花より団子より愉悦4
会長は愛生から連絡が来たと言い残して、どこかに向かった。
大通りは2往復したし、路地裏まで確認したが、2人の姿はどこにもない。
これだけ探しても見つからないのは、どこか特別な所にいるのかもしれない。
こうなると頭を切り替えなければ、時間と体力の無駄だ。
そろそろ花火も始まる時間だから、とっとと合流して全て杞憂だったと思いたい。
俺は駅のホームまで戻り、荒くなった呼吸を整え、目を瞑り愛生の顔を思い出す。
黒く濁った瞳が映すのは何もなかった。
理性が欠落したような表情は、ロリ先生が言っていた〈理性的より情動的な行動を取る〉というのに説得力を持たせている気がする。
「しかも、傷害事件を起こすケース……か」
何かがあってからでは遅い。俺は考えを巡らす。
思い当たる場所はいくつかあるが、1番そうあって欲しくない最悪のケースを想像する必要がある。
となると、あそこしかない。
※※※※※※※※※※※※※※※
「こんな所で何してんだよ、愛生」
俺が向かったのは、砂埃が舞う廃工場。
そこには暗がりで佇む愛生の姿だけがあった。
「しゅんちゃん…来るかもとは思ったけど、よく分かったね〜」
「男の勘ってやつだな」
「その勘、よく外れそ〜」
実際、路地裏を必死こいて探していて、それでも見つからず、ようやく辿り着いたのがここ。
男の勘は本当に外れやすい。
「会長はどこにいるんだ?一緒にいると思ったんだが」
辺りを一見すると、暗いとはいえ誰かがいる様子はない。
隠れているなら話は別だが、こんな砂埃に塗れた場所で浴衣姿で隠れようとは思わないだろう。
そんなことを考えていると、俺の何気ない一言が気に障ったのか、愛生は苦虫を噛み潰したような顔をしているように見える。
「最初に会長さんの心配するなんて、やっぱりしゅんちゃんは会長さんのこと好きなんだね」
「は?そんなこと言ってないだr――」
「もう良いから!!」
愛生の叫びに近い物言いに、俺は台詞を遮られ言葉を失う。
「辞めてよ…そういうの」
何を?と聞き返したくなる。意味が分からない。
俺が呆気に取られていると、愛生は感情の昂るままに続ける。
「しゅんちゃんはさ、目の前の好きな異性が、別の男ばっかり目で追ってるのを見てたら、どう思う?」
「今それ関係あるのか?」
「いいから答えてよ」
愛生の口調は、浮気した男を問い詰める修羅のように俺を威圧する。
それに気圧されて、愛生を見れないまま熟考するも
「ちょっとだけ、嫌な気分にはなるだろうな」
俺は当たり障りの無いことしか言えなかった。
「まだそんな段階なんだ。拗らせ過ぎにも程があるよ」
愛生の深い溜息は、諦めを感じさせる。
「…………」
「でもね、そんなあなたが好きなの」
「は?」
「理由なんて大それたものはないの。好きだから好き。どんなカッコいい所も強い所も、ダサい所も弱い所も見てきたつもり。だからね、心の底から愛してるし、誰にも否定なんてさせないの」
なぜ愛生が今、こんな話をするのかは分からない。
ただ、言っていることは何となく分かる。
ずっとアプローチされてきたし、俺だって鈍感で難聴なハーレムアニメキャラクターなんかじゃない。
しかし、なぜ今この場で言う必要があるのか。
ロマンの欠片もなく、汚い夜の廃工場で言う言葉ではないはずだ。
「でもね、私ね、気づいたの。本気にならないと、頑張らないと、盗られちゃうって」
その瞬間、花火が上がり始め、愛生の背後から満開した煌びやかな花火が上がる。
その光に照らされて、俺は地べたの血痕に気づいた。
真新しい血溜まりと、何かを引きずったような痕跡。誰かもう1人、ここにいたのだ。
「愛生、会長はどこだ」
「他の女の話なんて、しないでよ」
「どこにいるかって聞いてんだよ」
俺の静かな怒声に愛生は怯む様子もなく、ただ淡々と愛生は言う。
「しゅんちゃんの隣にいるじゃん」
愛生の指差す先には、俺のすぐ側にあるドラム缶。
愛生は冗談や嘘をついていない。
きっと本当のことだ。だからこそ、嫌な予感が脳を支配する。
男の勘だ………外れてくれ……。
おそるおそるドラム缶の蓋を開けると、コンクリートだろうか。生々しいセメントの匂いが、不快感を促す。
ドラム缶を揺らすとドロドロの液体が半分以上注がれていて、とんでもなく重い。
一見すると、ただのコンクリートの入ったドラム缶。
そう思っていたが、再び打ち上がった花火に照らされ、顔を近づけると、そこには人の手のような物が瞳に映った。
……………………………………手?
思考が止まる。
見間違いか?
「大変だったんだよ〜。バラバラにするのとか〜コンクリート入れたりとか〜」
会長がここにいる。
ここってこの中。
ドラム缶。
手が出てきた。
何だよ、それ。
押し寄せる真実が、心拍数を上げ、冷や汗をかかせる。
逆流しそうな吐物を抑えつつ、俺はもう一度中の物を見ようとする。
本当は確認したくない。でも……
「それなら、不死身だろうと関係ないもんね〜」
コンクリートの中から、会長の頭が出てきた。
個人的に書きたいグロシーンを書けたと思ってます。
作者はそこそこ満足です。皆さんの感想をぜひお聞きしたいです。
今後ともよろしくお願いします。




