2回目の臨海学校1
8月6日。
23-24で相手のマッチポイント。
この点を取られたら俺たちの敗北となる。
ビーチバレーは21点先取らしいが、球技大会の影響や1セットだけということもあり、結果今回も25点先取になっている。
そんな大事な場面で、サーブはまたも俺。
両手でふわりとボールを宙へ置き、回転しないよう横から押し込むようにして手のひらで押し出すイメージでサーブを放つ。
砂浜で足元の踏ん張りが効かない中でジャンプするのは違和感があるが、俺にとっては二回目だからもう慣れた。
よし、いい手応え
無回転のサーブは相手コートに入ると、軌道が僅かに変わり、着地点にいたアンナの顔面に吸い込まれる。
「へぶッッッ」
「アンナたん!ナイス顔面レシーブ!」
アンナの顔面レシーブは、ネット付近にいる望月さんに高い傾きの放物線を描いていて届く。
格好は無様としか言えないが、軌道だけ見れば完璧である。
望月さんはトスをする体勢を取り、会長はスパイクを打つため助走距離を確保している。
「ひな!やっちゃえ!」
望月さんのトスは会長のタイミングで打ちやすいようにスパイカーを信頼したような高めに置かれる。
この先輩たち、何でもでき過ぎだろ。
ここまでくると、やはりどうしても勝ちたい。
会長の高く飛んでいる姿に見惚れている暇はなく、スパイクを打たれるであろう場所に、俺は前もってポジションをとる。
すると、予言したかのように会長のスパイクは俺の正面にきて、簡単にボールを捉えることができた。
「おっしゃ!樹、カバー!」
「任された、深嬢!――ってネットに近いかも!」
樹は見よう見真似でトスをするも、ネット近くにボールは行き、スパイクが打ちやすいトスではない。
「大丈夫!」
愛生も高く飛び、ネットに当たらないギリギリを攻めて、ほぼ真下に打ち付けるようにスパイクを放つ。
愛生も先輩たちに負けず劣らず、運動神経やスポーツのセンスがいい。
これは決まる、と誰もが思ったが、
「ぐぇッ」
確実に決まったと思われた愛生のスパイクは、アンナの胸に直撃。
しかも、アンナの豊満な胸はボールの勢いを殺し、またも望月さんの元へとレシーブが帰る。
「ナイス、アンナたんの爆乳」
「大きい声で言わないで下さい!」
衝撃で倒れているアンナ。
この試合、何度も何度も身を挺したレシーブでチャンスを潰されている。
「だから、そうはならんやろ」
俺が呆れ半分の声を漏らしていると、会長はすでに高く飛んでいて、望月さんのトスは直線を描き、スパイカーの手に吸い込まれる。
そして、派手にボールを弾く音と共に、ボールは地面に打ちつけられた。
「速!今の何?速攻ってやつ!?」
「無理だろ、今の」
「今のは仕方ないね〜」
樹は驚きを隠せず、俺は満身創痍で立ち尽くし、愛生は力なく笑う。
「意外とできるもんだね〜、ひなナイス!」
「れいと権正のおかげだ。権正大丈夫か?」
尻もちをついているアンナ。
会長は心配そうに手を差し伸べるが、
「もう、バレーはしません」
とアンナは今にも泣き出しそうな顔で言うのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「麦茶とスポドリどっちがいいですか?」
「私は麦茶で!」
「じゃあ私はスポーツドリンク貰おうかな〜。お金は後で払うね」
俺は手にしていた四本のボトルのうち、座っている望月さんと愛生にそれぞれボトルを手渡す。
「いいって、水の一本や二本くらい。俺と樹は試合で良い所なかったしな」
レジャーシートを敷き、レンタルしたピーチパラソルが日陰を作っているが、蒸し暑さは変わっておらず、何もしてなくても汗が滲む。
そして、残った二本は俺ともう一人の分。
「ロリ先生はどっちがいいですか?」
「気が利きますね。じゃあ麦茶で」
先生は優雅に読書に勤しんでいるようで、ロリという単語にツッコミを入れない。
ちなみに、ロリ先生は白いビーチチェアに横になって荷物番をしている。
ビーチチェアは日陰の面積を取りすぎると思ったが、ロリ先生の幼児体型がそうなるはずもない(本人には言ってない)
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。読書に夢中で水分補給を忘れてましたよ」
ロリ先生にボトルを手渡し、俺も一息つきたいところだ。
しかし、さっきから一つ問題があると思っていた。
俺の座るスペースがほぼない。
厳密にいえば、ないわけではない。
荷物を日陰に置いているため、日向以外で残ったスペースは愛生と望月さんの間しかなく、そこは限りなく狭い。
女子同士だと問題はないのだろうが、男子が女子に挟まれる構図は、男子高校生には少し躊躇われる。
こういう状況でも気にせずに堂々と座れる奴が、所謂陽キャと言われる人なのだろう。
このままだと日向で立ち尽くすしかないが、間に入るのはもっとない。
しかも、愛生はあの時から言動こそ変わらないものの、妙によそよそしくなった。
そんな中で、隣に堂々と座るのは、やっぱりない。
一周目は樹がいたから特に気にすることはなかったが、気づいてしまったら意識せざるを得ない。
間に座っても暑いだろうしなぁ。
「日陰来なよ、熱中症になるよ」
悩んでいる俺に助け舟を出したのは意外にも望月さんだった。
望月さんは荷物から何かを探しながら、愛生との間にスペースができるように移動する。
そして、日焼け止めを取り出すと、身体に塗り始めた。
それが気遣いなのか、自然に起こったことなのかは分からないが、今は凄くありがたい。
てか、肌とか気にするタイプなんだな、この人。
「ありがとうございます」
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