初恋の情景ーside S
水色の空がオレンジとマゼンタに煌る。
部活帰り いつもの通学路。
1人、十字路を渡って進む。
左側のガードーレールの内側、車屋が並ぶ前を歩き、真新しい大規模マンションの前を過ぎた。ふと顔を上げると20メートル程前に、背の低い男子と背の高い男子が並んで歩いている。
目を丸くして、左側の男子を見た。
急に顔が熱い。
2人は歩きながら、何やら楽しそうに話している。
何を話しているんだろう?
チラチラと時折、笑った横顔が見えた。
脳に心臓があるみたいにドクドクと音が頭に響く。
顔は、まだ熱い。
男子2人が片手を挙げて別れた。右側の男子は、道路の右側に渡って行く。急いでいるのか小走りで走って行った。
その先にある防音壁の着いた高速道路を、歩道橋で渡るのだろう。
あいつは私と同じ方向。
1人になった彼を見る。
通学カバンを肩にかけて歩いていた。
周りを見渡してみると、他には誰もおらず、この道を歩くのは私と彼だけだった。
なんだか恥ずかしくなって俯いた。
頭が茹だったみたいになってきて、ソンソワと、いてもたっても居られなくなる。
隣のクラスだし接点なんて、ない。
でも、私なんか、だって
纏まらない思考の中「こんな場面2度とないかもしれない。私を認識して欲しい」と言う気持ちが芽吹いた。
瞬間。
私は走り出していた。
ーーねぇ待って!
首だけで一度振り返る彼。
私を見てから、どうしたんだろう?と言う顔をしたまま体ごとこちらを向く。
呼び止めてしまった。
どうしよう。恥ずかしい。何を話そう。どうしよう。私のこと知らないよね?どうしよう。いきなり何を話せばいいんだろう?どうしようどうしよう。
ぐるぐるした頭のまま、彼の前に辿り着いてしまった。運動部なのに、たったこれだけの距離でビックリするほど息が上がっている。きっと顔は真っ赤だろう。
そして息を切らせて下を向いたまま…
「好きですっ!ずっと好きでした。
付き合ってください!」
…何を言っているんだろう私は。
混乱する頭で考える。
恥ずかしくて怖くて顔を上げられない。
どうしようどうしよう。無理だ。
私のことなんか知らんだろう。無理だ。
返事はない。
どうしよう。せめて友達から…。
花火大会一緒にって…いや、こんな知らん女子とじゃなくて友達と行くか。
返事は要らないから、まずはお知り合いになりたいって、私の存在を知って欲しかったと伝えようと決心し、私は茹ダコの様な顔を、恐る恐るあげる。
水色の空がオレンジとマゼンタに煌る。
彼越しに見える空の端の方は紫が混じっていた。