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第27話シーフードバーベキュー

「お怪我はありませんか、お嬢様?」

「ええ、ありがとう。大丈夫よ」

「申し訳ございませんでした。私がお嬢様を待たせてしまったから」

「そんなことないわ。少し怖かったけど、あなたが絶対に助けてくれると信じていたから」


 ラファエルは、マリアを安心させるために彼女の両手を優しく包んだ。少し肌寒い海風からお互いを守るように体温を交換する。


 マリアの心臓の鼓動は少しずつ早くなる。


「さあ、少し場所を変えましょう。さすがに、伸びている男たちを見ながらランチでは、無粋です」


「そうね。安心したらお腹が空いちゃった」


 マリアは、少しだけ残念な気持ちを抑えて、ラファエルの提案に同意する。


「(本当ならもう少しだけ手を握っていて欲しいのに)」

 そう本心では思いつつも、マリアは笑ってごまかしていた。


「さぁ、こちらです」

 そう言ってラファエルは、マリアの手を導いた。彼女の歩幅に合わせてゆっくりとその場を離れる。


 だが、ラファエルは彼女の手を離そうとはしなかった。不安でいっぱいの彼女を慰めるためか。それとも、自分の好意を彼女に暗に伝えるためか。または、そのどちらもなのかはわからない。


「あっ……」

 マリアはてっきり手を離されると思っていたので、思わず声をあげる。

 だが、その声を聴いて笑顔で振り返るラファエルは、彼女の手により力を加えた。「もう少しだけこのままです」と彼が言っているように見えた。


 マリアはその笑顔に答えて、自分もしっかり手を握った。


 ほんの数分間だけだったが、彼らは恋人のようにお互いの手を握り続けた。


 ※


 ふたりは名残惜しそうにゆっくりと手を離すと、ベンチに座った。

 ラファエルは手に持っていた料理を彼女に差し出す。


 長い殻と白くて宝石のような身。それをしっかりと焼いていて、周囲は海の美味しい香りに包まれる。


「それでは、まずはこちらをお食べください」


「これは?」


「焼き牡蠣オイスターです。こちらのウィスキーをほんのり垂らすと最高に美味しいので食べてみてください」


 そういうと、ラファエルは、小さな容器に入ったウィスキーをカキに振りかけた。

 彼が持っているウィスキーは海沿いで作られた特にスモーキーなものだ。香り付けには、海藻を焼いたピートが用いられている。その潮の風味と甘みがある上品なウィスキーの味が、カキのクリーミーを引き立てて甘みまで引き出してくれる。


「美味しい。普通に食べるよりも甘さが濃縮されて、より海のうまみを引き出してくれている」


「これは漁師さんから聞いた美味しい食べ方なんですよ。仲間内でワイワイお酒を飲むときに、こうやっておつまみにするそうです」


「すごい。やっぱり、専門家はすごいわね。それにしても、王都で飲むウィスキーよりもさらにスモーキーだわ。これもやっぱり、土地柄なのかしら?」


「そうですね。ここのウィスキーは、麦芽を乾燥させるのに、海藻が含まれる灰を使っているそうです。海の近くじゃなければ、手に入らない材料なので、ここだけのものらしいですよ」


「そうなのね。ディヴィジョンの街では、ワインが文化に根差していたけど……ここは本当に海の街なんだ。なんだか感動しちゃうわ」


「それだけではありませんよ。こちらのエビの塩焼きも食べてみてください」


 ラファエルからは大きな焼きエビを渡される。


「あのこれ、ナイフとかないと食べにくいと思うんだけど?」


「大丈夫ですよ。お嬢様。海の男たちは、この大きなエビを手で直接食べるのです。郷に入っては郷に従え。そちらの方が美味しく食べることができますので、試してみてください」


 彼女は、やはり貴族のテーブルマナーに反することに少しだけの躊躇ちゅうちょを感じながら、恐る恐るエビを口に運ぶ。エビは焼きあがったばかりで、熱々だ。こちらも最高の匂いが食欲を刺激する。


 殻を丁寧に取り除いて、大きくプリッとした身にかじりつくと、濃厚な海のうまみ。そして、それをしっかり引き立てる塩。


「この塩は、塩の花を使っているそうです」


「塩の花?」


「ええ、何でも塩づくりの終盤で、海水にふわりと浮く塩のことで、栄養が満点で最高品質の塩らしいですよ。それを魚と交換することで安く手に入れているらしいです」


「そうなんですか!」


「やはり、海の近くはこういう産業が発達しているんですね。自分も屋台の人たちに教えてもらってばかりです」


 二人は、先ほどの出来事を忘れて、自分たちの時間を分かち合っていく。


「そうだ、マリア様。今回の宿ですが、海辺のコテージを借りることができそうですよ!」


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