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現実


7月19日


 愛生を突き放してから、数日が経過した。


 今日は、部屋の中からでも雨音が強いのが分かるほどの悪天候。


 適当に理由をつけて、数日は学校を休んだ。


 明日は終業式。


 だから、明日を休むと夏休みに入る。


 もう学校には行きたくないから丁度いい。


 理由は単純明快、愛生に会いたくない。


 顔を見たら、確実に吐くか、過呼吸になる自信がある。


 いつ愛生が俺を殺してくるのか分からないから……。

 


 ガタガタとしきむ窓ガラスが、無性に耳障りでイライラする。


 イライラしてイライラして、どうにかなりそう。


 試しに皿とか壊してストレスを発散してみようと思ったが、大きく振りかぶった状態でいつも手が止まる。


 バラバラに砕けるだろう破片が、俺自身もそうなることを連想して……


「ゔぅッッ――――」


 気分が悪くなり、ベッドから起き上がって、再びトイレに駆け込む。


 肉塊になった俺や雛菊がフラッシュバックしてしまい、吐く物もないのに吐き気が止まらない。


 せっかく、寝れると思ったのに……。


 記憶力の良さが俺を(むしば)み続け、目を閉じると、その度に吐き気が襲ってくる。


 食べても美味しく感じる物がないから、なんとかして胃に食べ物を入れても、味がしないからどれも不味い。


 それで吐くこともある。


 だから、1日の半分以上をトイレで過ごしていることが多くなった。


 食べ物も身体が受け付けないし、睡眠も許されないような気がした。


 逆流した胃液が食道を溶かして、胸の辺りが痛い。


 もう、どうしようもなかった。


 今は三周目。


 二周目より、状況と症状は酷くなっている。


 早くどうにかしないといけないが、その手段が思い浮かばない。


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 


 ふと、通知が来て、手元のスマホ画面が光る。


 生徒会のグループ通知では、雛菊も望月さんが俺のことを心配しているようだった。



 誰かに相談……


 信じる人なんているのか?


 信じたところで、どう対処すればいいんだ?


 信じてもらえなかったら、俺はもう、終わるぞ。

 


 ぐるぐるぐるぐる、頭の中で悪い感情が回る。


 死にたいけど死にたくない、生きたいけど生きたくない。


 どうやって死んだら楽になる、死んだら嫌だ。


 死んでしまえたら楽になるのか。

 


 もし死んだら、ループしてまた何かを失うだろう。


 今度は視力か、嗅覚か?


 痛覚や臓器、記憶とかもあるのか分からない。

 


 怖い。

 


 怖くて怖くて堪らない。


 何回か自殺をしようとも思ったが、今より酷い状態を想像すると、足がすくんでしまう。


 何でこんなことになった。俺が何をした。


 これが罰だというなら、罪はなんだ?


 生きていくことが罰なら、絶望以外に何を感じればいい。


 どうしようもないほど、不死身で不完全な身体を実感する。


 もう、楽になりたい。


 なんだよ、俺が何をしたんだよ。



 自殺方法をスマホで調べると、検索の一番上には健康相談の電話番号が出てくる。


 この電話にかければ、きっと誰が話しを聞いてくれるだろう。


 だが、この番号に魅力は一切感じなかった。


 逆に、他のサイトに目を奪われる。


 それは自殺者の死因の統計(記事は2003年)


 死因の内訳で比較的多いのは、縊首(いしゅ)、つまり首を吊って自殺することだ。


 ただ、2020年以降の同じような記事を探しても、どこにも見つからない。


 どこの県で何人亡くなっているかという数値しか出てこないため、詳しい死因を参考にすることはできない。


 俺みたいな思考の人間を思いとどまらせるためだろうか。


 余計なお世話なんだよ。


 ヒモ、またはロープ。後は、身体を吊り下げても壊れないフックみたいなのがあればいい。


 今、俺の部屋に、そんなものはない。


 買いに行くしかないが、外はあいにくの雨。


 トイレから出て、脱衣所の鏡に俺の顔が映る。


「ひでー顔」


 鏡越しの顔は、クマができていて髪もボサボサで、少し痩せていた。


 5日間、部屋から出てないから風呂も入ってないし、人前に出るなら、身なりを整えるべきだが、どうせ死ぬなら、もうどうでもいい。


 投げやりな気持ちで重い身体をどうにかして動かし、玄関の扉を開ける。


 普段より扉が重く感じられ、明らかに身体にエネルギーが足りてない。

 

 久しぶりの外は灰色の空模様。


 雨がさっきより弱くなってるから、外出には丁度いい。


 あれ?傘がない。


 コンビニか、どこかに置き忘れたのだろう。


 もう考えるのも面倒くさい。


 傘をささずに家を出ると、コンクリートの上で死骸になったミミズが目に入った。


 こいつも俺と同じで必死に生を掴もうとした結果、道半ばで(つい)えた命。


 後はアリにでも運ばれて食われるだけ。


 俺も同じ……。


 こちらに向かってくる人影を気にも止めず歩き出すと、

 

「あんた、傘なしでどこいくつもり?」


 聞き覚えのある声音がした。


 顔を向けた先にいたのは、不機嫌そうな顔をしたアンナだった。


「アンナ……か。ちょっと買い出しに行くつもりだったんだよ」


「傘もささずに?」


「なんか見当たらなくて」


「体調不良は本当みたいね。寝過ぎてバカになったんじゃない?」


 アンナは溜め息混じりに俺を罵る。


 普段なら言い返すところだが、そんな活力はない。


「そうかもな」


「――ッ」


 雑にあしらった一言が(かん)に障ったようで、アンナは歯を軋ませる。


 怒ったアンナの対応をするのは面倒だから、手早く済ませたい。


「てか、何で来たんだよ。用件は?」


 そう言った瞬間、アンナは会話を無視して俺の腕を掴むと、強引に引きずって家に戻そうとしてくる。


「あんたの家上がるから、もたもたしないで早くしなさい。風邪引くわよ」


「大丈夫だって。そもそもなんでここに…」


「プリントとか資料渡しに来てあげたのよ。それと様子を見にもね」


「別にいいって、明日があんだろ」


「うるさいわね!早くしなさい!うわ、鍵閉めてないの!信じられない!」


 アンナは遠慮なく玄関の扉を開け、無理やり俺を連れて行こうする。


 よく見ると、アンナの腕や足回りはびしょ濡れで、雨の激しい時に駅から歩いたことが(うかが)える。


 そんな大変な思いをしたのに、雑な扱いをされて怒りを買うのは当然だ。


「色々言いたいことはあるけど、それは濡れない場所で。バッグにプリントあるし、これ以上濡れたくないし」


 そうして、半ば強引にアンナが俺の家に上がることになった。


お読みいただき誠にありがとうございます。


鬱展開を書きたいとずっと思っていたのですが、いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたら嬉しいです。


書籍化に向けて頑張ろうと励んだものの、内容が内容なので、難しいかもしれませんが…(笑)


物語は完結させたいと思っているので、見守っていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬱展開、なんかさすがなめさんだなあと思うような感じでした。 [気になる点] なめさんのモチベーション [一言] 最近、高校や部活に慣れてきてライブに毎日ではないんですけど行けるようになりま…
[一言] いいぞもっとやれ! 鬱瞬記くん好きだわ
[一言] アンナいい性格してますねこういうキャラが一番病んでほしい
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