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第20話王子の堕落

 王太子は、ひとりで部屋に閉じこもっていた。執務も手につかない。なぜならば、先日、親衛隊への命令が気がかりだからだ。


「男爵領の特定箇所の処分と証拠の隠滅」


 この時間であれば、部下たちは仕事を終えたはずだ。違法の薬草畑は灰となり、博士を含めて真実を知っている者たちは皆殺しだ。


「(俺が……俺が殺人を命じたのか?)」

 王太子は、後悔と罪悪感で眠れない日々を過ごしていた。だが、もう命じてしまった以上、取り返しはつかない。だが、そうしなければ自分が処刑されるのも目に見えていた。


 仕方がなかったんだ。俺が死ぬのは、国家の損失だ。王位継承権の頂点が処刑されれば、王朝の断絶もありうる。だから、代わりにあいつらが死んでくれたんだ。そうだ、遺族を手厚くもてなせばいい。そうすれば、死んだ奴らも許してくれる。


 そう必死に思いこもうとしていた王子だったが、猛烈な吐き気に襲われてどうすることもできない。すでに、数日間ろくなものを食べていない。だから、空腹の胃は何も吐き出さずに、ただ苦しいばかりである。


「何を迷っているのだ。国家元首となれば、若者たちを戦火に向かわせる決断をしなくてはいけないのだ。その練習だと考えればいい」


 そう叫んでワインをがぶ飲みした彼は、まるで10歳は年老いたように見えた。

 王子が口に出した例も、はたから見れば寒い言葉だ。


 一方は、国家を守るため、家族を守るために戦場の兵士を送り出す国王。

 他方は、自分の私欲を優先し違法行為をした上に、罪を部下にすべてなすりつけて保身に走った挙句、部下たちを口封じしようとする王太子だ。


 比べるのもバカらしい。


「殿下。ただいま、戻りました」

 親衛隊の部下たちは帰って来た。


「それで、どうだった……」


「命令通り、男爵領の処分は終わりました。目標は全員、排除してきました。問題ありません」


「生き残りはいないよな」


「はい。20人すべて抹殺しております。もう、あの件については、我々以外は真実を知る者はいなくなりました」


 部下は淡々としながら冷酷に状況を報告した。

 それが彼にとっては死刑宣告のように聞こえた。ミーサの言うとおりだ。もう後には引けない。覚悟を固めないといけない。


 手が震える。気持ちを抑え込もうとワインをグラスに注ごうとするが、手が震えてしまい机を汚してしまう。


「殿下?」


「すまないがひとりにしてくれ」


「わかりました」


 部下が部屋から消えると、王太子は容器から直接ワインを体に流し込む。


 そして、空になったワインの瓶を床に叩きつける。


「くそおおぉぉぉおおおおおお!!!」


 ここで彼は痛感していた。ラファエルとマリアがどんなに大きい存在だったか。彼らにどこかで相談していればこうはならなかったはずだ。すべては自分が浮気相手のミーサの甘言にのせられたことが大きい。


「あのふたりのせいだ。あのふたりが、俺を裏切ったから!!」

 だからこそ、ふたりに責任を背負わせなければ、自分の心が守れなくなっていった。


 そして、王子は精神的なストレスと過度な疲労から意識を失った。


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