子供に下品なネタをやらせるのは面白い(1/2)
生徒会室に向かっている時に、俺は怒られる原因を考える。まぁ怒られると決まったわけではないが、そうしていないと落ち着かない。
授業中に毎回寝ていることか?それは教師が怒ることであって生徒会ではないだろう。仮にそうでも、厳重注意で終わるし1番気楽だ。
じゃあ、愛生が寮に出入りしているバレたのか?それも辻褄が合わない。それなら、愛生と俺の2人が呼ばれるはずだ。
しかも、生徒会は新設されたこの学校では多忙と聞いている。そんな中、俺になんの用だ?
まさか俺に隠された能力があって、とか!?それとも約○のネバー○ンドとか、食糧○類みたいに出荷されるとか!?
いろいろ妄想を膨らませるが、結局のところしっくりくるものはなかった。
俺は生徒会室の前まで来て、ドアノブに手をかける。教室とは違う重い扉は異質な雰囲気を醸し出す。
俺は意を決して扉をノックする。
「入ってくれ」
声に促されるまま俺は生徒会室に入る。
生徒会室には手前に長机があり、窓側には大きめの机と椅子があった。きっと奥の机は生徒会長のみが座れるのだろう。
「よくきたな。時透くん」
外を向いていた椅子が回り、そこにはティーカップで優雅に紅茶を飲んでいる神宮寺先輩がいた。
腰まである輝く黒い髪に黒い瞳。その厳格な振る舞いは育ちの良さを感じさせる。
「どうも、こんにちは」
慣れてないやり取りに俺は少し緊張してしまう。
「来てもらって悪いな」
「会長直々に何の御用ですか?」
「そう焦るな。茶でも出すぞ」
「昼食取る前にここ来たのでゆっくりするつもりはないですよ」
「そうか。なら早速本題に入ろう」
鋭い声音は午前中に爆睡していた俺の身体にカフェインを入れるように脳内にスイッチを入れる。
「今朝、旧校舎のトイレで私に声をかけたのは君で合ってるかな?」
俺は今朝の出来事を思い出す。まさか女子トイレに入っただけで呼び出されたのか?それならあまりにも拍子抜けだ。
「そうですけど、あれは先輩の持病とかですよね?」
先輩がトイレでゲロを吐いていた。それは普段とのギャップが激し過ぎて、同一人物とは思えなかった。
「そうだ、あの時はありがとう。礼を言う。あと、それとこのことを誰かに話したか?」
会長は目を細める。
「いやーー休み時間はずっと寝てたんで、話してないっすね。なんなら、クラスの誰かに聞いてみたらどうですか?」
「それならいいんだが……」
会長は安堵を示す。そんなに知られたくないことなのだろう。
そういうことなら触れないでおくことが1番なのだろうが、俺は何故か無性に気になっていた。
「先輩は男性が苦手なんですか?」
唐突にそんなことを聞くと、会長は少し驚いたように目を開き、淡々と聞き返す。
「なんでそう思う?」
「今朝会長が手を握られたらトイレに行ったのを見ました。そこで、初めは潔癖症だと思いました。でもこの生徒会室はどう考えても潔癖症の人が我慢できると思えません。だから可能性として、男が苦手だと思いました」
元校長室らしいこの部屋は一見すると華やかで綺麗だ。しかし、床の赤いカーペットは少し汚いし、掃除はお粗末だ。
そんな人がこの部屋でティータイムをするとは考えにくい。
「正解だ。私は男性恐怖症なんだ。でもこのままにしたくなくてな。克服したいと思っている」
なんとなく腑に落ちた気がする。会長は辛いことだろうと乗り越えようとしているのだ。
俺はそんなことはしないで、ただ逃げてきた。向き合うことすらしなかった。
だからきっと俺は会長を知りたいと思うし、どうなっていくのか気になったのだろう。
「そこでだ。君、生徒会に入らないか?」
関心していたのも束の間、会長はとんでもない提案をしてきた。
「は?なんでそんな話になるんですか?」
「君は私の秘密を知った。野放しにするより、近くにいた方が私は都合がいい。それに生徒会は人手が足りないし、これからは男手がどうしても欲しくなる。副会長の望月や書記の権正は頑張ってくれているが、限界がある」
アンナって生徒会だったんだな。
「いやですよ。正直、めんどくさいです。生徒会ってめっちゃ忙しいんですよね?」
「そんなことはないさ、ただ、人数が少なくて仕事を掛け持ちしているだけだ。新設されたから立候補なんてする奴は少なくてな」
「いくら会長の頼みでも……」
「残念ながら君に拒否権はない」
先輩はスマホを取り出し、動画を再生する。それはキノコの被り物をした子供のダンス動画だった。
「君だよね?天童春って子役」
それは俺の子役の時に踊っていたダンス動画だった。しかもネット上で話題となった放送事故。
「い、いや〜……よく分からないっすね……」
俺は誤魔化そうとするが会長は攻める手を止めない。
「このキノコダンスは滑稽だなwwww子供にやらせるものじゃないwww」
これは普通のダンス動画じゃない。キノコの被り物をした子役の時の俺が茂みに見立てた穴にハマってしまうのだ。
しかも、その時はどんな偶然か白いペンキが置いてあり、俺と被り物を白くした。忘れるわけがない、最悪の黒歴史。
コメント欄には
「放送事故ガチ草wwww」
「キノコはまだいいがこれは確信犯www」
「子供に下ネタやらせるのは流石におもろいwwwww」
だのと、言いたい放題である。
こんなのがバレたらクラスでは笑い物だろう。それだけならいい。
ただ、これを文化祭とか何かの一発芸としてやるのは死んでも断る。死ねないけど。
受け入れてネタにすることも考えたが、高校生活を真っ当に過ごすなら絶対に知られてはならない。
「その反応を見るに、やはりあってるようだな。すぐに入れとは言わない。手伝いでいいんだ。頼む」
弱みを握っているのはこっちも同じなのになんなんだ。なんで俺は押されているんだ。