第7話そのころ王子は②
ふたりがディヴィジョンの街のカフェで美味しいワインと食事に舌鼓を打っていたころ、王子は途方に暮れていた。
「どうしてだ。どうして、ラファエルはどこにもいないんだ」
王子は探し疲れて自室の椅子に崩れ落ちていた。思いつくところはすべて回った。あいつが調べ物をしていた王立図書館、昼寝の場所……しかし、ラファエルの幻影を追えば追うほど、彼がそこにいない事実を突きつけられて彼の心は少しずつ摩耗していった。
やらなければいけない公務もなんとかこなしたがクオリティの低さに愕然とした。今までは先にラファエルが書類に目を通して、重要な箇所にはチェックをしておいてくれて、書類の要約まで作っておいてくれたのだ。そこには詳細な指示が書いてあって、そのメモ通りに書類を処理すれば賞賛をもらえた。
だが、自分の力だけで作った書類は、すぐに欠点ばかり目についた。これではいけないと新しい書類を作り直すが、作り直したものでも明らかに変なところがある。そうこうしているうちに、いつもなら20分もあれば作れる書類に2時間以上かかってしまった。これでは、他の書類が滞ってしまう。
「くそ、こんなはずじゃなかったのに……」
焦りが生まれる。ラファエルがいなくなっただけでここまでボロボロなのだ。王子はひそかに自信を持っていた。ラファエルとは3年ほど一緒に仕事をした。だからこそ、あいつの技術や仕事のコツは盗んだと思っていた。王子の仕事の成功は、影ではラファエルの功績になっていて、あいつばかりが賞賛されることにイライラしていた。だから、そのストレスがあの場で爆発したんだ。でも、まさかここまでラファエルが優秀だったとは思わなかった。王子の最大の誤算だった。
「どうする。まだ、仕事は終わらないぞ。なのに、ラファエルは見つからない」
このままでは国務がおろそかになる。
「殿下、ラファエル様の家に行ってきたのですが、見事に引き払われた後でした。大家には『しばらく王都には戻らない。国内各地を旅して見識を広げたい』と言っていたようです」
「なんだと!!」
すでにラファエルは王都にいないという事実に絶句する。そうなれば、ラファエルを見つけることは絶望的になる。まだ、王都にいるなら連れ戻すこともできるが地方に行ってしまえば探すことも難しい。
早く戻ってきて欲しいとさきほどまで思っていたからこそ絶望は深くなる。
もう、ラファエルは戻ってこない。そして、自分はこれからラファエルの仕事分も加えてひとりでやらなければいけない。
「くそがあああぁぁぁあああ」
王子は絶望して、机を強く叩く。
だが、机に八つ当たりしてもラファエルは絶対に帰ってこない。王子は静かに絶望していく。




