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第21話次の場所へ

 公爵家のパーティーも終わり、二人は宿の方へと戻った。公爵家が部屋を貸してくれると言ったのだが、丁寧に断ったのだ。


 この街で過ごす最後の日は、ふたりだけで終わりたい。そんな気持ちをふたりは共有していた。


 帰りの馬車でふたりは話し始める。


「お嬢様。明日はどこに向かいましょうか?」


「そうね。ワインを堪能したり山々の美しさも見れたから、次は正反対の場所がいいんじゃない?」


「というと?」


「海が見たいわ。南の街に行ってみましょうよ」


 彼女は楽しそうに提案する。


「いいですね。お嬢様は行きたい場所はありますか?」


「そうね。シーセイルの街がいいかな?」


 彼女は、この国で2番目に大きな街の名前をラファエルに伝える。

 シーセイルは、古都でもあり王国の中でも最も古い街のひとつだ。内海の隣に位置し、港湾都市として発展してきた。ディヴィジョンの街が陸運の重要拠点なら、シーセイルは海運の街だ。


 港での交易は、この国の経済を支えている。


「いいですね。では、明日の朝にでも出発しましょう。ですが、お嬢様。ディヴィジョンからシーセイルは馬車だと2日はかかりますよ。野宿をすることになるかもしれませんが……」


 ラファエルは、貴族でしかも公爵家の当主に野宿をさせてしまっていいのか悩んでいた。たしかに、男性の貴族なら軍事指導者としての側面もあるので、日ごろから狩りなどを通して野宿することには慣れている。


 だが、マリアは女性だ。それもつい最近まで王太子の婚約者だった女性なのだ。


 さすがに、野宿は嫌がると普通は考えるだろう。だが……


「いいわよ。実は夢だったのよね。野宿って。さすがに、女の子だからお父様たちは許してくれなかったから。余計に憧れていたのよ。ねっ、お願いだから明日はそうしてほしいわ」


「わ、わかりました」


「実は、小さい頃はおてんばで有名だったのよ、私?」


 そう言うと二人は笑い始める。ふたりはこの数日間でさらに打ち解けていた。


「そうでしょうね。そこまで私のことを《《信頼》》してくれているなら、言うことはありません。わかりました。野営の準備をしておきます」


 しかし、ラファエルのこの発言は、彼女にとっては少し失言だった。マリアは、少しだけ恨めしそうにつぶやく。決して、彼には聞こえないように小声で……


「信頼、か。たしかに信頼しているけど、あなたになら少しくらい裏切られたっていいのにな」


 マリアはほんのわずかな期待を込めて明日を迎えようとしていた。


 ※


―王都王宮(数日後)―


「聞いたか、グール男爵の話」

「ああ、聞いたぜ。なんでも、公爵領で逮捕されたんだろ」

「なんか、後ろにはかなりの大物がいたって噂だぜ」

「なんだよ、怖いな」

「内務省の情報局とかが陰で動いているとか」

「あの、国王陛下直轄部隊か? 指揮官の局長が誰かもわからないんだろう?」

「ああ。所属している人間は一切公表されていないし、誰が指揮を執っているのかも内務卿すら知らない。知っているのは陛下だけだな」

「もしかすると、国王陛下派と王太子派がきなくさくなるかもな」

「王太子殿下もなぜ、やぶへびみたいなことしたんだろ」

「その殿下だけど、この前、大臣たちとの会合をすっぽかしたそうだぞ」

「なんだよ、それ」

「それに、新しい婚約者のミーサ子爵令嬢だけどさ。かなりやばいやつらしい」

「やばいって?」

「なんでもわがまま放題で、誰の言うことも聞かないそうだ」

「ああ、聞いたよ。この前、侍女が殴られて怪我したそうだよ。かわいそうに」

「マリア公爵、帰ってきてくれないかな?」


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