初恋の始まりーside U
告白された男の子サイドのお話になります。
夕焼け空が雲を赤く照らす。
部活を終えた俺は、たまたま同じ時間に鉢合わせた陸上部の吉田と合流した。
今度の花火大会一緒に行こうぜーとか、今日部員の誰々が屁をこいたのがとんでもなく臭かったんだが、何を食ったら1番臭い屁が出るのか?と言う実にくだらない話をしながら帰宅していた。
そして、ゆで卵が一番臭いのでは?と言う結論に至った所で、吉田は「じゃーなー」と言って片手を挙げ、道路を渡って行く。
俺らの帰宅が一緒なのはここまでだ。
これから塾だと言ってた吉田は小走りで、防音壁がついた高速道路にかかる歩道橋に向かっていった。
なんとなく目線で見送ってから、帰路に着く。
腹が減った。
育ち盛りなのだ俺は。
身長はクラスで2番目にチビだがな。
確か、菓子パンあったよな?夕飯前に食べよ。などと考えて歩いていたら背後から呼ばれた気がした。
気のせいか?と思ったが、首だけで後ろを振り向いたら、女子が走ってきていた。
え?なに。
待ってって、俺だよね?
え?なに。
確かあの子は隣のクラスの…。
マラソン大会とか球技大会とかで、「頑張れー」とか応援してた感じの明るい子。
ソフト部だったかな。
我がクラス男子によるクラス別可愛い女子ランキングで6組の2位の子。
あと、前にクラスの渡辺さんに謎に彼女について知ってるかと聞かれた事があったな。ちょっと意味がわからんかったが。
少し短めの髪を外ハネにしてて、俺より少し小さい可愛い子。
え?なに。
なんか落としたのかと思って、ポッケをゴソゴソしたけどそもそもポッケに何も入れてないわ。
??と疑問に思ってたら、目の前に彼女がたどり着いた。
走ってきたからか、息が上がってて俯いてる。
何だ何だ?
どした?
と、気軽に聞きたいけどコミュ障なので言葉が出ない。
女の子。恥ずかしい。
すると突然
「好きですっ!ずっと好きでした。
付き合ってください!」
と、わりと大きめの声で言われた。
…え?
……え??
一瞬頭が真っ白になった。
遅れて、何を言われたのかを理解して、ジワジワと顔に熱が集まるのを感じた。
目の前で女の子が俯いてる。
え。可愛い。
なんか返事しなきゃ。
え。可愛い。
耳も首も真っ赤になってる。
え。なに。かわいい。
へんじしなきゃ。
顔が熱い。
あまりにびっくりして、頭がぐちゃぐちゃになって言葉がうまく出ない。
気の利いた言葉なんか出ない。
口元に手を当てて絶句していると
恐る恐ると言った具合に彼女がゆっくり顔をあげた。
顔が真っ赤になってる。
耳も真っ赤。
眉毛が下がってて、目が潤んでて、上目遣いでゆっくり見上げてくる。
え。なに。やばい。可愛い。
かわいい。
彼女が目をつぶって軽く深呼吸をした。
かわいい。
はやく返事をしなきゃ。
へんじを。
「「あ…。」」
タイミングが合ってしまって2人で黙る。
お互い恥ずかしくて顔が見れなくて俯く。
彼女が、こちらを見て軽くうなづいて、先を促してくれた。
意を決してへんじを…
「俺なんかで…よければ…」
モゴモゴと語尾が小さくなった…。
チラっと彼女をみると、目を見開いて驚いた様な顔をした後、顔を覆って大きくため息を吐いて座り込んでしまった。
え。なにそれ怖い何か変だったか?
一瞬怯んだ俺に向かって、彼女は真っ赤な顔でふにゃっと笑ったあと
ありがとう。嬉しい。じゃあ。
と言って、ダッシュで走って行った。
かわいい。怖い。
通学カバンを斜めがけにして、サブバックを胸元に抱きしめて、防音壁のある高速道路にかかる歩道橋を一段飛ばしで登っていく。
それを目で追いかけて、熱くなった顔に手を当てた。
吉田との花火大会はキャンセルしよう。
家に帰ったら家族に顔を見られる前に、顔を洗ってさっさと部屋に閉じこもって、布団を被ってバタバタすることになりそうだ。
きっと俺の顔は真っ赤になっている事だろう。
でも夕焼け空がきっと、俺の顔も赤く照らして誤魔化してくれてたと思いたい。