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運命の赤い糸は、いずれ絡まって自由を奪う


 運命の赤い糸は、人と人を結ぶ伝説の存在だ。


 恋人同士の小指を赤い糸で結ぶ。


 なぜ小指なのかというと、その由来は指切りげんまんらしい。


 指切は江戸時代、遊女が客への誠意の証として小指を切って誓いの証とした。


 つまり、愛の証明といってもいい。


 普通ならそれは美化され、尊いもののように思える。

 

 しかし、本当にそうだろうか。


 俺は時々考えてしまう。


 その糸によって、縛られてると感じないのか。


 それは相手を縛る「呪い」にもなりえるのではないのか。


 だってそうだろう。


 恋人がいるから身動きが取れず、本当にしたいことができないことだってある。


 結婚しても自由がない、結婚は人生の墓場、今のご時世よく聞く話だ。


 ちなみに、ヤクザの間での指切りは処罰の方法だったりする。


 だから俺は思った。

 

 そんな自由を妨げるような、運命の赤い糸なんて


 どうしようもないくらいに



 

 糞だ。


 


 ※※※※※※※


 

「ぁぁ――――………………あれ?」

 

 目を覚ますと、眼前には見慣れた寮の自室。


 エアコンの冷房が効きすぎているせいか、肌寒く感じる。


 いや、少し違う。


 俺が冷や汗をかき過ぎているせいで、より寒く感じるのだ。


「しゅんちゃん、どうしたの〜?」


 聞き慣れた声に背筋が凍った。


 俺はおそるおそる首を動かして、声の主を視界に入れる。


「愛生……か」


「しゅんちゃんの私だよ〜って本当にどうしたのさ〜?夕飯できたよ〜」


 愛生は陽気に笑みを浮かべ、いつもと変わらない手慣れた動作で、狭いキッチンからテーブルに次々と手料理を並べていく。


 サラダ、味噌汁、ご飯、カツ。


 この献立からして、今日の日付は……


「今日、何日だ?」


「え〜っと、7月14日だね〜。明日はテストだから今日はカツだよ〜!」


「そうだったか」


 今日は7月14日。


 球技大会が終わり、来週に夏休みがある。


 愛生の様子から、おかしな点は見受けられない。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」

 

 あの時、俺は愛生を助けられたと思った。


 雛菊と付き合って、それを愛生に報告した。


 そして、トラックに轢かれそうになった愛生を助けたはずだった。


 なのに、愛生は俺を殺そうとした。


 いや、殺したんだ。


「夢……じゃないな」


 夢だと思いたい。


 けれど、思いとは裏腹に、身体の震えは止まってくれない。


 俺のことを殺した人間が、目の前にいる。


 しかも、その原因がなんなのか、全く検討がつかない。


 俺は今、愛生の一挙一動に細心の注意を払わなければならない。


「??……食べないの〜??」


「え?なんて?」


「だから〜食べないの?」


「あぁ、いや食べるよ。ありがとう」


 右耳が聞こえにくい。


 それは偶然だと思いたくて、不安を拭いたくて、テーブルの料理に目を逸らした。


 色とりどりの食卓は、一人暮らしにしては豪華だ。


 確かめるようにゆっくりと箸を動かし、ソースのたっぷりのったカツを口へ運ぶ。


 衣のサクサク感と豚の弾力。


 まだ熱いため、口の中で咀嚼しながら冷ます。


 ………………なんだ??


 咀嚼していて違和感がある。


 あれ?なぜだろう。

 


 全く美味しいと感じない。

 


 皿に顔を近づけ、ソースの匂いを嗅ぐ。


 スパイシーさのようなものを感じるから、たぶん普通のソースだ。


 旨みが口の中を満たすと思っていたのに……


 美味しくない……というか形容し難い不味さがある。


「美味しい〜?」


「あぁ……」


 一周目、俺は優柔不断だったせいで、雛菊は殺され俺も殺された。


 二周目は死んでないはずの愛生に殺された。


 その間に、右耳がほとんど機能しなくなった。

 


 …………ただのストレスだと思っていた。

 


 現実から目を背けたくて考えないでいた。


「生焼けだった〜?」


 愛生は不安そうに俺を見つめる。


「いや、そういうわけじゃ……」


 考えないようにしていた懸念がハッキリと形を帯び始めて寒気がした。


 俺は必死になって、次々と口にかき込む。


 ご飯、汁物、サラダ、カツ、味を探すように全てを食す。


 何か味がするという希望を持っていたが、咀嚼する毎に考えていてた一番最悪な状況を、どうにも想像してしまう。


 たぶん、俺は死んでからループしている。


 これは絶対に夢なんかじゃない。


 記憶が間違いだなんて、俺にとっては一番あり得ない。


 どれもこれも、美味しいとは感じない。


 不安が確信に変わる。


 今の俺には、たぶん、味覚がない。


 あぁ、きっとそうだ。






 

 


 死んでループをしたら、何かを失うんだ。






 


 一回目は右耳の聴力、二回目は味覚。


 死ぬごとに明らかに死に近づいていく。


 いや、死んでいた方が、まだマシだったかもしれない。


 触覚、視覚、その他内臓の機能や果ては記憶まで無くなってしまうなんてこともあるかもしれない。


 元凶は目の前にいるってのに。


 考えがまとまってから、身体の震えがより大きくなり、呼吸もままならない。


「しゅんちゃん、本当にどうしたの?」


 愛生は心配そうに俺の顔を覗く。


 こいつが……全ての元凶だってのに、なぜこんな普通なんだ。


「……めろ」


「え?」


「やめろって言ってんだよ!!全部!!」


「い、いきなりどうしたの?美味しくなかったから、怒ってるの?」


「そういうことじゃねぇ!!」


 愛生のやってきたこと全部がフラッシュバックする。


 考えたくなくことほど、鮮明に思い出す。


 切り刻まれた雛菊。


 笑いながら、俺の頭を潰す愛生。


 無垢な表情の裏には、ドス黒い感情が蠢いてると思うと、恐怖しか感じなかった。


「もう俺に近づかないでくれ!!頼むから、もうやめてくれ!!!」


「本当に変だよ、急に。だ、大丈夫?落ち着いて……話し合えば分かるよ」


 この期に及んで……話し合い???


 何を馬鹿げたことを言ってるんだ?


 それが出来たなら、俺は二回も殺されてない。


「早く出て行け」


「え?」


「いいから出ていけって言ってんだよ!!二度とくるな!!」


 人に罵声を浴びせたのは、生まれて初めてだった。


 自分の喉から発せられた声と思えない。


 身体が自分の物でないみたいだ。


 愛生は戸惑っていたが、徐々に反応しなくなり、両目に涙を溜め始める。


「ご、ごめん……ごめんさない!」


 涙を流した幼馴染を、俺は見送ることもしなかった。



 


 俺は基本的に自分自身を達観できていると思っていた。


 そんなことは一度死んだら出来なくなるのかもしれない。


 恐怖からの防衛本能か、俺の本音か、もうどうでもいい。


 俺も死んで、狂ってしまったのかもしれない。

 


 その後、夕飯で食べたものはトイレで全部吐いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


2日連続で投稿できて嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] やばい!瞬記も感情的になってきた!どうするんだよ〜!
[一言] 本気で黒い感情を書いててこっちも逆に清々しく思えるさすがなめさん 考察 死んで何かを失うのは瞬記だけでは無いと思うんよね 今までもなんか伏線張ってたし(不死身だと思っていた、適な)だから…
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