やっぱりツンデレのデレは正義
意識が朦朧とする中で、隣の机から手頃な物を探す。
ハサミでもシャーペンでも何でもいい。本気で首に突き刺せば出血で死ねる。
そして、ペンを手にしたと同時だった。
顔に強い衝撃が走り、気がついたら俺は床に尻をついていた。
「馬鹿じゃないの!!簡単に死ぬとか言うな!!」
痛みと叫声で正気に戻ると、泣き顔で息を荒げているアンナがいた。
どうやら相当な勢いでビンタされたみたいだ。
「本当に馬鹿!!」
「……馬鹿なら、死んだ方がいいだろ」
「そういう問題じゃない!なんなの!!」
「俺はお前に、やってはいけないことをした。それだけで十分だろ…」
「ウザい!しつこい!死んで逃げようとするな!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
アンナの怒鳴り声で、何かがプツッと切れた気がした。
呼応するように感情を露わにし、怒号を飛ばし始める。
「あんたなら上手いことやれるでしょ!」
「上手くやろうとしたさ!でも……もがく程に、何かを失い続けるなら…………もうどうにもならねんだよ!!」
「そんなにどうしようもなくて、死にたくなるくらい辛いことなら、話してよ!」
「そんなの意味ねぇ!」
「意味なくなんかない!」
「なんでそんなことが言えんだよ!顔と身体くらいしか取り柄のないお前なんかに!」
「それでも!!何とかする!!」
「どうやって!!」
俺の問いに、アンナは一瞬息を詰まらせ、先ほどまでの威勢を無くして顔が曇る。
上から目線で言うだけ言って、全てただの去勢だ。
「……何とかする」
「は?」
「私が絶対に何とかする!」
アンナは自信に満ちたように言う。
「…………どうやって……?その根拠は……?」
「そんなのない!!」
「はぁ?話にならねぇ」
「話は今からする!」
「………………」
わけがわからない。
なぜ軽々しく、どうにかできるなんて言える。
何も知らないくせに……。
それでも、なぜか根拠のない自信だけはあるよう。
物語なら、圧倒的に主人公の発言だ。
「あんたは難しく考えすぎなのよ!絶対そう!」
「俺だって……楽になれるなら……そうしたい。でも、今の俺が何を言っても、多分信じてもらえない。変な薬をしたって思われるのが落ちだ」
「私は、あなたの力になりたいの。吐き出したいものがあるなら、出せるだけ出した方がいいの。そのくらいしかできないけど、少しは私を信用して欲しい」
「でも、俺は……」
「もう……うっさいなぁ」
アンナは俺の話を遮ると、座り込んでいる俺に身を寄せて、静かに抱きしめた。
じんわりと身体を包む熱が、ぐちゃぐちゃの思考をクリアにしていく。
「あんたは難しく考えすぎ。恋愛観とか、記憶のこととか、一人で考えるから捻くれるのよ。一人で全部抱えなくてもいいの。それを私に教えてくれたのは、他の誰でもない。あなたじゃない」
聞こえる方の耳元でアンナは囁く。そうえいば、アンナには記憶のことを以前話したことがある。
あの時は、確かにアンナを信頼したんだ。
「でも……俺は……怖いんだ。もし……また……何かあったら、きっと……立ち直れない」
「大丈夫、なんとかする」
「信じてくれるのか?俺がどんな突拍子もない話をしても…」
「信じるわよ。全部嘘だったとしても、私が馬鹿にされて、あなたが少しでも笑ってくれるなら、それでいい」
抱き寄せる力が増して、アンナから覚悟のようなものを感じた。
顔色なんか見かくても、疑いようもない。
「馬鹿だな……ほんと」
「よく言われるわよ。特にあなたに。そうだ……」
「痛ッ痛い!!」
アンナは両腕で俺を締め上げる。
「「顔と胸しか取り柄がない」って言ったことは、許してないから」
「ごめんて!」
「で、愛生さんと何があったのか、詳しく聞かせなさいよ」
「ちょっと待って」
アンナは俺から離れようとしたが、今度は俺からアンナを抱き寄せる。
「ごめん。もう少し、このままでいいか」
「少しだけなら……」
「ありがとう」
俺は声を殺して泣いた。
※※※※※※※※※
目が覚めると、俺はベッドで横になっていて、側にはベッドを机代わりに突っ伏して眠っているアンナがいた。
久しぶりに悪夢に魘されずに眠れたおかげで、頭が軽くなり、体調がだいぶ良くなった気がする。
時刻は朝の5時半。
アンナが夕方ごろに来ていたから、俺は10時間近く眠っていて、この間、アンナはずっと俺を見ていてくれたことになる。
「ん……なんだ。やっと、起きた」
眠そうに目を擦りながら、アンナは起床する。
「俺を運んで寝かしてくれたんだよな。ありがとう」
「そうよ。大変だとは思ったけど、あんたが思ったよりも軽かったから案外余裕だったわ。ちゃんと食べてなかったんじゃない?」
「あーーー、まあ色々あって……」
俺が目を落として言うと、アンナは溜め息をつく。
「そんなんだから、情緒不安定になるのよ。軽くだけど、朝食のために作ったから、少しでも食べなさい。卵焼きとベーコンくらいしかないけど」
「…………アンナって、マジで料理できたんだな。こういうの下手だろ」
「調子はいいようで安心したわ。普通にムカつく」
「おかげさまで」
「まぁいいわ。もちろん最初は失敗したわよ。でも頑張ったんだから」
「スッゲェな〜、そのモチベ。どこから来るんだよ」
俺の何気ない一言に、アンナは恥ずかしげに顔を俯かせる。
「あなたの……ために、頑張ったんじゃない」
「え…………………?好きって……その……マジなやつ?」
「何度も言わせんじゃないわよ!馬鹿……!」
「てっきり、俺のために嘘をついたんだとばかり……」
「あの時の手紙、やっぱり読んでないんだ」
「ん?今なんて?」
「今は関係ないからいいの!それより、昨日言ったこと、ちゃんと話すんでしょうね!」
アンナは椅子に腰掛けると、俺も座るように隣の椅子を指差す。
「あぁ……そうだな。今はそっちか」
俺はベッドから立ち上がり椅子に腰掛けると、何から話すべきか頭を整理する。
「これは俺の夢かもしれないんだが……」
俺は語った。
愛生に殺され、なぜか巻き戻っていたこと。
それは夢かもしれないが、その度に身体の機能を失っていくこと。
聴覚の不調はイヤホンの音量を高くして耳にはめてみたり、味覚の確認のため塩を大量に口に含んだりして見せた。
アンナは否定することなく、ただ聞いてくれた。
全て話し終わる頃には、お互いに朝食や身支度を済ませていて、ついにアンナが口を開いた。
「一通り分かったわ。それが本当なら、なおさら愛生さんと話し合った方がいいじゃない」
「愛生と……話し合い……か」
正直、嫌だ。というか、俺の意思はよくても、身体が拒絶反応を起こしてしまう気さえする。
俺が震えていると、アンナは俺の手を取って、真正面から目を合わせて言う。
「大丈夫、私もいるから。愛生さんを一人にしなければ、事故だって防げるはずだし、仮に愛生さんが死んで変になったとしても、事前に話してれば殺人なんて起こりっこないわよ」
「そう……かもな」
「そうと決まれば、登校して早速愛生さんと話し合いしないと!ほら、行くわよ!」
アンナはそのまま俺の手を引っ張って玄関へ促す。
いささか楽観的な考えかもしれないが、たぶんそれしかない。
「ありがとう、色々」
「ほんと、世話が焼けるんだから」
「アンナに諭される時が来るなんてな」
俺は久しぶりにドアノブに手をかけ、太陽の光を浴びる。
「あ、それと、あんたには関係ないと思うけど一応。ちょっと屈んで」
「おい、なんだよ」
「髪よく見せて」
「え?なんで?」
俺は玄関のドアを開けたままその場に屈むと、アンナは俺の髪を触って観察する。
「なんか、ソウス対象者の中で、心身に傷を負ったりすると髪の色が若干薄くなるらしいのよ。YouTubeで言ってた情報だから、ただの噂半分だけど。あんたは大丈夫そうね」
「今さらYouTube見始めたのかよ。真面目か……よ……」
「どうしたの?」
「それ、噂じゃないとしたら……」
「え?」
愛生の髪色は徐々に薄くなっていったのを覚えている。
身体に傷を負うことで狂ってしまうなら、狂ってしまう前兆は髪色に現れるんじゃないか?
いつから愛生の髪は薄まっていったんだ?たぶん、俺がループした7月よりもっと前……。
もしかしたら、最悪なことは既に起こっているんじゃないか!?
「誰?うちの生徒みたいだけど」
アンナが俺の後ろを見て、不思議そうに首を傾ける。
目の端で捉えた姿は、色素の抜けた長い白髪以外は見慣れた背格好。
手には長物のハンマーを持っていて、大きく振りかぶりながら近づいてくる。
それは俺が日の光の前で最後に見る、愛生の変わり果てた姿だった。
投稿が遅くなり申し訳ございません。
お楽しみいただけたら幸いです。
次回は私が書きたかった部分ですので、お楽しみに。




