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魔法

「中途半端な優しさは誰も幸せにならないんだよ」


 恋愛において、これはきっと正しい。


 相手の告白を先延ばしにして、友達付き合いをしていくことは良くない。


 ずるずる引きずった関係を続けることは、ブラジリアンワックスをゆっくりと剥がすように、持続的に痛みが伴うものだ。


 だから、一思いに剥がしてしまうのが一番正しいし、相手もそれを望むだろう。


 俺にはそれができなかった。


 人の嘲笑や憎悪を浴びせられるのは、俺にとって容易に一生のトラウマになり得る。


 ゆえに人を傷つけたり、ましてや幼馴染を過度に拒絶することはしないようにしていた。


 しかし成り行きとはいえ、愛生を拒否したことで、初めて気づいた。


 相手を傷つけてでも、お互い良かったと思えるような、そんな心の強さが欲しいと心底思う。


 もう思考に囚われるのは、やめだ。


※※※※※※※※※※※※


 臨海学校という名目の遊びを終え、林間学校の肝である夕方のカレー作りや、愛生の誕生日パーティーは滞りなく終えることができた。


 変化があるとすれば、愛生との仲直り(?)をしたからか、俺のプレゼントは一周目より大袈裟に喜んでいたこと。


 高級品でもないければ、手の込んだ作品でもないんだけどな。こういうのは理屈ではなないらしい。


 その後のケーキも俺たち生徒会は仲睦まじく交流ができた。


 何も、問題はない。


 あるとすれば、ロリ先生がおだてられてアルコールの摂取量が一周目より多くなっていたことか。


「私!教師なのに、ぎょゔじなのにーーー!!!!」


 泣き上戸(じょうご)の先生は死ぬほどめんどくさく、(なだ)めて寝かせるのに苦労した。


 明日は出発が一、二時間遅れるな。

 


 目をゆっくり開くと、時計の針は2本とも0時に重なりそうになっている。


「樹、起きてるか?」


 隣で寝ている樹を声をかけても、寝息だけで反応はない。


 しっかり寝ていることを確認してから、俺は身体を起き上がらせて、忍び足で部屋を後にした。


 あの人がいる場所に、向かうために。



 山の夜道を歩き、数分とたたないうちに目的地に着く。


 あの人とはそう、今目の前で、純白のワンピースを着て空を見上げている。

 


 会長だ。

 

「なんだ、時透か。どうしたこんな夜更けに」


「なんか寝付けなくて。そういう会長は何してるんですか?」


「星が見れるかと思ってな」


「そうですか。見えますか?」


 会長は空を見上げて、指差す。


「少しだけなら見えるぞ。ほら、あそこは夏の大三角形とかだな。一番星は見つけやすい。それと、月が……」


「月が、何ですか?」


「いや何でもない。月が綺麗だと言いかけただけだ」


 会長は表情を隠すように顔を逸らす。


「本当に、月が綺麗ですね」


「愛の告白か?」


「本気で告白するなら、そんな回りくどい言い方しませんよ」


「私は悪くないと思うが」


「ほんとですか?」


「カッコつけて言ってるのは論外だが、伝えたい思いをどうにかして伝えようとしている姿勢は良いことだと思う。鋼の〇金術師のエ〇ワードとか」


「「俺の人生半分やるから半分くれ!」ってやつですね。言う人間のカッコよさによりますよ、それ」


「まあ、いいじゃないか。気持ちの問題だ」


 会長は満足気に笑みを浮かべる。

 

 最近、会長は俺の前でだけ、こういう話をよくするようになった。


 アニメ、漫画の他にも、普段言わないようなネットスラングまで様々で、初めは少し動揺したが、今となっては呆れ半分でいなすことができる。


 本当の会長は、よく笑う女の子だ。


 成り行きとはいえ、俺には心を許している思うと、素直に嬉しい。


「それはそうとして」


「なんですか?」


「君は、深嬢の気持ちについて、本当はどう思っているんだ?」


「どうって、どういうことですか?」


「だから、その、プレゼント渡すくらいには、仲が良いじゃないか」


 数秒前とは打って変わって、会長は真剣に問うてくる。


 そこには切なさの混じるような呆れているような、とにかく形容し難い。


「愛生は幼馴染ですよ。好きとかそういうのじゃないです。それに、今は気になっている人もいるので」


「え?」


 会長は面食らったようで空いた口が塞がらないという様子。


「えっと、恋は愚かなんじゃないのかい?前に保健室で言ってたな」


「そうですね。今でも、そう思ってますよ。ただ、多少気が変わったんですよ」


 これは紛れもない、本心。


「まあ、気が変わってくれたなら何よりだ。流石に思想が歪みすぎだ」


 会長は戸惑っているようだったが、すぐに聞き入れてくれた。


「お恥ずかしい限りっす」


「ちなみに、私は違うと思っているよ」


 会長は続ける。


「あれから考えたんだ。恋は、魔法なんだよ」


「魔法、ですか」


「胸がときめいて、ちょっとした行為一つ一つに一喜一憂する。よく言うだろう、恋人ができたら世界が色付いて見える、と」


「そうかもですね。ただ、少女漫画の読みすぎじゃないですか?」


 俺の煮え切らない感情を読み取ったのか、会長はまたも続ける。


「愚かと言えば、今日の石黒先生は沢山のお酒を飲んでいた。身体には悪いと知っているのに。誰しもが合理的に行動する訳でない。愚かな行為ほど、いい気分になるんだ」


 饒舌なのは深夜だからか、それとも、こうも開放的な空間だからなのか。


「まさか、そんなことを真顔で言う人がいるとは思いませんでしたよ」


「私は本気だぞ」


「凄いですね、会長は。俺はまだ、そう思えないですよ」


 俺の心は矛盾している。これまでの言動、全て。


 恋愛は人を惑わせる。それが正しいのかどうか分からない。


 ただ、俺は今、毒を飲む行為を、自ら行おうとしている。


「じゃあ……えっと」


 でもしょうがないじゃないか。


「どうした?言いたいことがあるなら、何でも言っていいんだぞ。私だけ恥ずかしいじゃないか」

 

 だって

 


「じゃあ、一緒に愚かになってくれませんか」



 俺はどうしようもなく、会長が好きなんだから。

 


「…………………………それは、その。どういうことだ?」


 沈黙が羞恥心を煮立たせる。しかし、引き返すことはできない。


「俺は、会長のことが気になってます。良かったら付き合って下さい」


 夜風が頬を駆けるが、体温が下がらない。山なのに全く涼しくない。


 言ってしまった。


 俺には一周目から二周目の記憶がある。


 会長のことが気になり出していてから、ずっと見てきた。


 しかし、会長からしてみれば、林間学校の深夜に俺と話すのも初めてで、戸惑いが上回るかもしれない。


 しばらく、会長からの反応がないのが、ただただ怖い。


「会長?どうですか……って、え?」


 痺れを切らした俺が会長を凝視すると、会長は泣いていた。


「どうしたんですか!?そんなに嫌だったんですか?すみませ――」


「そういうのじゃない」


 俺が謝ろうとした刹那、会長は俺の胸で顔を隠すように抱きついてきた。


「え?は?会長、大丈夫です?」


 俺の心配に反応する様子はなく、胸から背中にかけて両腕でガッチリと胴に抱きつかれ、身動きが取れない。


 脇下の両手を(ほど)こうとしても、より力を加えられて離れられない。


「君には深嬢がいるでしょ。あんなに可愛い子がいるのに」


「そんなの関係ありません」


 俺は会長の言葉を遮って否定する。


「俺は、決めたんです。目を閉じて足踏みしてるだけを進んでるって勘違いするのは辞めようって。それで、答えは今すぐってわけじゃなくていいので、その……離してくれませんか?」


「うん、いいよ」


 普段の会長とは違う、甘い声音。


 まるで別人のようだが、今更驚くこともない。


 生徒会長、オタク気質、でも本当は男性恐怖症。アニメなら属性を盛りすぎて、きっと好きなキャラクターにはならない。


 でも、好きだ。どうしようもないほど。


 ……というか、いいよ、と言ってたはずなのに、会長は一向に離れてくれない。


「会長?離れませんか?」


「それはやだ」


「え、どういうことすか?」


「付き合うのはいいよ。離れるのはやだ」


 いつも物言いがはっきりとしている会長が、口籠るようにしていて、聞き取りづらい。

 

「今なんて言いました?」


「だから、付き合うのはいいって言ったの!最近聞き返すこと多いんじゃない!?」


 感情的に言う会長は上目遣いで俺を睨む。


 怒っているようだが、正直、可愛さが勝る。


「それは、その、ありがとうございます。それとすみません」


「謝るだけじゃなくて、行動で見せて欲しいです〜!」


 会長のテンションが謎に高い。出来上がってる酔っ払いみたいだ。


「深夜テンションで後々後悔しませんか?」


「後悔させないように、ちゃんとしてよ。瞬記」


 目を閉じ、唇を出す仕草。


 きっとそういう合図だ。


「好きです。雛菊」


 唇同士を重ねる。


 キスの味は甘酸っぱいというけれど、味なんて分からない。


 ただ、満たされた気持ちが胸を高鳴らせる。


 雛菊の両手は胴にあったが、いつの間にか俺の頭の後ろに添えられていて、離さないとばかりに長く口付けを迫ってくる。


 息を忘れるほど心地良い快楽が脳を満たす。


 このために生きてきたと思えるほど、幸福な時間だ。


 だから、木の影でひっそりと身を潜めていたあいつを、この時ですら、知る由もなかった。

お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。

約3ヶ月間全く投稿できていませんでした。誠に申し訳ございませんでした。


しかし、これにも理由があります。

今回、告白回でラブコメを進めることは私にとって、とても難しいことでした。

胸がきゅんきゅんするようなヒロインとは何か、という命題の答えが出ず、レンタル彼女やら、マッチングアプリ等を調べ、時には実行しましたが、結局何の成果も得られず、頭を抱えていました。


そこで、天才な私は考えました。

なぜ小説を書こうと思ったのか、原点に戻ろうと。

私の原点は「無性生殖を成し遂げること」


「は?」と言いたくなる気持ちはわかります。

順を追って説明します。


まず、生殖行為についてお話しします。


生物に性欲があるのは遺伝子を残すことだと思います。これは生殖の本来の目的と相違ないと思われます。


であれば、小説として、私の考え、つまり遺伝子を世に残し、子供(キャラクター)を存在させることこそ、生殖行為に他ならないと考えます。


そして、読者様からブックマークを頂けたら受精、つまり書籍化として私の遺伝子を世に残せるわけなのです。


一般的に、初めて書く作品を処女作と言いますが、まさに言い得て妙なのではないでしょうか。


これが私の考える無性生殖です。


これを考えたら、告白回など恐るに足りませんでした。


結論何が言いたいかというと、


ブックマークお願いします(土下座)

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― 新着の感想 ―
眩しい!ただただ眩しすぎます!wこの作品を鬱として読んでいたので、こんなにも甘いラブコメが読めてとても嬉しいです!気が動転した中での最悪の味を感じたファーストキスから一転して、同じ相手との味も感じない…
[一言] 本編もやばいけど、後書きがおかしくなり始めた笑 愛生が木の影から見てるなんて2人の命が危ない!またあの地獄が!
[一言] 久々に投稿したのに安定しておもろい
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