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アンナ1


 正しいことは綺麗。


 尊敬する父を見てたら、私は自然とそう思った。


 母は転勤が多くあまり家にいないので、父だけが私の知る大人だった。


 いつも堂々としていて、勤勉で、怒るとちょっと怖くて、でも優しい。


「正直で真面目な人が、いつか必ず幸せになるんだ。アンナもそう生きなさい」


 父の言うことを守っていれば、間違いなんてない。


 それが全てだった。


 私は父の言いつけを忠実に守り、小学校低学年の時から真面目に生きてきた。


 課題は全てやってくるし、10分前行動は当たり前(課題には時間がかかるが)


 遅刻はしたことがないし、授業中に居眠りなんてしたことがない(スマホを見ないせいで、友達と話が合わないが)


 掃除も手を抜かないし、食べ物の好き嫌いもしない。


 門限も破ったことがない(友達との遊びは断るが)

 

 だからこそ、真面目にしてこない人を見ていると腹が立つ。


 なんで宿題を忘れるの?

 なんで遅刻してくるの?

 なんで授業中なのに寝るの?

 なんで掃除をしないで遊んでるの?

 嫌いな物だからってなんで我慢して食べないの?


 違和感はあったものの、この時の私は周りと違うことをしているから偉いと思ってた。


 だって、それは正しいことだから。


 みんなはやってないこと。そんな自分は誇らしいと考えた。


 そうして小学三年生の時、私が学級委員長になるのは必然だった。


 その立場上、しっかりしてないクラスメイトには沢山注意した。


 「なんで真面目にならないの!なんでそんなことするの!」

 などなどいろいろ。


 嫌味を言われることもあったが、私が正しいから間違ってない。


 それで先生から褒められた時はすごく嬉しかった。

 

 

 けれど、私は要領が悪い。


  


 勉強はできる方じゃないし、頭の回転も速くない。


 学年が上がって勉強が難しくなると、クラスメイトとの差が次第に開いていった。


 そのことでよく馬鹿にされた。

 

「あいつ俺たちに指図するくせに、前のテスト俺と同じ点数だったんだぜwww馬鹿に言われたくねーよなーww」

 

「マジで!?それは草」

 

 焦りと不安を感じたのは、この時からだった。


 信念が曲がりそうだったけれど、真面目に生きてたら、いつか幸せになれると……そう信じてやまなかった。


 けど、本当にそうだろうか。


「なんで宿題忘れるの!なんで遅刻してくるの!学校ではスマホ禁止!」


 疑問に思ったことが悔しかった。


 周りに強く当たることが多くなった。

 


 そして、身体の変化が著しい第二次性徴期が訪れて状況は悪い方に変わっていった。


 私は発育がいい方で、男子の視線が顔→胸→髪→胸の順に向けられることが多くなり、


「あいつの胸デカ過ぎだろ」


「パイ○リされてぇ〜」


「俺たちより馬鹿なんだから、将来は身体売るしかねーじゃん(笑)」


 男子からの汚い陰口が増えた。


 私だって外見が特徴的なのは理解しているつもりだったけど、不快なことに変わりはない。

 


 そんな中、中学生になったある日のこと。


 友達だと思ってた女の子から、無視されることが多くなった。


 その頻度はとても自然に、部屋に埃が溜まるみたいに気づかないうちにじわじわと。


 原因は、その時の私には分からなかった。


 人の心が分からないのも、私の悪い所なのだろうけど、言われないと分からない。


 その時は少しショックをだったが、イジメという程のことではないと思った。


 ただ、無視されたり、グループ活動で除け者になることがあったり、通学で使う自転車がよくパンクしたりするくらい。


 また、掃除や雑務を押し付けられることもあった。


 私は、ひとりぼっちになった気がした。


 でも、私なら頑張れる。


 きっと私の背中を見て、ついて来てくれる人がいるはず。


 そう信じた。信じるしか方法を知らなかった。


 


 月日がしばらく経った中学2年生の秋頃、父から仕事の都合で転校するか決めて欲しいと言われた。


 私が望むなら、今の学校を卒業できるように、色々手配してくれるようだった。


 学校が何となく居心地が悪いと思ってたし、中学生で親元を離れるのも心配だったので、私は転校することにした。


 転校先の学校は、校則がとても緩かった。


 教師は制服を着崩している人を注意すらしないし、授業中に寝ている生徒を起こしたりしない。


 シンプルに理解ができなかったが、これはチャンスだとも思った。

 

 私は転校してすぐクラス委員長に立候補した。


 自分自身を取り戻したかった。小学生の時みたいに。


 クラスの目標として、遅刻や居眠り禁止を掲げて本気で実行しようとした。


 皆は、良い顔をしてなかったと思うけど、大丈夫。


 だって正しいことだから。きっと私の思いは伝わるはず。


 そうして思いが伝わったのか、時折、男子が手伝ってくれることもあった。


 けれど、視線が私の胸に集中していてスキンシップが多く、下心丸出しなのが分かった。


 それ拒絶したら、他のクラスメイトから段々と無視されるようになっていって、物が無くなることが多くなって……


 また、ひとりぼっち。


 誰かに求められたくて、他人の仕事をするようになって、感謝すらされなくなっていく。


 私も馬鹿になっていけない事をしてみたら、どうなるんだろう。


 真面目以外は取り柄がないのに、それを私から取ったら何も残らない。


 そもそも私、元々、頭悪いんだった。ははは。



 


 ………………………………生きているのが面倒くさいな。

大変遅くなりました。申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
[一言] アンナにもこんな過去があったなんて僕はなんてことを言ってしまったんだと思いましたでも汚して欲しいと思う自分がいる
[一言] よーしいいぞ次回でじっくり壊してくれ お仕事お疲れ様です
[一言] 男女問わず理解できる悩みを抱えながらも一生懸命頑張っているアンナが昔の自分と似ててとても共感しました。ありえない物語ではあるけれでも、現実との共通点もあるようにする、なめさんの実力はやっぱり…
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