇ、お風呂は少し後で入っても良い?」
「良いけど、それならお風呂上がったら栓抜いて洗剤掛けて出てね。」
「わかったー。」
テーブルに味噌汁とサラダと親子丼が並んだ所で「いただきまーす。」と夕飯を頂いた。
ーーー
ご飯を食べ終えて、少し急ぎめで自分の食器を洗ってから、ガラスの器に入れたミカンの缶詰を持って、自分の部屋に戻る。
クッションに座り、ベッドの脇を背もたれにしてミニテーブルにみかんを置いた。
準備万端。
スマホを手に取りメッセージアプリを開いて、山ちゃんにパンダが電話を持ってるイラストのスタンプを送信した。
数秒して、スマホがブーブー揺れる。
ー着信 山ちゃんー
通話ボタンを押して山ちゃんと繋がる。
ーどうも。こんばんは。山本です。本日は重大発表との事でワタクシ山本、正座をして今この時を待っておりました。ー
なんて言うから笑いながら、「それはそれは。大変長らくお待たせ致しました。」と返した。
ー もー!そーゆーのいいから!なになに?早く言ちゃいなよ!ー
と山ちゃんが急かす。聞く気満々で待ってくれたみたいだ。
ガラスの器のみかんをフォークに刺して口に運ぶ。
「実はね、今日の学校の帰りにさ。前を宇知山君が歩いてたのさ。」
ーうん。1人で?ー
「ううん、吉田君が一緒。」
ーふんふん。で、どした。カッコよかったって?ー
ふふふ。って山ちゃんが揶揄った様に笑う。
私もふふふって笑いながら、何か照れてきた。
あの時を思い出してジワジワ顔が熱くなる。
口元がにやけてきた。
「うん。カッコよかったのよ。でね、うわぁラッキーって思って見てたの。したらね、途中で吉田君が離脱して。」
ーふんふん。ー
「そしたらさ、宇知山君が1人で歩いてるじゃん。」
ーふふふ…そりゃそうだわ。ー
「でさ、周り見たら誰も人居ないの。歩いてるの私と、宇知山君だけなの。」
ーうん。ー
「何かさ、どうしようどうしよう!って。こんな状況もうないかも!って思ったらさ。何か頭がぐるぐるしちゃって。」
ーほう?ー
「でさ、何かよく分からないまんまさ?気づいたら呼び止めちゃってて。でさ、宇知山君振り向いてさ。どうしようどうしようってパニックになっちゃって」
ーおおぉっ!うん。ー
「だからね、そんでね。」
ーうん。ー
「告白しちゃった。」
ー…。…。えっ!?ー
「だからね。告白したの」
ーえぇええぇえええ!!!ー
山ちゃんが大声を出した。
山ちゃんは、何!ちょっと!さっちゃん!なんと!とスマホ越しに騒いでいる。
一通り騒ぎ終えた山ちゃんは、神妙な声で聞いてきた。
ー…それで?宇知山君は…?ー
恥ずかしくなってきて声が小さくなってしまう。
「俺でよければ…、って。」
やまちゃんの、きゃー!やったー!って叫び声が聞こえる。
ーおめでとー!それって!もー!さっちゃーん!!やったじゃん!ー
やまちゃんの興奮した声が聞こえた後、やまちゃんママの「アンタ!声でかいよ!」と言うお叱りの声が遠くに聞こえた。
「やまちゃん。ありがとう…どうしよ…めっちゃ嬉しい…」
ー私も嬉しい!やったよやったね!頑張ったよぅ!ー
山ちゃんが小声で返す。
しばらく2人で喜びを噛み締めて、今までの色んな話をした。
ガラスの中のみかんは、もうシロップだけになって、器の周りの水滴がミニテーブルを濡らす。
ワクワクした感じのやまちゃんから「んで?明日からどーすんの?」と聞かれて、はっとした。
そうだ!
どうしようどうしよう。
どうしたら良いんだろう。
恥ずかしすぎる。
でも、でも私から言ったんだし。
えぇ。どうしよう。
話しかけるなんて、想像しただけで頭がパーン!ってなる。
どうしようどうしよう。
いや。どうしよう。
パニックになり始めて、山ちゃんに相談しようとした時に、部屋がノックされた。
ドアの外の母は「明日も学校でしょ?そろそろ風呂入んなさいよ」と呆れた様に言った。
今日の山ちゃんとの通話はお開きだ。
お風呂で、明日はどうしようどうしよう…と頭が一杯で、お風呂を上がった後、栓をぬいて洗剤をかけるのを忘れた私は、翌日の朝母から5日間の夜スマホ通話禁止を言い渡された。