恋をしない理由(1/2)
俺の父は仕事一筋で母は少し寂しがり屋の普通の主婦だった。
俺が子役を辞めたころ、付き添いだった母は父と一緒にいる時間が増えていった。
それは喜ばしいことであり、当時の俺は家族で一緒にいる時間が多くなると期待を膨らませていた。
しかし、俺の付き添いとはいえ、芸能界で夢を見た母はおかしくなっていたのかもしれない。
家で母は日に日に不満を募らせるように父にあたることが多くなった。
ため息や父の陰口から始まり、ちょっとした口喧嘩。
それは以前から始まっていたような最近なような、綺麗な水を入れた生き物の水槽が、徐々に濁っていくようにジワジワとした感覚。
今思えば、文化や価値観の違いで戦争が起こっているのに、家庭内がみんな幸せになれるわけがない。
距離感が近いほど相手のことをよく知り、いい面も悪い面も見ることになる。
問題は悪い面をどう捉え、受け止めていくことができるかだと思う。
2人はそれができなかったのだろう。
俺は自分が子役を辞めたことが悪いと考えた。絶対にそうだとは言い切れないが、原因を作ったことは間違いない。
だから、仲を取り持とうと子供ながら努力した。それでも、あまり意味はなかった。
結局、父は母から逃げるように家を去っていった。
疲れ切った父が最後に言い残したのは、「ごめん」の一言だけ。
俺が子役を辞めたからこうなってしまったのか、辞めなくても結果は変わらなかったのだろうか分からない。
ここまではきっと、よくある話だ。
※※※※※※※※※※※※
文芸部の部室に戻ると愛生がスマホをいじっていたが俺を見ると飛び付く勢いで寄ってきた。
「しゅんちゃん意外と早かったね〜なんて怒られたの〜?」
「怒られてねーよ。ていうか樹はどこいった?」
「え〜どっかいっちゃたよ〜」
樹が愛生に気を遣ったわけではないだろうが、愛生と2人で仲良くしてる絵は想像がつかない。
「ふーん、そうか」
と言いながら俺は椅子に腰掛けて弁当を開けて食べ始める。
「で〜何で呼び出されたの〜?」
「あ〜〜会長から生徒会に入らないかって誘われた」
「え!?生徒会!?居眠りしすぎて、死体って言われてるしゅんちゃんが〜!?」
愛生は口に手を当てて驚く。
「ちょっとまて!俺そんな風に言われてるのかよ」
思わぬ呼ばれ方に俺は食べる手を止める。
インドアだから肌は白めかもしれないがそれはないだろ!
「だってみんな言ってるよ〜。いびきや寝息1つたてないし、死んでるみたいって〜」
俺寝てる時そうなってるか。人に迷惑をかけない良い睡眠じゃないか。
でも、浅い眠りしかできていないのかと、自分の睡眠状態に対して少し不安になる。自分の寝てる姿を客観視して想像したら死体と呼ばれるのも頷ける。
「マジか、病院行った方がいいかな」
「その時は深嬢医院をよろしく〜」
「まぁ気が向いたらいくわ」
ちなみに、愛生の父親は医者で深嬢医院の院長だ。俺は風邪をひいた時はよく行っていた。
俺は話題を逸らしつつ、再び弁当を口にかけ込む。
「そんなことよりも生徒会に入るの〜!?」
机の向かいに座っている愛生は身体を前のめりにして聞いてくる。
「会長に頼まれたから、手伝いからってことで今日の放課後にまた生徒会室に行くことになったよ」
「ふぅぅん〜」
ジト目で愛生は俺を睨む。何か気に入らないことがあるのか?
「なんだよ」
「会長の頼みなら聞くのに、私の頼みは聞いてくれないんだ〜」
「頼みってなんだよ」
「私と付き合って〜」
「それはない」
む〜〜〜と愛生はより不機嫌な表情をする。ありえないものはありえないし、俺は曲げるつもりはない。
なんで愛生とそういう関係にならないのか。それは家族間に大きな問題がある。
俺の父と母が離婚した後、母は精神的に病んでいた時期がある。
それを見かねてか隣の家に住んでた愛生の父親が診てくれることになった。
しかし、そんな診察の時、母は愛生の父を誘惑し、愛生の父親を、他人の旦那を襲いかけたのだ。
襲いかけたということから未遂に終わったのだが、その場を目撃したのは愛生の母だったのだ。
そこから先は誰が想像しても修羅場になることは予想できる。俺は母が深嬢家の玄関で土下座しているのを学校帰りに見かけた。
母さんが愛生の母から荒れ狂う暴言を浴びせられていて、激昂した表情はいつもの優しい顔を見る影もない。
全て鮮明に覚えているせいで、俺からしたらトラウマに近い。
激昂する愛生の母に、俺はどうしていいかわからなかった。
そこで、母さんをいじめないでと抗議したら愛生の母にぶたれて石の壁に頭を打ちつけられた。
その時の額の傷は今でも残っているし、愛生の母親の殺気に満ち溢れた顔は俺の記憶力抜きにしても忘れるわけがない。
不倫によって人生を棒に振った人気俳優。父と母の離婚。 母が既婚男性に迫ったこと。
全ては人が恋をするせいだ。
恋が人を狂わせ、人生を歪ませる。一度味わったら依存してしまう。
まるで、学校で学んだ薬物と同じじゃないか。
だから俺は恋愛なんてしない。
ましてや、娯楽のために恋愛をするなら、そんなものは辞めてしまえ。
そんないきさつがあって、俺は愛生の告白を断り続けている。
仲良くしていることが愛生の母にバレたらなんて言われるかわからないが快く思わないことは明確だ。
「私の押しには頑に断るのに会長だったらいいんだ……」
「話の方向性が違うだろ」
(続く)
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