リアルなツンデレはどう考えても好きになれない
会長とは色々あったが、俺は何事もなかったかのように自分の教室に入る。
取り繕われた普通の高校生活。
不死身にも関わらず、その片鱗を誰も見せることはない。
俺の席は教室の窓側の真ん中。席につき、バッグから教科書を取り出そうとするが
「やべっ教科書忘れた…」
最初の授業は国語。普段なら授業開始する数分前に教科書に目を通してn度寝にふけるのが俺のルーティン。
俺は見たら覚えられるので、演習問題だろうと答えられなかったことはない。
ただ、寝るための自分ルールとして教科書とノートは必ず開く。
これは先生が巡回した時に「やる気ありますよ」というアピールを兼ねている。
そうすれば、真面目に働いている教師に罪悪感を感じずに済む。
「まぁ教科書ないのはいいとして、内容を頭にいれておきてぇな」
とはいえ、寝ることに変わりはないから特に意味はない。
ただ、この2ヶ月で獲得したルーティンを変えるのは気持ちが悪い。それは歯磨きをせずに寝るのと同じだ。
俺は今、教科書に一瞬でも目を通さなせれば安眠できない身体になってしまった。どうにかして一読して眠りにつきたい。
しかし、同じクラスの愛生は女子生徒に囲まれて話しかけれず、別クラスの樹は1限目から体育でもう外に出ている。
また、俺には他クラスの友達がいないため、教科書を借りることができない。
授業開始まであと数分。気は乗らないが隣の席のこいつに見せてもらうしかない。
「なぁ、ちょっといいか?」
「なに?」
怪訝そうな顔をするクラスの委員長。
権正アンナ(ごんしょうあんな)――金髪碧眼のショートツインテール。中学3年のころ俺の通ってた学校に転入してきて、最後の一年だけ同じクラスだった。所謂、知り合い以上友達未満の女子。
母親が外国籍で父親は日本の弁護士らしく、整った目立つ容姿をしていて、クソがつくほどの真面目ちゃん。
それと言い忘れていたが、制服越しでもわかるほどに胸が大きい。
クラスで見かけるまで、こいつもソウス(超再生細胞症候群)だとは思わなかった。
「悪いんだけど授業始まる前に教科書見せてくれないか?」
「はぁ?授業中はどうするのよ?また寝るなら見せないわよ」
権正は俺をジロリと睨む。
授業中に毎回寝ている俺が気に入らないようだ。そして、前々からどうも当たりが強い。
「おぉ……う」
「それに今日は授業の最初に漢字のテストがあるのよ。500個の中から100問でるの。あなた勉強してる?」
たしかに、周りを見渡すと殆どの人が漢字帳を開いて勉強している。
「いや、全くしてないな。というか今初めて知った。まぁいけるだろー」
俺は机の中から漢字帳を発掘しページを開いて目を通す。
「あなたやればできるのに、なんでいつもやらないのよ」
「できる奴ができたら当然って思われるけど、できない奴ができたら賞賛されるだろ。だったら俺は後者を選ぶ。期待されないことが1番楽なんだよ」
権正はさらに目を細める。
「その考え……納得いかない……」
「お前はそうだよな」
権正のノートをチラリと見る。
何度も反復して暗記した漢字が記されてあり、数日前から努力してきた形跡が窺える。
「そんなことより教科書忘れたんでしょ。委員長としてあなたの居眠りは見過ごせないし机寄せなさい。教科書くらい見せてあげるわよ」
「え、、、、それはやだな」
「なんでよ!?」
「だって寝れないじゃん」
「あんたを寝かせないためでもあるのよ!」
「やだな、権正さん。隣で寝かせないだなんてッ」
俺が気持ち悪い言い方をすると、権正は拳を握りしめる。
「一回死にたいの?」
「すみませんでしたぁぁ!!」
中学生のころ一度殴られたことがあるから俺にはわかる。こいつは本気だ。
「そういうことだから、早く机寄せなさい!」
「授業の始まる前に机寄せるのはおかしいだろ。テストもあるんだろ?」
「いいから!」
権正は顔を赤らめる。
何か意味があることなのだろうか。
結局、半ば強制的に机を寄せて次の授業を受けることになった。権正が浮かれてるのは気のせいだろう。
「あと、権正さんって呼び方やめてもらえる?アンナでいいわよ。さん付けもなし」
「んなこと、いきなり言われても…」
「いいから!」
「わかったよ!アン…ナ」
そうこうしているうちに、授業チャイムが鳴り響いた。
アンナは密かに笑みを溢していたが、俺は後ろの席からの殺気に近い視線に気づいていなかった。
※※※※※※※※※※※
「な……ん……で?」
漢字テストの結果、俺は余裕で満点だった。しかし、アンナはというと、
「あれだけ勉強したのに、なんで48点なの!?」
中学生から付き合いがあるからわかる。こいつは真面目だが、効率が悪いポンコツなのだ。
「その…海外の人からしたら漢字って難しいもんな。仕方ないって」
俺がそれとなくフォローするも
「生まれは海外だけど、育ちは日本よ」
おっと、地雷踏んだかもしれん。
しかし、早まるな。地雷は踏んだ時に爆発するのではなく、離れた後に爆発するものだと2chが言ってた。
「運が悪かったんだって」
「あなたの満点も運だっていうの?」
運で満点なんて取れるはずがない。俺は誤魔化すために真実を濁す。
「俺はカンニングよりタチの悪いチートみたいなもんだ」
アンナは腑に落ちないようで、悔しそうにしている。
俺は瞬間記憶のことは言いふらしていない。だからアンナや他のクラスメイトは俺が見たものを完全に記憶できることを知らない。
隠すほどのことではないのだが、知られて気持ちいいものでもない。
もしもそれを知ったら、こいつはどういう反応をするのだろう。
授業が始まり教科書を2つの机の真ん中に置いて見る。
アンナとの距離が近いせいで寝ることができず、俺は久しぶりに起きて授業を受けている。
今日の授業内容は古文で、よくある恋愛ものだった。
昔の恋愛は今よりもっと娯楽に近いものなのだろうか?
昔の貴族たちの恋文を見て何が面白いのか俺には全く理解できない。
「でも、昔の人の黒歴史って考えたら楽しいかもな」
「あんた何言ってるのよ」
アンナは板書をしながら、引き気味に応える。
「恋文を他人に見られるんだぜ?気になるあの人に向けた恋文が、1000年後に教科書にのるって黒歴史だろ」
アンナはノートに書く手を止める。
「その人に届かないよりはいいんじゃない」
アンナの瞳は哀しみを秘めていて、その横顔には苦い表情が張り付いていた。
ところでさ、とアンナは口火を切り
「あんたは…好きなタイプとかって…ある?」
と唐突にそんなことを聞いてきた。
「ドラゴンタイプかな。カッコいいし」
「誰がポ〇モンの話って言ったのよ。女の子のタイプ!」
授業中にも関わらず、アンナは食い気味に聞いてくる。いつも鉄の女とされる委員長なのに珍しいこともあるもんだ。
「強いていうなら、、、」
アンナは唾を飲む。
普段考えたこともないので、俺は考え込んでしまう。
それが焦らしているようで、アンナはモジモジとしている。
俺が考える全世界男子共通の見識というと、、、
「顔が良くて、胸の大きい女」
俺が搾り出した全世界の男性の最適解を言い切った瞬間、静寂が訪れた気がした。
しかし、それを断ち切るように俺の溝落ちにアンナのボディーブローが炸裂する。
「しね!!!!」
俺は釣り上げられた魚のように身体を痙攣させる。
「ほんとに、、、、死んじゃう……」
「おーいそこ、イチャイチャするな〜」
さすがに先生に注意され、アンナの厭悪なオーラが和らぐ。
馬鹿なことを言ったのは間違いないが、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
アンナはぽつりと
「顔が良くて、胸が大きい。ふーん」
そう呟き、ノートの続きを書き始めた。表情は見えないが、どこか喜色を表していた。
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